第94話 傲慢の権化みたいな人間に聞くんじゃないわよ
~ジュリウス平野~
「いやっはー、負けた負けた。あんな隠し球があるとはねー。見抜けなかった」
「まあ別に外見に特徴とかないしねぇ。いちいち考慮するのすら無駄な系統だよぉ?」
「僕も隠し球あったんだけどねー。あの状況じゃあねぇ?」
「目からビームでも出せない限り無理だねぇ」
「あの人使えるぜ? 目からビーム。まあ僕も魔法で使おうと思ったら使えるんだけどさ」
「なんで使わなかったのぉ?」
「散弾仕様でセルフスタングレネード。やるだけ無駄だね!」
「「HAHAHA!」」
馬車に揺られながらブラックとローゼは大声で笑い合う。宿屋を弟を呼びつけて任せたブラックはローゼたちを馬車駅に案内し、そのまま同乗して今ここに至る。論文書いてたエルミーラ、リーゼロッテもローゼの『後で手伝うから拠点移動するぞ』という言葉によって同じように馬車に揺られている。期限などは設定されていないのだが。
リーゼロッテはそんなすぐそこに迫った罠にも気づかずにブラックとローゼを見てにこやかに微笑んでいた。
「いや、叔父さんたちも仕方なかったとはいえやっちゃったことから立ち直ってたらいいなあってことで何より何より」
「それ何もよくないから。希望的観測すぎるから。なによいいなあってあんたの都合のいいように解釈してるだけじゃない」
セリオの指摘にリーゼロッテは苦笑いを返す。
「あはは、ま、そう取られても仕方ないけど。むしろ今見てるだけだと立ち直ってるようにしか見えないんだよ。むしろいいなあってのは悲観的観測っていったところかな」
「どういう事?」
微妙に表情に陰をさしたリーゼロッテにセリオは眉を顰めながら問う。
「例えば明るく生きるために邪魔だって消し去ったり封じ込めてたり、たった一人に集約濃縮させてどうにかしてるって可能性、あるからね」
「何を?」
「憎悪の記憶。悲観の記憶。受け入れて立ち直るならばそれは害じゃない。でも、下手に封じ込めたり消し去ったりしたら」
「人格が歪み、歪になる、ね」
セリオの言葉にリーゼロッテは頷き、ブラックがまだ談笑を続けており、こちらに意識を向けていないことを確認してからポツリ、と呟く。
「真実を知るのは選ばれなかったほうで、その選択基準は選ばれなかったほうを劣っていると決めつけた。しかし現実問題選ばれなかったほうは谷崖踏破し選ばれたほうはそれを見て『自分は選ばれなかった』と間違えた。ややこしいよね」
「……多分、選ばれなかったほうは真実を明かす気はあるのでしょうね。聞かれたならば」
「親戚の癖に第三者の傍観者やってたけど、だからこそどっちの考えもわかる。【不幸から一人だけ逃がせる救護艇】があるならば一番未来がある人間を選ぶし、【強大な力を得た自分がそのポジションにいたかもしれない人物】を見たら嫉妬し、憎みさえしてしまう理由もわかる。でも、だからこそそれで潰れて欲しくない……っていうのは、傲慢かな?」
「……さあ。傲慢の権化みたいな人間に聞くんじゃないわよ」
セリオは目を閉じながらそっぽを向き、リーゼロッテはそれを見てにんまりと笑う。
「まったく、素直じゃないんだからー!」
「あっ、こら、やめなさい!」
リーゼロッテはセリオに覆いかぶさるとその長い金髪をわっしわっしと梳き続ける。
ローゼはそんな二人と、右手を見つめて何かを考え込んでいるハルを横目で見ながら、ブラックの話に相槌を打ち、情報を整理する。
「まあ、あんたならあの人やコロナにだって勝てると思うさ」
「それはうれしいねぇ(とりあえず、エルミーラの話からブラックがレイヴンの兄弟、もしくはかなり等親が近しい間柄というのはわかった)」
「まあイルムと戦った時の動画とかみて今戦った実力なんかの変化を見ての言葉だから二次方程式の微分系のグラフで予想してるようなものだけどさ」
「そういう調査方式もあるよぉ。それに勝負は時の運も含むしぃ、参考程度さぁ(よってブラックの『こういう能力がある』というのは信じてよさそう。だけど実力は過大評価か過小評価、どちらにしろ実物とはかけ離れてると見たほうがいい)」
「そういってもらえると助かるけど。そういえば、こないだの砕星竜イベの戦利品、武具って形で贈与されるらしいじゃん。どんな協力したんだ?」
「なんかチンピラに絡まれてるの保護したらそのままパーティー組んどいてくれとか言われたり動かせる人員居ないから傘下の街守ってくれとか言われたり(こうなるとあそこで電流流して拘束したまま決着というのはもったいなかったか? いやしかしあれは長引かせると乗倍して面倒になる類の戦法だったしなあ)」
「……イベ素材での武具で足りるかな」
「大丈夫。度々報酬はもらってる。それはケイトを仲間に入れてたぶんだしねぇ(ま、全部解き明かすってのも風情がない。未知を見せてもらうとしよう)」
考えを終えたローゼは次こそは負けないという意思をこめた右拳を左掌に叩きつけ、パキリ、と骨を鳴らす。
「負けっぱなしは性に合わない。負けず嫌いなもんでね」
獰猛な笑みを浮かべてどこへともなく、啖呵を斬った。
物語のうまい短縮法ってあるのだろうか




