お父さんの仕事の都合で引っ越したら異世界だった⑦
そうして始まった異世界での生活。
お父さんの言う通り、学校での勉強はそれほど難しくはなかった。そもそも識字率が30パーセントくらいこの世界では、読み書きができるというだけで一つの才能だったのだ。そういうわけで、私は学校では落ちこぼれることもなく、優等生として通すことができた。
でも期待が外れたことが一つ。こっちの世界では銀髪の人は珍しくないのかと思ったのだけれど、それは違ったようだった。特に赤い目をした「ハーフエルフ」は前例がないほどに珍しいらしかった。
「勉強もできて、礼儀正しくて、加えてその可愛さ………」、「そ、そのふわふわの髪、ちょっとだけ、ちょっとだけ触ってもいい?」、「可愛らしさを司る神のいたずらに感謝します……」と、周りの子からは暖かく受け入れられてはいるのだけれど少しだけ距離があって、なんだか日本の学校よりも目立ってしまった。
学校の授業と日本から持ち込んだ自主学習セットをこなす傍ら、初級魔法のレッスンも受けてみた。ゼロから始めて一年が経つ頃には、攻撃と治癒の火の初級魔法を使えるようになった。魔法の先生が言うには、私はなかなかの才能を持っているそうだ。
日本でも魔法を使えるのかどうか、それはわからないけど、できるのなら帰ってからも一人で訓練を続けようと思った。もちろん、他のみんなにはないしょで。特別な人になら、教えてあげてもいいけど。
そんなこんなで、異世界の同級生と一緒に遊んだり、たまに冒険者とかいう何でも屋さんの手伝いをしたり、地球出身の人たち ━どうやら、飛行機でここに来たのは私達だけで、他の人たちは不思議な力でやって来た転生者や転送者、というらしかった━ に会ったりして、楽しい一年はあっという間に過ぎてしまった━
いろいろあったけど、異世界生活も今日まで。
「ばいばい、ユーノちゃん。きっと、また会えるよね!」
学校で一番仲の良かった友達、アリーナちゃんが空港まで見送りに来てくれた。
「……」
お父さんが言うには、世界間の渡航は以前よりも簡単にはなってきたけれども、それでもとても厳しく制限されているそうだ。また会える日がくるのかどうか、それはわからない。
一年前に日本を離れた時は悲しくなんてなかった。クラスメイトの友だちとまた会えると知っていたからだ。
でも今回は違う。もしかしたら、もう一生会えないかもしれない。そう思うと、自然と私の瞳にも涙がこぼれる。
「きっと会えるよ。ありがとう、バイバイ、アリーナちゃん」
そう願って、私はアリーナちゃんとお別れをした。
『地球・日本行き異世界便、搭乗の受付を開始します』
アナウンスが流れ、お父さんとお母さんが出国ゲートをくぐる。そして私の番。パスポートを差し出すと、出入国管理局の役人さんは私を見て冷たい声でこう言った。
「ユメカワ・ユーノさん。あなたの出国は許されません。あなたに与えられた役割を、果たしてからでないと」