第97話 勝つのは俺だ
~アクシス・イシル~
「……ふぅ」
コロシアムの舞台から降りたローゼは息を吐いた後肩をまわしまるで燃え残った灰を払うように調子を確かめる。そのまま通路へと入っていくと、ハルがローゼに話しかけた。
「不完全燃焼、って感じ?」
「装備がまともならもうちょい手応えがあったろうから余計に。ま、向こうからすれば見下したその上で余計なお世話ってところだろうけれど。ところで、次のスケジュール確認しとこう。またすぐに試合といわれても困る」
ローゼはハルにそういうと帽子を一度脱いで被りなおす。残った熱を冷ますようにして、不満を押し込めていた。受付嬢に近づくとおどけた様に肩をすくめる。
「で? 次の試合はぁ? まさかすぐだから移動しろってわけじゃないよねぇ?」
「ええ。次の日のリアルタイムで正午あたりとなります。手入れなどはしっかりしておくとよろしいかと」
「……なぜその気遣いを初日に回してくれなかったのか」
淡々とした受付嬢の言葉におどけた口調も消え去り、口角をひくつかせるローゼ。まあ初日に走りまわさせられた身としては当然だろう。
「ま、そういうことなら好都合。戦力増強と……」
「おーっす、見てたぜ? ずいぶんとつまらなさそうだったじゃないか」
「コロナ」
壁にもたれかかって手を振りながら声をかけてきたコロナにローゼは嫌そうな顔を隠そうともせずに返事する。
「何の用?」
「いや、明日戦うかもってんでご挨拶。準決勝だ」
コロナの言葉にローゼはウィンドウを開き。
「セリオ」
「……トーナメント表のアドレス送るわね」
セリオから受け取ったアドレスでトーナメント表を確認し、16チームが参加しているトーナメント表から自分のチームの名前を見つけ、コロナの名前を確認する。
「……一人?」
「Yes.ま、腕試しってところさ。賞品には興味ないし。逆境は俺を高めてくれる」
「案外どうってことない雑魚に負けたりして」
「セリオ」
不適に笑うコロナの言葉にむかついたセリオがさらっと毒を吐き、ローゼがそれを窘めるも、コロナはその言葉に笑い返す。
「ハハハ、ま、それでもいいさ。ソンときゃおれの不明を恥じるのみってね。まあ、ローゼ」
「……なんだ?」
コロナは笑っていた表情を真面目なものに戻し、
「あなたは勝つだろう。そして俺のところまでたどり着く。そして今こうして相対しているときより強くなってくるだろうが……」
「勝つのは俺だ」
そうとだけ言うとコロナは歩き出し、コロシアムの外の雑踏の中へ消えた。
「……セリオ」
「何よ」
「明日――」
「別にいいわ。言っても聞かないでしょうし」
「……ありがとう」
「今更ね」
―――――
~ヘァムル湖~
「ここ? 近くの水辺って」
「そうなるわね」
ローゼとセリオは後ろで猫とじゃれあっているハルを無視して辺りを見回す。
「これ、どう見ても」
「レジャースポット、ね」
手をつないで微笑みあいながら水辺を歩くカップル、元気いっぱいに水辺を駆け回るちっちゃなカップル、それを遠くから温かく見守る壮年のカップルと、どこからどう見てもモンスターが出てくるとは思えない風景にローゼは嘆息を吐く。いや、もしかしたら夜になればホッケーマスク被った変……モンスターがカップルを惨殺し始めるかもしれないが。
仕方がないとローゼは湖に近寄り、手で水を掬う。
「まあ仕方ないとはいえ水も……」
そして、ピタッと動きを停止した。
「……澄んでる?」
ローゼが違和感を感じて後ろに飛び退いた瞬間に水中から飛び出してきた触手が水辺にいたカップルの片割れを襲う。
「きゃあ!?」
「――ちっ」
ローゼはインベントリから漆を取り出してそのまま鞘から引き抜き、鞘を左手に持ったまま襲う触手を叩き斬る。
「あ、ありがとう――」
「いいからさっさと逃げろ!――くぅっ!?」
襲われていたカップルの片割れが礼を言おうとしたのをローゼが制した瞬間、無数の触手が水中から這い出て、ローゼに巻きつく。
「ちっ」
「駄目だロゼ! 他にも捕まってる人がまだ居る!」
ハルの声にローゼは辺りを見回すと確かに水辺には触手に巻き付かれている人間がまだいた。であれば電撃で離させようとすれば周りの人間にも被害が出てしまうかもしれない。繋がっているかも知れないからだ。
そう判断したローゼは巻きつく触手をつかみその場で回転を始める。
「ハァル!」
「ダー!」
ローゼの言葉にハルはハルバードを取り出しローゼの掴んでいる部分から後ろを切りはないて引き剥がす。それと同時にローゼ掴んだ触手を肩に担ぐ。
「Yeeeeeeear!」
そして雄たけびを上げて水中から本体を引っこ抜く。それは他の人間を捉えてる触手の主ではないことをあらわすように小さく、触手の先も全て空中に投げ出されていた。空中に浮かぶ軟体生物に鞘を投げ刺し、ローゼは跳んだ。
「Ya-Ha!」
そして掛け声と共に放たれた斬撃で哀れ真っ二つ。ローゼは空中に浮いたまま周りを見渡す。空中のまま切るのであればただ居合いを使えばいいのに使わなかった理由は見晴らしを確保するためでもある。そしてローゼは少し考えた後、何かを決意したように頷き、漆を納刀し着地した後湖に向かって駆け出した。
「ロゼ! 何だって一体!」
「ハル。アンタも準備」
「何を!?」
「割と透明度高いみたいね、ここ。何か見つけたみたい」
ほとりまで来たローゼはそのまま大地を蹴って空に跳び、湖の中心に狙いを定め、ベルトのバックルを叩き、メダルを3枚取り出して握り拳に挟み込む。
「魔法詠唱『花咲け大地よ、光の薔薇を。渦巻け風よ、花弁を乗せて。火花は散りて風に乗り、母なる大地に火を灯す。全てを砕く嵐と変われぇっ! 大地・火・風混合魔法【ブルーミン・ストリーム】ッ!』」
握った拳を旋風が舞い、その旋風は光の花弁となり突き出された拳の勢いのままに湖へと降り注ぎ湖の水を吹き飛ばす。当然触手に捕らえられた人間たちも吹き飛ばされるが、幸いにして鈍くさい人間はいなかったようで各々受身を取って大事には至っていない。それどころか触手の軟体生物は空気中だと呼吸できないのか急激に弱まり、連れのほうに多くは退治され、一人出来ていた人間は普通に自分で止めを刺した。
勿論、ローゼの目的はそれじゃない。お目当てはふきとばした水の中に潜んでいたもの。
「さて、俺の糧となってもらおうか……!」
下手な漁船よりも巨大な大蛸である。
【イベント名】テンタクルス・オクト覚醒
【イベント発生条件】ヘァムル湖において気温25℃以上、周辺男女比が4:6~6:4時成人男性が湖の水を掬った時イベント発生。
【プティ・テンタクルス】が発生し、水中からほとりに触手を伸ばし触手に触れた人間を捕らえようとする。
また、湖中心部に位置する【テンタクルス・オクト】が打倒されるまで【プティ・テンタクルス】は生成され続ける。
ちなみに、社員の手により後付されたイベントである。




