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第二章_後編(書いてる途中)

小説、漫画、アニメ、ドラマ、様々なフィクション、ノンフィクション作品がこの世の中にはある。

それぞれに共通している物もあれば、特徴的な物もある。

そんな多様な世界には一つの章を終え、次の物語へと進める際にも使われるある表現がある。

今回はその一例である。

「知らない天井だ。」

色は白。

材質は...多分木材かな。

正方形に切り取られた木材が敷き詰められ、上から白い塗料が塗られている。

視界の端に映る物、カーテンレール。

「ここは病院だよ。境君。東司織町病院の入院棟。」

少し遠いなぁ。

隣の市の病院なんて初めて来た。

でもそうか。

入院可能な病院というものはそう数が多くない。

「僕の状態ってそんな入院するほど悪いんですか。」

上体を丁寧に起こそうとする。

痛い。

痛くて体が動かない。

うん、寝たまま話そう。

「知らないよ。そういうのは医者に聞いてくれ。」

上記の内容を統合すると、だ。

今話している相手は医者ではない。

恐らく僕と同じく入院中の患者だろう。

声のする方向、距離からしても多分そう。

「そうですね。ちなみに医者はどうやって呼べばいいのでしょうか。入院なんて初めてで何もわからず。」

恥を忍んで聞く。

他に聞ける相手なんて居ないのだから。

声の主は少し黙り込む。

その視界外の表情は見て取れない。

「...手の届く距離にナースコールスイッチがある。それを使えば一応呼べるだろうけど、あくまで緊急時用だから。待ってればそのうち看護師が点滴の交換にでも来るだろう。」

自分の体の状態を把握することは重要なことだ。

けれどもそれは急ぐことの程ではない。

なら今行うべきは、それこそ休むことだろう。

多くの病気、怪我に於いて安静にすることが治療の一つとなる。

「...あっ、教えていただき、ありがとうございます。」

思い出して礼を言う。

何かを聞いて、答えてもらった時の作法。

もしこの話し相手が礼を言わない者に制裁を与えるタイプの人であった場合、入院期間が意図せず延長されることになる。

言うはタダ、言わぬはリスク。

「...」

返事はない。

先程までの会話と声量を変えずに言った為、聞こえなかったことはないだろう。

つまり意図的に返事をしなかったということだ。

疲れているのだろう。

「...」

沈黙が返る。

僕も疲れた。

ほんの数往復分しか言葉が行きかっていないにもかかわらず、だ。

かといって寝る気にもなれない。

「...あの人は。」

数刻の沈黙を破り再度言葉が紡がれた。

けれどもその言葉はあまりにも弱かった。

ピアニッシモの記号が明確に見えるほどに弱かった。

しかも内容が人を指してからまた間が開いている。

「あの人は死ぬべき人ではなかった。」

あの人とは誰のことかは現状わからないが、誰かが死んだらしい。

恐らくそれが原因で沈んだ感情にその身が支配され、声が弱々しくなっているのだろう。

ならば、彼も入院しているという事実と無関係ではあるまい。

ここは黙って聞いてあげるのが仁徳であろう。

「責任感の強い人だった。いつだってそう、任務に忠実で、一つ一つの手順を毎回確認してから任務へ向かうところも、部下へしっかりと情報を共有するところも、上司としてだけじゃない、一班員としても十全も働きをしていた。今回の件もそう、責任ある立場として、最前線で戦ってくれた。だから今俺がこうして生きて居られているし、他の、ここの病院の関係者たちだって、桜班長のおかげで生きているみたいなものじゃないか。」

どうやらその死んだ人というのはサクラハンチョウとかいう人のことらしい。

多分僕の知らない人だなー、ああ。

もしかしてサクラハンチョウって桜班長のことか。

ええと、僕が気絶している間に死んだの、班長がぁ。

「それに判断はいつも的確だった。彼には決して感情がなかったわけではない。しっかりと人としての感情を持ちながら、仕事は仕事と割り切って、自分の感情とは分けて判断できる人だったからこその今回の結果だと思う。実際松本が死んだとき俺は完全に冷静さを失っていた。あのとき班長が指示を出してくれなければ、多分俺も死んでいたし、あの砂漠熊を討伐するなんてことはとてもとてもできることではなかった。みんなは班長のことを冷酷な人だ、なんて良く知りもしないで批判するけど、俺は違うと思う。班長は冷徹な人なんだ。だからいつも正しい判断ができる。結果を出せる。」

さらっと流されたが、マツモトって人も死んだらしい。

ええと、ザバクウマって言ってたっけ、それを討伐したと。

僕を気絶させた奴だろうな。

つまり死傷者多数ながらも任務は成功していたという事か。

「今日までついて行けたのは班長のおかげ。今日まで日本が平和だったのは班長のおかげ。今ここで...あああ。もういい。」

先程までの饒舌さは失われ、ただ静寂が戻って来る。

そこに遅れて理解がやって来る。

死という喪失が、成功という小さな成果が、怒りという矮小さが。

多分この世で一番嫌いなものだ。

「...」

迷う。

言うべきか否か。

静寂の維持は姑息にあれど、心を治す特効薬となる。

反論はもはや自己満足でしかない。

「僕は...」

駄目だ。

言うな。

言っては駄目だ。

言えば彼の心を深く傷つける。

「僕は違うと思う。」

どうしても言い返したい。

反論したい。

傲慢すぎる心が理性の檻から出る。

一度走ればもう止まることはない。

「自己犠牲なんてものは弱者の言い訳でしょうに。身を挺して誰かを守るだとか、囮になって死ぬだとか。そんな選択肢を選んで勝手に死ぬような人を目標になんてしたくない。」

言葉は、怒りがどんどん加速していく。

感情のブースターはガソリンがなくなるまで動き続けてしまう。

だから普段会話をしないように抑えている。

こうなると理解しているから。

「敵を倒す。味方を守る。自分も生き残る。それが最善というものでしょう。なのに率先して自分を犠牲にしようとするなんて愚か極まりない。結果的に死ぬこともありけれども、初めから犠牲を前提とするのは...」

流石に気付く。

彼の視線に。

その冷たい視線によって、沸騰していたブレーキ液が効力を取り戻す。

暴走していた口がやっと閉じる。

「...」

意味のない反省をする。

ここでどんなに深く後悔をしたとしても、どんなに対策の立案を行っても無駄である。

きっとまた今と同じ状況になれば、同じことをする。

過去の経験からそう断言できる。

「いや、そうかもしれないな。」

意外な返答が反省を覆す。

同意であった。

一般論からは遠く、ましてや故人への否定たる意見に同意があった。

見えないはずの槍は、気付けば収めまれていた。

「自己犠牲を前提とすることは間違っている...か。思い返せばあの人の立てる作戦はいつも誰かの犠牲を必要としていた。確かにそれは楽だ。意志を持った囮を使って敵の注意を引くだなんて、最終手段になりこそすれ、真っ先に出す案ではないな。俺たちは市民を守る立場であると同時に、その市民そのものでもある訳だ。」

その声色は暗い群青色から深緑色にまで変化していた。

他者の死を乗り越える手法は、必ずしも励ましの言葉によるものだけとは限らない。

一般的な常識、良識というものは、あくまで大勢を語るときに用いるもの。

ならば、個人一人一人を指し示すものではないのだろう。

「なら俺が代わりに死ねばよかったと思った俺も愚かだなぁ。」

あまり良くない方向に話が進んできた。

窓の外で流れる風も、呼応するように向きを変える。

自虐は窓枠を揺らし、次の自虐を生み出す。

変えなくてはならない。

「でも今あなたは生きてるじゃないですか。今日愚かなら、明日聡くなれば、きっとまだやり直せますよ。」

と、我ながら粗雑な励ましをしようとした。

しかし世界は、僕にそんな失敗をさせなかった。

この氷の窓を開けずとも部屋の空気を換えることができる。

窓は割られた。

<ノック音>

塗装された木材は、本来軽やかな打撃音を立てる。

だがそれは戸がしっかりとドア枠に固定されていた場合の話。

屋内のスライド式の戸の多くは、摩擦抵抗を弱めるために緩く取り付けられている。

故の重く乗った不協和音。

<戸の開く音>

これもそう。

一定の力加減で動かされ続ける物体は、共振を起こす。

一言で言い表すならば、五月蝿い。

静寂を破るには十分すぎた五月蝿さだった。

「はーい。伊藤さーん。怪我の調子はどうですかー。あー。境さん起きてたんですねー。今先生呼びますねー。」

入ってきたばかりの看護師は、手に持っていた紙袋を僕の視界外に置いた。

歩いて行った方向的に考えるのであれば、向かい側。

即ち先程まで僕と会話していた人のいる側だ。

となればそう、彼がそのイトウサン、伊藤さんということだろう。

「じゃあ薬置いておきますから、ちゃんと飲んでくださいねー。」

視界外に消えていた看護師が再び姿を現す。

そしてまた消える。

今度は部屋の外に、だ。

二人の刻は、淡い夕日に染まる。

...

......

.........

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