第96話 まともな装備で
なんか量がかけない
~コロシアム~
「おっと、もうあちらさん来てたか」
試合会場の四角いリングへ飛び乗ったローゼは帽子を押さえながら気楽にいい、待たされていたであろう相手チームはローゼ達3人を睨み付ける。
「おぉっと、気ィたってるっぽいねぇ」
「誰のせいよ、全く……」
ローゼのさらに煽るような言葉を窘めながら、セリオは相手チームを見渡す。
右から盾持ちの剣士、槍使い、弓使いと、前、中、後衛それぞれ取り分けた、といったようなオーソドックスなチーム編成だ。だが。
「ま、お目当てに合わなくて当然か」
こっちは相手には聞こえないように呟く。オーソドックスすぎて興味が惹かれないのだ。それに、剣士、槍使いはまだしも、弓使いだけ残ってしまった場合あの腰に何も提げてない、サブウェポンの気配もないのではどうしようもない。機関銃でもあるなら遠距離は遠距離としてしまったほうが逆にいいのだろうが、弓は番えて引いて狙いを定めて、撃たなければならない。極めれば曲射に纏め撃ちや強射手加減変幻自在で下手な銃より強力勝つ万能ではある。だが、タイムラグはどうしようもない。どこかの弓使いのように拳でどうにかしてしまえば良いのではあるが、その気配もないのだ。
剣士も剣士で剣自体は重さで切る細やかな技術など要求されないブロードソードなのはいい。だが、タワーシールドなんぞもってどうするのだろうか。剣の利点も盾の利点も全て投げ打ってる気がする。タワーシールド使うなら槍かレイピアの方が良いだろうし、ブロードソードならラウンドシールドを腕に括りつけた方が良いだろう。槍も槍で突撃槍だ。もう他の問題点が気にならなくなってくる。問題点の深刻度だと後の方になってくるにつれひどい。弓の方はまだそこまでの強敵と戦ったことがない経験不足で理解できるが、他の二人はなんと言うか、『君達その装備罰ゲームで決めたの?』レベルである。いや、槍使いは先入観から中衛においてしまっているから問題なだけであり、実際は突撃して引っ掻き回す役目なのかもしれない。が、そうしたらあの全身の重装備はなんなのだろうか。動き辛そうとかそんなレベルじゃあない。ああ、剣士はもうどうしようもない。
総評すると『一見オーソドックスな編成。でも個人個人の装備に難アリ』とセリオは心の中で締める。
横を見るとローゼは心底興味のなさそうな、ハルは心底心配したような表情をしていた。そりゃそうなる。ローゼは楽しめなさそうだからこそ、煽って怒りで限界以上の力を発揮しないかと、ハルは純粋にその戦法で大丈夫なのかと考えているのだろう。
セリオからしてみれば好都合だ。ローゼの目的はどこか別にあるだろうが、セリオの目的は優勝して電脳生命体、推定デジタルエンゼルを手に入れることだ。もしかしたらデビルかもしれないがそのときは別の記憶媒体に封じて粉々のスクラップにして山に埋めてしまえばいい。電子的なものを電子的に消そうとしても上書きできるようにしただけならば何の意味もない。物理的に抹殺するに限る。
まあそれこそが重要なのだし、参加する段階になって降って沸いたローゼの因縁なんてその本人と戦うとき以外は無視していい。流石に戦うときに無視したら全力でこちらに牙を向いてくるだろうから無視できないが。であれば、消化試合は願ったりかなったりだ。
【3】
カウントダウンが始まる。両者の準備は終わったと見た運営の手によって始められたらしい。
【2】
刀を抜き、身を落とす。決して目をそらさないようにして、相手の出方を伺う。そして。
【1】
「顔伏せて横っ飛び」
【GO!】
全力で左手で目を覆い、顔を伏せながらセリオとハルは外側へと飛ぶ。直後、覆った手を少し貫くほどの量の光が放たれ、鈍い衝突音が響く。その位置は中心に立っていたローゼの場所からのものだ。
「ぐぅっ」
「ちっ」
「Hum! なんだいどうした! そのトンチキな格好は目を引くためかい!?」
左目を瞑ったローゼは槍使いの腹部に前蹴りを叩き込んで押さえつけ、盾を投げ捨てた剣士の剣の鍔を左手でつかんで止める。
「喰らえッ!」
「Oops、危ないな」
「ぐあっ!?」
「そうら」
弓使いの放った矢は蹴り飛ばされた槍使いによって阻まれ、直後ローゼは右手でD・G・マグナムを引き抜き、弓使いに対して銃弾を放つ。
「アブッ!?」
「へぇ、それはそのためか」
弓使いは投げ捨てられた盾を跳ね上げて銃弾を防ぎ、ローゼは感嘆の声を上げ、口角を上げる。興味がわいてきた証拠だ。
「いや、見くびってしまったのが申し訳ないな。いやはや実に中々練り上げられている。スピードファイターのブレイダー、タンク役のランサー、援護専門のアーチャー。アーチャーが盾を携帯するわけには行かないから片手の空くブレイダーが盾を携帯し、ブレイダーを巻き込めないから振らずに突く突撃槍。そしていざというときは盾を使うから弓と矢以外持っていないアーチャー。ほうほうなるほどこう上げてみると素晴らしい。互いが互いを信じきらなくてはとてもじゃないが実行できない。敬意を覚えるよ。だが、まあ」
「それだけなんだが」
ローゼが真顔に戻りそう締めた瞬間コロシアムの床の下からハルが飛び出し、弓使いの首を落とし、倒れた槍使いの鎧の隙間からセリオが刀を通して心臓あたりを貫く。そしてローゼは剣士の件の鍔から手を離した。
「よくもっ!」
「信頼して、信用してるなら」
剣士は剣を振りかぶり、全力で振り下ろす。策も技術も力もないそれを、ローゼは左肩で受け止める。
ローゼの肩に剣は埋まるが、致命的なところまで届かない。届かせるにはいろんな物が足りなさ過ぎる。
「なにっ……!?」
「一人でもどうにかしてみろ。3人前提なんざ意味ないだろ」
そのままD・G・マグナムを剣士に向ける。そして。
「Fire」
銃口から榴弾が放たれ、剣士とローゼは爆炎に包まれる。そしてその炎が晴れた後、そこに残っていたのはローゼだけだった。
「急いで、これねぇ……」
暗にまるで手ごたえがなかったとでも言うローゼは、どこか寂しそうな顔をしていた。
「まともな装備で、もう一度やりたいな……」




