第90話 抜剣、断隆剣サモセック
特に用事があったわけでもなんでもなく、難産です。具体的にはハルの言動
~天志田邸:葉楽の部屋~
中間発表が終わり、打ち上げも終わった次の日。葉楽は『今日から大丈夫』といった旨のメールをハルに送り、そのままパラムスを被り、スイッチを入れてベッドに倒れこもうとして後頭部に激突したダンベルの硬さに悶えた。
正直、まだまだ懸念が消えたわけではない。それでも葉楽は記憶への取っ掛かりがこのクリエイト・ワールドにあると考え続けていた。が、それも一瞬吹っ飛ぶ。
「あっが」
間抜けな声を出しながら葉楽はベッドから起き上がり、ダンベルをつかみあげるとトレーニング台のほうへと投げ、ダンベルホルダーへとぴったり入れたことを確認すると、再びベッドに倒れこみ、意識を電脳空間へと飛ばす。しばらく動いてなかったからと朝全力でトレーニングしていたのがまずかった。うっかり片づけを忘れてから大学のほうへ顔を出してしまったのだろう。
「次からはちゃんと片付けてこう……」
―――――
~宿屋【ストリングス】~
「Hallo,Halっと」
「……ロゼか」
ローゼが階段を降りロビーへと顔を出すと、ロビーのソファになにやら深刻そうな顔をしたハルが座っていた。
「どうしたの? 辛気くさい顔しちゃってぇ」
「なあ、ロゼ。俺と戦ってくれないか?」
「何、訓練?」
ハルはローゼがテーブルを挟んだ向かいのソファに腰を下ろすのを見ながら切り出した。ローゼはその妙にシリアスな声色に疑問符を浮かべるだけだが。
「訓練、そうだな。訓練だ。新しい力を手に入れたは良いんだが。咄嗟に手に入れた力なせいかうまく制御が出来ないんだ」
「で、制御のために、か」
「そういうことになるな」
ローゼはハルが右手を握ったり開いたりするのを見て手に入れたのはその右手に関する力だと当たりをつけて、そのまま頭に仕舞い込む。
「ふぅん、で、分かってることは?」
「ああ、この右手が肝なんだろうってことと、そうさな、この力を手に入れたとき戦ってた相手が言っていたんだが、幻想武具って」
「固有武装と何か関係があるのか……? ま、気にしてても仕方ない。セリオが来るまで時間もあるし、いっぺん戦ってみようか。君がどれだけ成長したかも気になるし」
ハルはローゼの微笑を見てその背筋を震わせる。もちろん、恐怖で。
「ロゼ、微笑むのは敵相手だけにしてくれる? 怖い」
「えっ、なんで」
―――――
~フォーリン・カーズ・道場~
さて、適当な道場をレンタルした二人は中央の仕切り線を挟んで向かい合う。ちなみに金は大体ローゼが出した。結構こまめに金策を見えないところで行っていたので結構あまっているのだ。金策の中には本人曰く『チャチな』依頼のものも混じっているのだが。
「……何というか、金運の差をまじまじと見せ付けられてるというか」
「Hum,そのうちキミも同じ様な感覚になってくるさ」
ローゼはハルのげんなりとした言葉に答えるとインベントリから身の程もある刀【紋刀・漆】を取り出すと、左腰に提げる。
それを見たハルもインベントリから赤い片手剣を取り出す。ここでハルバードを使っても対応が遅れてそのまま負ける可能性が高いと踏んだからだ。リーチ、威力よりも手数と取り回しを選んだのだ。ちなみにローゼが銃じゃなくて刀を使おうとしているのはただの気分である。
「さて。じゃ、やろうか?」
ローゼはウィンドウを呼び出し操作するとハルの目の前に【ローゼからPvP申請がありました。受領しますか?】というウィンドウが浮かび、ハルはしっかりと【はい】のボタンを叩いた。
ハルがボタンを叩くと同時に道場の中央から半透明のドームが広がり、二人を囲むように配置され、道場全体が包まれる。
【3】
「ふむ、CWでの訓練、今までしたことがなかったね」
【2】
「訓練だろうと実践さながらに! だろっ」
【1】
「その通り、じゃあ」
【GO!】
「Let's Rock,baby?」
「ураааааааааа!」
カウントダウンが終わると同時に二人が同時に飛び出す。ローゼは刀を鞘に収めたまま、ハルは剣を振りかぶりながら。そのまま間合いに入った途端、二人は腕を振るい、刀と剣が十文字に結ぶ。
「つっ、っらぁ!」
「得物に頼るな!」
ハルがそのまま腕に力をこめて押し込もうとするも、ローゼは身を反らすようにしてその力を受け流す。
「ほら隙だらけ!」
「あっが!?」
そのまま体勢の崩れたハルの脇腹にローゼは仰向けに倒れこみながら膝蹴りを入れ、背中が床に着くと同時に全力で蹴り飛び、下敷きになるのを回避して跳ね起きる。
「そら、どうする!」
「くっ」
そのまま踏み込んで最上段から刀を振り下ろすが、左手を床に着いたまま構えた剣に阻まれ、刀がハルの身を切ることはなかった。しかし、次の対応が出来ないその場しのぎの技でそのまま追撃されないなどありえない。
ローゼの左手が伸び、ハルの襟首をつかむ。そして、床に叩きつけた。
「次の手を考え続けろと教えたはずだ!」
「うがぁぁぁっ!?」
木端が舞い、何かが潰れたような音が響く。そしてそのままローゼはハルの体を持ち上げ、壁に投げつける。
ハルの体はそのまま壁に叩きつけられるかと思われたが、しかし、投げ出されるまで死んだかのように力の入っていなかったハルの体が動き、空中で回転、壁に着地し、足をばねのようにしてローゼに飛び掛り、その勢いのまま切りかかる。
「ウラゥゥゥッ!」
「むっ」
ハルの獣のようなうなり声、そしてその気迫に並ならぬものを感じたローゼの体はほぼ条件反射で動作を行った。まずは納刀、鞘に刀を納め、腰をひねって力をためる。そして抜刀。引き抜かれ振られた刀は空気を切り裂き真空を生み出す。そしてその真空の刃、鎌鼬は剣を持つハルの右手を斬り飛ばした。
「しまった、つい!」
「黄昏の右腕」
『つい、うっかり』の気楽さで人の腕を切り飛ばしたローゼだが、その目には信じられないものが映る。エコーがかかったかのようにハルの声が低く響いたかと思うと、ついさっき斬り飛ばしたハルの右腕が黒く再生したのだ。これにはさすがのローゼも後ずさり、様子見に徹する。
「抜剣、断隆剣サモセック」
ハルはそのまま右手を動かし西洋剣を現出させそのままその剣を握るとそのままその剣を最上段でローゼに振り下ろした……!




