漫才:手段と目的
ボケ(A): いや~、最近思うんですけど、人間って「得」をするために生きてるじゃないですか。
ツッコミ(B): まあ、損はしたくないですからね。
A: でもね、僕気づいちゃったんですよ。世の中には「得するために、とんでもない損をしてる人」がいるって。
B: 矛盾してるやん。どういうこと?
A: 例えば、株主優待ですよ。僕の知り合いに桐谷さんっていう有名な方がいるんですけど、あの人の生き様がもう、現代の武士道なんですよ。
B: ああ、自転車で爆走してるあの方ね。
A: そう。本来、優待券って生活を豊かにするための「手段」でしょ? でも、あの域に達すると「期限内に使い切ること」が「人生の目的」になるんです。
B: 手段と目的が完全に入れ替わってるな。
A: いや、僕もね、共感しちゃうんですよ。昨日もね、お腹パンパンなのに「今日が期限のポテト無料券」があったから、マクドナルドに駆け込みましたもん。
B: まあ、無料券はもったいないからね。
A: でも、そこからが「桐谷イズム」ですよ。僕はポテトLサイズを3個頼んで、両手に持って、泣きながら食べました。
B: 食べすぎや! 体壊すわ!
A: 食べ終わった後、あまりの苦しさにタクシーで病院行って、胃薬もらって5,000円払いました。
B: 400円のポテトのために5,000円払ってたら世話ないわ! 大赤字やないか!
A: これが「効率を求めた結果の、究極の非効率」ですよ。ちなみに、昨日は映画の優待券も余ってたんで、深夜2時に全く興味のない『カニの生態・北海編』っていうドキュメンタリーを観に行きました。
B: 興味ないなら寝とけよ!
A: 寝不足でフラフラになりながら、カニが脱皮するシーンを3時間、目を見開いて観ました。あまりに眠いから、自分の太ももをフォークで刺しながら耐えました。
B: 拷問やないか! 映画は楽しむもんやろ!
A: 「チケットを無駄にしなかった」という達成感。これが最高なんです。
B: 達成感の方向性がおかしいねん。
A: でも、これって僕ら一般人にも「あるある」でしょ? 例えばポイントカード。
B: ああ、みんな持ってるね。
A: 「あと100円でポイント2倍です!」って言われたら、欲しくもない「レジ横のよく分からんガム」とか買うでしょ?
B: まあ、調整で買うことはあるけど。
A: 僕なんか、ポイント5倍デーのために、わざわざ隣の県まで自転車で3時間かけて行きますからね。
B: 桐谷さんやん! ギア何段で漕いでんねん!
A: 往復6時間。消費したカロリーを補うために、帰り道で豪華な焼肉食べて、1万円使いました。
B: 貯まったポイントは何円分や。
A: 50円分です。
B: 9,950円の損失や! 完全にガソリン代(食事代)の方が高いわ!
A: 食べ放題もそうですよ。元を取るために、限界を超えて食べるじゃないですか。
B: まあ、欲張っちゃうよね。
A: 僕、この前、焼肉食べ放題で「牛1頭分」食べないと気が済まなくなっちゃって。
B: 無理やろ。人間が牛1頭食べられるわけないやん。
A: 最後の方は、胃袋の隙間を作るために、店内で全力で反復横跳びしてましたからね。
B: 迷惑な客やな! 店からつまみ出されるわ。
A: 仕事でもありますよね。「会社を良くするための会議」のはずが、いつの間にか「会議を2時間きっちりやること」が目的になってる。
B: それはよく聞くサラリーマンの悲哀やね。
A: 僕の会社なんて、会議の資料を作るための「前会議」があって、その前会議の場所を決めるための「場所選定委員会」がありますから。
B: 無駄の極みやな! いつ本番の会議に辿り着くんや。
A: で、ようやく始まった本番の会議の議題が、「最近、会議が多すぎる件について」です。
B: 辞めてまえ、そんな会社!
A: でもね、こうやって必死に「手段」にしがみついてる姿って、美しくないですか?
B: まあ、桐谷さんもそうだけど、一生懸命な姿はどこか愛おしいけどさ。
A: 昨日の夜もね、僕、家にある「10円引きクーポン」を使い切るために、深夜のスーパーまで10キロ走ったんですよ。
B: 10円のために……。
A: 途中、雨が降ってきて、雷に打たれそうになりながらも、なんとかスーパーに滑り込んで、見事クーポンで10円引きの豆腐を買いました。
B: 命がけの10円やな!
A: 帰ってきたら、家族全員が僕の無事を祈って泣いてました。豆腐を囲んで、みんなで「良かった、お父さんが10円得して帰ってきた」って号泣ですよ。
B: どんな家族やねん。
A: ……。
B: どうしたん?
A: はい、全部、夢でした。
B: 嘘かい! 豆腐のくだりで薄々気づいてたわ!
A: 実際は、クーポンがあるの忘れて、普通に定価でコンビニで買いました。
B: 結局損してるやん! もうええわ。
二人: どうも、ありがとうございました。




