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青春詰め合わせパック(9個入り)  作者: 古川ムウ
[学園祭]
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51/52

<51:描けない片想い(5)>

中谷悠太・・・漫画研究部の高校3年生。

野口優作・・・中谷悠太の親友。漫画研究部の部長。

大野吉洋・・・中谷悠太の親友。漫画研究部の高校3年生。

柳沢知良・・・生徒会長。

能登奈緒美・・・生徒会副会長。


 悠太は、漫研の部室に一人でいた。

 今の時間は、彼が店番の担当だからだ。

 本当はもう一人、吉洋も担当なのだが、仕事を放棄して遊びに行ってしまった。


 漫研は学園祭において、部員が作成した漫画雑誌を展示・販売している。

 中谷の受け持ち時間になってから10分ほど経過したが、まだ客は一人も来ていない。

 優作が覗きに来たが、それをカウントしても一人だ。

 開けっ放しにしてあるドアの前を通り過ぎる生徒は何人かいるが、部屋に入って来ることは無い。

 だが、客が少ないのは毎年のことなので、悠太も慣れている。



 悠太が退屈凌ぎに単行本を読んでいると、初めての客が現れた。

 「おっ、中谷じゃないか」

 知良が快活な声と共に、部屋に入ってきた。

 悠太は慌てふためいて、単行本を閉じる。

 「柳沢君、どうして?」

 「どうしてって、客が来たのに、そのセリフはおかしいだろう」

 柳沢は笑う。


 「そうだけど、ウチの漫画なんか見ても、しょうがないよ」

 「ハハッ、自分たちが作った雑誌を、そんなに悪く言ってもいいのかい」

 「いや、そうじゃなくて、柳沢君には合わないんじゃないかと思って。普段、漫画なんか読むの?」

 「漫画ぐらい読むよ。ただし、ちょっと嘘をついた。実は、新聞部の部室へ行くところなんだ。ここは、中谷がいたから覗いてみただけなんだ」

 「なんだ、そうか。そうだと思ったよ」

 悠太は愛想笑いを浮かべる。

 でも本当は、ちょっとガッカリしていた。


 「柳沢君は普段、オタク受けするような漫画なんて読まないでしょ。ウチの漫画、ほとんどが、その手の奴だからね。やっぱり合わないよ」

 「でも、中谷は写実的で昔風の漫画に挑戦したんだろ?」

 「えっ、ああ、まあね」

 「その漫画、どうなった?」

 「あれは、まだ物語を練っている段階だから」

 「いつ頃、完成するのかな。結構、期待してるんだけど」

 「そうだな、まだ分からないけど、初めてのことだし、ちょっと時間が掛かるかも。卒業までに完成させるのは、難しいかもしれない」

 悠太は早口で告げた。それは口から出まかせだった。実際には、まるで考えていなかった。

 写実的な漫画に挑戦するなんて、真っ赤な嘘だった。


 「そうか。じゃあ、卒業してから、その漫画を見せてもらうために、中谷の所へ行かなきゃならないかもな」

 知良は明るく言う。

 それは何気無く発せられた言葉だったが、悠太の心はキューンとなった。

 嬉しさと切な差が入り混じった感情が、彼の中でグルグルと渦を巻いた。


 「あの、柳沢君」

 悠太は、うつむき加減で口を開く。

 「一つ、ちゃんと言っておきたいことがあるんだけど」

 「んっ、何?」

 「僕、本当に能登さんのことは、何とも思ってないからね」

 「それなら、前にも中谷は否定したじゃないか」

 「あの時は、何となく疑いが残ったまま、会話が中断したような感じになっちゃったから。そこの誤解は、キッチリと解いておきたいんだ」

 「そんなに気にすることかなあ。でもまあ、分かった」

 「良かった。誤解されたままだと、どうしても気持ちがモヤモヤしてしまって」

 「神経質なんだなあ、中谷は」


 「柳沢君は、好きでもないのに、能登さんと噂になって、嫌じゃなかったの?」

 「いや、全く」

 知良はあっさりと言う。

 「そんなの、いちいち気にしていても仕方が無いし」

 「でも、柳沢君が好きな相手に、そのことで誤解されたら嫌だと思ったりしない?」

 「ああ、なるほど。そこまでは考えてなかったな」

 「ってことは、今は、好きな人はいないの?」

 悠太は、ドキドキしながら言う。

 すると知良は微笑して、

 「そうか、そうなるね。お見事、名推理だよ」

 と返した。


 「モテモテなのに、フリーなんだね」

 「実は俺、そんなにモテないのかも」

 知良は頭を掻く。それから、

 「中谷は、どうなんだよ。能登さんへの気持ちが無いのなら、他に好きな人はいるのか?」

 と、何気無い調子で尋ねてきた。

 「えっ」

 思わぬ質問返しに、悠太は焦った。

 その顔に、暗い影が差す。


 「好きな人は、それは……」

 「へえ、その様子だと、いるみたいだね。誰だい?同じクラスの奴?」

 「いや、そんな」

 悠太は、うつむいた。

 「そんなの、言えないか」

 知良は爽やかに微笑する。

 「そ、そうだよ、当たり前だよ」

 「告白とか、しないの?」

 「出来るわけないよ」

 「どうして?」

 「それは、その」

 「奥手なんだな、中谷は。恥ずかしくて、気持ちを伝えられないタイプなんだ」

 「それも、そうだけど……」

 悠太は口ごもる。


 「おーい、知良。何やってるんだよ」

 ドアの方から、呼び掛ける声がした。

 新聞部の3年生部員だ。

 「おっと、ごめん。すぐに行く」

 柳沢は振り返って言う。それから悠太に向き直り、

 「それじゃあ、もう行くから。その恋、いつか叶うといいな」

 と軽い調子で告げ、部屋を出て行った。


 「柳沢君、僕の恋は、決して叶わないんだよ」


 哀しそうに、悠太はポツリと呟いた。

 「だって、僕が好きなのは……」

 悠太は、じっと部屋の外を見つめた。

 その瞳には、出て行った知良の残像が写っていた。


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