第83話 少年がいた
なんだろう、こんな話を書いておいて活動報告みたいなことほざくなとか言われそうだけれど。カタルシスのためのフレーバー的な要素なんで。この作品だけでこの章の真相わかりやすくするための下準備なんで。
あるところに、少年がいた。
母親を通り魔に殺され、悲しそうな顔をする父親を見て、少年は仮面を被った。気高く、強い偶像の仮面を。そして、守るための力を欲した。
あくる日、少年は怪物に襲われる。正しく物語の中の怪物に。知り合ったばかりの学友を逃がし、絶体絶命の少年を救ったのは赤と青の二人の戦士。そして青の戦士の持っていた黄色いハコに選ばれて、少年は怪物と戦う力を得た。
少年は戦った。見知らぬ後輩を守るため、同じクラスの少女を守るため、怪物へと身を堕した人間と、戦い続けた。少年の体に傷が生えようと、守りきれず慕ってくれた後輩を失おうと、町一つ簡単にかき消せるほどの欲望を力へと変え振りまく怪物と戦おうと、奇妙な絆を感じ始めていた親友と戦い、その命を一度とはいえ落そうとも。けして立ち上がれないような状況だろうと、諦め悪く立ち上がり、戦い続けた。
その戦いが絶望してしまった人間の破滅願望に利用され、世界が呆気なく終わってしまった時は、落とし前だけでも付けさせようとその人間のいる塔の屋上へと登った。途中、白黒の双子が強大な敵へ立ち向かい相打っても。途中、赤き剣士が倒した敵の悪あがきでその命を落しても。少年は青き死神と塔を上る。決して、振り返らずに、いなくなってしまったヒト達の言葉を抱えて。
絶望した人間と戦い、青き死神の犠牲がありながらも勝利した少年は一人の人影を見つける。それは、両親がいないからと少年の家へ居候をしていた少女。少女は、最初から全てを知っていた。『神へと至る為』少年の親友を、絶望してしまった人間を囃し立て、この状況を生み出し、少年へ『一緒に神になろう』とほざいた少女へ少年は槍を向ける。仮面のままに、胸に秘めていた想いを押し殺して。
そして、少女に手をかけた少年は気付いた。もう、戻れないことに。もう、後はないことに。気付いて気付いて気付いて気付いて気付いて気付いて気付いて気付いて気付いて気付いて気付いて気付いて気付いて気付いて気付いて
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~天志田邸~
夏。蝉の音が体感温度を底上げし、26世紀にもなったこの世界でもその猛威を振るう。冷房こそついているが変な夢を見たりと精神的にやられている今の葉楽には焼け石に水で、葉楽は天志田邸の今で思いっきりだれていた。
頭に反響する先日、と言うか昨日の敗戦。最初やられている様に演じられただけでも葉楽のなけなしのプライドを逆撫でられていると言うのにそれを指摘された後のトールはまさにバケモノ染みた強さだった。こちらの攻撃はまともに通らず、相手の攻撃は辛うじてかわせる程度。それも段階踏んでこられたらクリーンヒットする程度のものだ。AMにおいて葉楽はトールに一度も負けたことはない。実際、AMで大事である判断力、反応ではこちらが勝っている自信はある。機体構成は比べようにもコンセプトが違いすぎて一概に言えない。昨日の戦いでもその部分で負けた気はしない。だが。
擬似的なものとはいえ、生身での戦いは他に重要な要素があり、そこで負けたからこそ負けたのだと感じていた。タフネス、根性、ここ一番での度胸。相手は踏み込み、こちらは慄いた。だから負けた。脳裏に浮かぶ寸前の戦いで思いついた自らの咄嗟に用意できる最大火力、【ブルーミン・ストリーム】。小規模な爆発を連鎖させることによって回避はおろか、防御も容易ではないあの技。その技を真正面から打ち破られ、光に飲まれた。肩にのしかかるのは圧倒的な敗北感と屈辱。
……そして、安堵。
最後の一つを感じてしまっているこの自分自身の心そのものが敗因のように感じられ、葉楽は寝そべっているソファの肘置きに顔を押し付けて自己嫌悪で呻いた。
「うあ~……」
「葉楽君、見たことがないぐらいだれとるのぅ」
「ズ、ズェア!? 士狼さん、出張じゃ!?」
「……昨日それから帰ってきたんじゃがのう」
全く、珍しく腑抜けていると思えば、と言う士狼の言葉すら今の葉楽には届かない。
見られた。見られてしまった。恥ずかしい。穴に埋まってこの熱を持った顔を隠したい。なら、穴に埋まるには。そう。
「は、腹を掻っ捌くしか!?」
「何時の時代の人間じゃキミは!? ちょ、力ツヨッ、茜ッ! 手伝っちょくれ、茜ェ!」
錯乱して近くにあったペーパーナイフを逆手に持って刃の部分を腹部に押し付ける葉楽を士狼は羽交い絞めにし、駆けつけた茜の鉄拳制裁で葉楽は正気を取り戻す。
「も、申し訳ない」
「年甲斐にもなくこんな大汗出させよってからに……」
「誕生日が近くなって浮かれるのもわかるけれど。もうちょっと落ち着いてみたら?」
「はい本当にお手数かけてしまって」
正座した状態で説教を受ける葉楽はペコリペコリと頭を下げながら申し訳なさそうに頬を掻く。
「まあ、なんか嫌なことでもあったんじゃろう。キミがそこまで取り乱すなんて珍しいからのぉ」
「まあ、はい」
葉楽は気まずそうに目を下げると、ふと、とあることを思い出した。
「そういえば、銀巨人を倒した怪獣って知ってます?」
「鬼みたいな怪獣か?」
「光線出しました?」
「じゃ、違うのぉ」
士狼は頬に指を当て空を見上げると思い当たる節を洗い出し、その中で一番該当していそうなものを上げることにした。
「銀巨人を倒した光線を出す怪獣で有名なのは宇宙恐竜かのぉ」
「宇宙恐竜?」
「対処法は反重力弾じゃが、当ては?」
「……今の装備じゃ、無理です」
「ふぅむ。まあ、ゲームの話じゃろ?」
士狼が葉楽に向き直りながら問うと、葉楽は首を静かに頷かせる。
それを見た士狼は左の掌に右拳を叩きつけ、軽い音を響かせながら言う。アラフィフどころかアラシク(アラウンド シックス=六十路 の意)近いのに動作は妙に若々しい。
「君なら大丈夫じゃろう! てことで車出してくれんか? 見せたいものがあってのぉ」
「はぁ……」
今の葉楽ではそのテンションについていけず、首筋をカリ、と掻いた。




