第77話 “詰み(チェックメイト)”
~フィフトハ・リーン前~
ローゼとトールの遭遇から数刻たち、ギルド、エレメンツの構成する戦列の少し後ろにいるローゼ達は、はるか遠くに微かに見える松明の火を見ていた。微かで小さい、そんな遠くの松明の日がその松明の持ち主達がいるであろう山の3分の2ほどを埋め尽くしているのを見てローゼはため息をつく。
「……なんでわざわざこんな人数で街を襲うのかなぁ、そんな元気が有り余っているなら新しく街を興せばいいのにぃ」
「ラックらしくない、土地は有限だよ? 利益を得ようと思ったらまた新たな場所を探すよりもあるものを使うべき、余計な費用がかからないからって言ってたのラックじゃない」
リーゼロッテがローゼの顔を覗きこんで不思議そうに言うとローゼは嫌そうな顔で遠くに見える松明を見つめる。
「それ実験室の話で他の大学に話つけに行く手間だよねぇ? それなら他の研究室と話し付けた方が交通費とかかからないとは言ったさ、でもこれ、入植とかじゃなくて侵略じゃないか、別物さ、宣戦布告なしのテロもどき」
ローゼは息を吐きながらD・G・マグナムとEx-S・ファランクスの弾倉を取り外し、きちんと弾薬が詰まっていることを確認するとまた改めて付け直す。そしてホルスターに直すと後ろを振り返り、セリオとハルの準備が出来ているかを確認する。
「Ready?」
「ええ、大丈夫よ」
「Да! いつでもいいぜ!」
ローゼの問いにセリオは静かに頷き、ハルは手に持ったハルバードを担ぎなおしながら元気よく答える。
「さぁて……!?」
その時、ローゼが何かを察知した。
―――――
~テイブレスの丘~
「はぁぁ!」
白馬に乗ったトールは飛んでくる銃弾、矢を盾で防ぎながら全速力で吶喊し、その後ろをエレメンツの戦闘員達と騎馬兵達が走って追いかけ、モンスター、攻め込んできた兵士達と激突する。
「いくらバケモノじみていようとぉ!」
「両面では!」
先頭を突き進み、後方に位置しているであろう指揮者を狙うトールに馬に乗った状態でも扱いやすいような形状の長剣を携えた騎馬兵が左右から同時に襲ってくる。
トールに接近した騎馬兵達は息を揃えて剣を振る。
「トゥア!」
「「なっ!?」」
しかしトールは月面宙返りのような形で馬から跳んでその剣を躱すと、右手に持った槍を一度手放し、盾の裏面に付けられた止め愚を右手の親指て弾くようにして外す。
左手の指を使って空中に浮かべながら盾を回すと遠心力で曲がりくねって折りたたまれていた心棒が真っ直ぐとなってその姿を現す。盾の状態でも凶器になりそうだった鋭利な切っ先は心棒の両端に移動し、回っているその棒を叩くようにして折りたたまれ、石突はなく両方に刃の突いた槍としてその姿を現す。
盾の時に外したものとは別の止め具を嵌めると連動するようにカチリカチリと繋ぎ目の留め具がはまっていき、不意に折れ曲がったりは早々ないような状態となる。そして右手には普通の槍を、左手には盾だった槍を持ち直し、左右の騎馬兵を貫いた。
「そしてぇ!」
右腕に乱暴に振るうと貫かれていた騎馬兵は地面へと投げ捨てられ、トールは愛馬へと綺麗に飛び乗る。そして左手の槍の持ち手に備え付けられた二つのボタンのうち片方を押し込みながら思い切り振り回す。すると槍先から綱が伸びていき、貫かれた騎馬兵の体を釣り糸に括られた餌のように扱いながら行く道の邪魔となっている敵にぶつけて殴り飛ばして道をこじ開ける。しばらくすると見えてきたのは野晒しの大将椅子に座った敵の指揮官らしき男を見つけた。
「見つけたッ!」
トールは左手の槍の先程押さなかったボタンを押し、糸を巻き返し釣竿のようになっていた槍を元の状態に戻すと愛馬の背中の鞍に足を乗せてそのまま跳び、大将らしき男に猛然と襲い掛かる。
「降りかかる火の粉はぁッ!」
槍を指先で軽々と回しながらトールは大将らしき男の目の前に着地すると両手の槍をしっかりと握り締めて両方の槍を振りかぶる。
「払わせてもらうッ!」
そのままトールは槍を大将らしき男に突き刺すが、大将らしき男の体に穴が開き、槍を素通りさせたかと思うと槍の柄の部分で穴が収縮し、槍を動かさないようにして固定する。トールはそのまま槍を持っているのは危険と判断し、手放した後に思いっきり後ろへと飛び退くと、今までトールが立っていた場所を大将らしき男から生えた棘が貫く。
「チッ、面倒だね、異星人か」
「ご名答。ま、地球人の体は液状にはなるまいよ」
トールが苦々しく呟くと大将らしき男は満面の笑顔で大きく腕を広げて答える。
「まあ名乗らせてもらうと私の名はロー。出身地、は空の彼方、とでもしておこうかな?」
「異星人ならそうだろうよ!」
腕を広げたままローの体から次々と生えてきては襲い掛かる槍を一切触れずに躱しながらトールは後ずさっていく。
「どうした? エレメンツのテンスと言えど武器もなしで液状の相手と戦うには不足かい」
「フン、挑発してもそうは行かない。力押し万歳直感万歳のあいつらとは僕は脳の構造が違うんでね。構造的弱点を探しているのさ」
トールはそう答えると一際大きくジャンプして一気にローから距離を取る。
「使い慣れちゃいないが……」
トールは左腕の袖下のホルスターからオートマチックのプルバック式のピストルを引き抜くと右腕の袖下からマガジンを取り出して装填、銃口をローに向ける。
「まずはッ!」
そのままトリガーを引き、弾丸が空気抵抗と銃口に刻まれたライフリングによって与えられた回転とで独特な軌道を描きながらローの体に突き刺さる。
「くっ、だがしかし私の体に固形物が入り込んだところで!」
「いいや、王手、だ。体にぶつかったならば多少なりともダメージが出るのがこのゲーム。完全にダメージを防ぎたいならば防具で防ぐか今さっきアンタがやったように穴を開け完全に避けるべきだ。銃弾は小さく軌道も単純、少しでも反応できりゃあ少しのダメージも与えられなかったであろうがね」
「うるさい! 戦ってる最中だぞ!」
銃を使われただけで今さっきまでの余裕をなくしものすごく小物臭くなったローは次々と己の体から槍を生やし襲い掛からせるがトールはそれを槍と槍の間の隙間に体を潜り込ませる様にして避けながら“王手”の理由を淡々と述べていく。
「つまり穴を開けようと思えばその場所を一々考えなければならない。反射的に穴を開けられるならその反射の穴を抜くために試行錯誤しなきゃならないけれど、“銃弾如き”対応できないレベルなら、賢者の使徒と呼ばれるレベルである魔法の使い手、エレメンツのテンスならば逆に防がれるほうが難しい。その発想力ならね。一人怪しいのは居るが」
とりあえず一つだけ言わせて貰うが、決してこの世界の銃弾が遅いわけではない。不意打ちで銃口の向きをわからせなければベックのような中堅プレイヤーがそこそこ巨大なギルドガン・ホー・ガンズの幹部クラスという比較的上級者レベルなら反応もさせずにぶっ殺せるレベルなのでかなりのスピードを誇る。初速350毎秒メートル程度だろうか。それくらいのスピードなら軽々とはじき出す。毎秒350メートルであればそれは立派な亜音速クラスだ。普通人間が反応できるレベルじゃない。それでも反応できてしまうのが高校生クラスにいる。異星人よりもバケモノ染みている。
「ハッ、だがしかし! 私がここで倒されようと! 別働隊が真反対の方角から襲う手筈となっている! その中にはあのレアモンス、ディアヴォロ・ワイバーンもいる! 先駆けの一番槍のお前をこの私が足止めし! 別働隊があの街に止めを刺す! それこそが私の策謀!」
「……へぇ、本当みたいだね」
自信満々に告げるローに対し、トールはディアヴォロ・ワイバーンと遭遇したと言う報告のウィンドウを横目で見ながら本当に驚いた風に言った。
「星砕竜とのレイドイベントも控えているのならばテンスは出張れて一人! よしんば残っていた戦力があってもテンス一人にすら及ばない! 私の勝ちだ!」
「あー、悪いが、やっぱり、“詰み”だね。実は今回、雇われの冒険者を用意した。傭兵とでも言おうか、その人の鎧はその自慢の悪魔竜のものだし、第一、エレメンツ・テンスのイルムを倒した前歴持ちだ。仕事人でね、とある約束をしたから任務は確実にやり遂げてくれるだろうさ」
呆れたように告げるトールの台詞に、ローの顔は急激に青ざめていき、慄き始める。
「ま、まさか、ガン・ホー・ガンズを潰した」
「御名答。ま、頭の回り具合は悪くないね。ここから逆転できるわけでもないし。さ、もう向こうは決着がついたみたいだ。前あれと戦った時は死にかけたとか聞いたんだけどあれ嘘だったのかな」
横目で【ディアヴォロ・ワイバーン、撃破】の報告ウィンドウを見ながらトールは腕を水平に開くと両腕に青白い稲妻が奔り、その稲妻の光でトールの表情は見えなくなった。
「強くなっていると考えよう。さあ、アンタの自慢は聞き飽きた、せめて苦しまないようにしてあげる。痛みは一瞬、魔法詠唱」




