第87話 世間の評判ばかりじゃん
多分この次くらいでこの件終わるはずです。多分。
~フォーリン・カーズ・路地裏~
「っぜあぁっ!」
「中々熱い、だが!」
ハルは力の限り雄たけびを上げながら全力で剣を振るい、リードはそれを両手の獲物で捌き続ける。振り落とされたならば横へ逸らし、薙ぎ払われたならばカチ上げるか叩き落す。一見すればハルがリードにあしらわれているように見えるかもしれない光景だ。しかし、リードは攻めに転じることは出来ず、防戦一方だった。なぜならば。
「ぜぇぇい!」
「なっ、くっ」
力の限り振り切っているにも拘らずすぐさま次の攻めへと転じる。腕の腱が伸びきっているはずなのに何事もなく刃を引き戻し振るう。それに対してリードは両手の獲物を交互に使って何とか受けきっている、といったところだ。しかも一撃一撃は紛い物無しの必殺の剣。当たればただじゃすまないどころか負けが確定するだろう。そんなものを受けていてリードの腕が無事かといわれれば当然の如くNOだ。片方の腕がしびれた傍からさらに振るわれる必殺の一撃。それをいなすためとはいえリードは一歩一歩後ずさっていく。だが、この路地裏の先は行き止まりだ。いつか必ず壁にぶち当たる。
「しまっ」
「っざぁぁぁ!」
「!?」
リードは壁に背中がついた瞬間、意識をそちらに向けてしまった。間髪入れずに雄たけび交じりの必殺の刃が迫る。リードは両手の獲物を交差してその一撃を受けようとする。下から上に振り上げられたその一撃は確かに防がれた。だが、その一撃の衝撃に耐え切れず交差した腕が弾かれる。その瞬間リードの眼前に映るは剣を振るった腕は後ろに放ったまま足を前蹴りのために構えこちらを睨みつけるハル。
「ソォォォンンン!」
「っが!?」
そのまま繰り出された蹴りはリードの腹に突き刺さり壁をぶち破って吹き飛んでいく。ハルも迷いなく開けた穴から中へと入っていき、床を転がるリードにもう一発蹴りを入れて建物の外へと放り出す。
「え? え?」
「釣りはいらない、迷惑料と弁償代として受け取って!」
ハルは戦利品のアンキモ(PK達の金)を建物の主へと投げ渡すと返事も聞かずにリードを追って建物の外へと飛び出る。ちなみに、ハルが渡した金は建物の修繕費にはなるが小物などの完全買い替えには微妙に届かなかった。まあ、それでも結構な大金を投げ渡しつつ、ハルはインベントリを操作して剣をしまい、ハルバードを取り出す。その時ハルの目に映ったのは吹き飛ばされた状況から立て直そうとしているリード。
確認したと同時に全力で踏み込み、切っ先をリードの首筋に向けて近づきながら突き出した。
「ブレェェェッ!」
「ちっ、槍じゃないか!」
リードはその突きを立て直しかけていた体勢を崩し、地面に伏せるようにして回避、そのまま腕のばねを使って跳ね上がりながらハルの顎を裏拳で下から殴り上げる。
「っし」
「何安堵してんだ?」
「なっ」
しかし、ハルは怯まず仰け反らず、顎に当たった拳を槍を持っていない左手で掴むと後ろを向きながら腕を振り、そのままリードを投げ飛ばす。
「ハン! ダンスダブ! って奴だ! ローゼが高軌道で撹乱戦法使ってきた相手にカウンター決めながら言った台詞だが、イカシテルダロ?」
「他人の受け売りだらけの人間は碌なもんじゃないというがな……」
「Вы не я в нем……キミの言えた台詞じゃないだろ? 言うだろ言うがな世間の評判ばかりじゃん」
そう吐き捨てながらハルが一歩踏み出した瞬間、ハルの髪を矢が掠め、ハルは思わず振り返ろうとするが、猛然と襲い掛かってきたリードのほうへ対処するために振り返るのをやめ二振りの間にハルバードの切っ先を合わせるが、やはり背後から矢が襲い掛かり、真横に転がるようにしてハルはそれを回避する。
ハルは体勢を立て直そうとするもののすぐさま後詰めに入るリードの攻撃をかわすためにバク転で距離を取り、またも背後から飛んでくる矢を姿勢を低くして回避する。その時左手でインベントリから取り出した拳銃を背後に撃ち放つも、反応はない。
「フフ、君は追い詰めていたつもりなんだろうが、違う。追い詰められたのは君の方、そういうものだろう?」
「チッ、カラクリは解けたが攻略法がなぁ」
ハルはそのまま襲い掛かってくるリードと矢をいなし続ける。攻略法が思いつくまで。
――――――
~フォーリン・カーズ・上空~
ハルが有機物と無機物のコンビを相手にしている最中、ブラックは少女を抱え空を飛んでいた。そのブラックの背中には赤色の光が翼のように噴出し、気流を捉えて飛翔している。
さて、そもそも何故飛んでいるのかというと、大量の敵を撃破した次の瞬間わんこそばのように敵の増援が出現したのでやってられないとさっさと少女を抱きかかえて飛んだ。しかし、ブラックは何処か腑に落ちない。ブラックは抱きかかえた少女の顔を見て問う。
「んじゃ、ちょっと聞きたいことがあるんだ。まず、アンタの名前は?」 「ヨミ。一応サービス開始直後からやってる」
「連中に心当たりは?」 「ない。知らない人たち」
「狙われる理由に心当たりは?」
「……ない」
「ふむ、ここが隠しどころか」
無頓着に放たれたブラックの言葉にヨミと名乗った少女の目が見開かれる。その表情を見て、ブラックは一つため息をついた。
「はぁ。あのねぇ。ほぼ無拍で答えられてた質問に詰まっちゃそこが隠したいところ、後ろめたいところってわかるよ。これで探偵か、なんて目で見られちゃ小学生でもコナンになれるさ」
コナンは元高校生なだけの小学生だ。まああの街の犯罪率とか考えてみるとおかしなことにはなるが。
「で、狙われる理由は? 話してくれないと対処も出来ない」
「多分、空間連結の擬似的再現に必要な人間だから」
「空間連結? それって、ドイツのフリードリヒ博士が理論提唱したあの?」
ブラックの疑問にヨミは首を頷かせる。
「うん、でも、ほとんど再現は出来てる。私が必要なのはもっと大規模なものにするため」
「……エネルギー増幅だの、そういう類のものを持ってるって認識でいいかな?」
「……うん。や、やっぱり、迷惑」
「ハ! バカ言わないでくれよ、女に迷惑掛けられるのは男の解消ってねえ」
声を震わせるヨミの不安、そしてふとよぎった尽きぬ多勢との戦いへの不安を吹き飛ばすように、ブラックは嘲る様に笑い飛ばす。
「それに、あの赤い髪紐つけた金髪、見たでしょ? あいつ強いんだぜ? 小さな頃両親を失っても折れずに『刑事になる』って目標に全速前進。眩しいけれど眩まない、それどころか目を惹かれる輝く闇。アイツは何処か何か矛盾しているのに格好いいのさ」
ブラックがそういって気取ったように笑った後ヨミのほうを見ると、ヨミはその顔を強張らせていた。まるで、見てはいけないものを見たかのように。
「おい、どうした……ッ!?」
ブラックは脳裏をよぎった稲妻のような直感に身を委ね素早く高度を下げると、その真上を矢と呼ぶにもおこがましい槍が先ほどまでブラックが飛んでいた場所を貫いていく。
「オイオイオイ、マジかよ、なんだありゃぁ!?」
振り返ったブラックの目に映ったのは巨大なボウガンを持ちこちらに照準を合わせている巨大なドラゴンだった……




