<52:あの人に勝ちたい(6)>
加藤大輔・・・陸上部員の高校2年生。
加藤大介・・・陸上部員の高校3年生。
上野正秀・・・陸上部のキャプテン。
森保・・・陸上部員の高校3年生。
安藤弘堅・・・加藤大輔の親友。
「あれっ、ダイじゃないか」
大輔が2年5組のタコス屋台で店番をしていると、陸上部の先輩である加藤と上野が通り掛かった。
「あっ、先輩。タコス、買っていってくださいよ。チリソース、タルタル、和風ソースの3種類がありますけど」
「じゃあ、チリと和風ソースを1つずつ貰おうかな」
「分かりました」
大輔は既に焼いてある生地を手に取り、トングで具材を盛り付けて行く。
「ところでダイ、怪我の具合はどうだ?」
上野が尋ねる。
親指の怪我が判明して以来、大輔は部活を休んでいた。
本人は出たがったのだが、上野からキャプテン命令で休むよう言われたのだ。
「ええ、もう良くなりました。明日からでも、部活に戻りますから」
大輔は手を動かしながら答える。
「本当だろうな。無理はするなよ」
「無理してないですよ。もうバッチリです」
「そうか、それならいいけど」
「はい、出来ましたよ」
大輔はソースを掛けたタコスをトレイに乗せ、差し出した。
「早いな。よし、加藤、ここは俺のオゴリだ」
「おっ、太っ腹だな」
加藤がトレイを受け取り、上野が財布から金を出した。
「そうだ、キャプテン、俺、長距離に転向しますから」
大輔は代金を受け取りながら、サラッと告げた。
「えっ」
突然の宣言に、上野は驚く。加藤も目を丸くしている。
「何だよ、急に」
「色々と考えて、そう決めたんです」
「だったら、俺との勝負は、どうするんだ」
加藤が尋ねる。
「ああ、それなら、もういいんです。臨時のレースをやった時に、負けましたから」
大輔はサバサバした表情で言う。
「意味が分からないな。お前の怪我で、勝負は中止したじゃないか」
「レースをしなくても、もう勝負は付いたんですよ。俺の完敗です。加藤先輩には勝てません」
(色んな意味で)
と、大輔は心で付け加える。
「だけど、本当に、それでいいのか」
「いいんです。自分の中で、もうキッパリとケジメが付きましたから」
「そうか、分かった。それなら明日からは、長距離で頑張ってくれ」
上野が告げる。
「でも、加藤先輩」
大輔は加藤を見据える。
「俺、長距離で全国トップレベルの選手になりますから。そして、いつか先輩の方が、ダメな方のカトウダイスケと呼ばれるようにしてやりますよ」
「言うじゃないか」
加藤は微笑する。
「だったら、必ず全国レベルになれよ」
「ええ、なってやりますよ」
大輔は、晴れやかな表情で告げた。
【完】




