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お父さんの仕事の都合で引っ越したら異世界だった⑤

 お父さんの故郷は、思ったよりも田舎なのかもしれない。空港から街まで、列車もバスもタクシーもないなんて。


 馬車でごとごと、舗装されていない道を一時間。私たちはようやくネウンベルグの入り口にたどり着いた。


「え……なに、ここ……」


 街に入って、気がついた。おかしい。


 外国に来るのは初めてだけど、テレビやネットで外国の街並みやそこに住んでいる人たちのことはなんとなく想像できていた。だから言える。


 ここは明らかにおかしい。旅行ガイドで読んだ第一教会やそこから伸びる大通り、橋を渡ったところにある第二修道院に中央市場、街を見下ろす要塞はそのままだ。これが中世の街並み、ってものなんだろう。


 でも、街を行きかう人たちが明らかにおかしい。顔や体格が日本の人たちと違うのはよしとしよう。この人たちの人種は何ていうのかはわからないけど、飛行機に乗っていた人たちと同じような特徴をしている。きっと、この国ではこれが普通なんだろう。


 おかしいのは、街を行きかう人たちの服装。いわゆる日常的なTシャツにジーンズといった「洋服」を着ている人が一人もいない。一番多いのはシャツにスラックスやブラウスにスカート。それもなんだか野暮ったいスタイル。他に目につくのは鎧、ローブ、ドレスやスーツ、民族衣装などなど。獣の耳や手足(?)をつけた人もいる。


 この国には中世祭りというものがあるとは聞いている。年に一回、住民が中世の騎士の恰好をして街を練り歩くのだそうだ。もしかして、偶然その日に当たってしまったのだろうか。


 なんだか不安になって、私はお父さんに聞いてみる。


「お父さん、私たち、お父さんのふるさとに来たんだよね?」


「ああ、ここは父さんの生まれ故郷、ネウンベルグだよ」


「ネウンベルグって、ドイツの街なんだよね?」


「そうだよ。わが故郷、ネウンベルグはドイツ第二の都市さ」


「ドイツって、ヨーロッパのドイツよね?クラシック音楽とかサッカーで有名な」


 私の真剣な質問に、お父さんは「なぜか」吹き出した。


「はは、何を冗談を言っているんだ。ここはドラド・イム・ツンデラ貴族制連合国、略してドイツの都市、ネウンベルグ。いわゆる異世界ってやつだな!街を治めているのは、街の名前にもなっているネウンベルグ侯だ。父さんの知り合いで、とてもお優しい方だ。いつか挨拶に行くかもしれないから覚えておきなさい。はっはっは」


 ……このお父さんは何を言っているんだろう。私はお母さんに助けを求めた。


「お母さん、私たち、ヨーロッパのドイツに来たんだよね?そうだよね?」


「あら、何を言ってるの、ユーノ。今日から一年間、私たちは異世界の街で暮らすのよ」


 空港にいたときから感じていた違和感の正体。それが今やっと、手遅れになってから明らかになった。私は、異世界の街に引っ越してしまっていた!

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