第73話 ちょっとお話を、ね
~オネスト~
「キミ、リアルの呼び方すんな馬鹿! ネットエチケットくらい向こうにいるときに教え込んだだろうが!?」
「あぁ、そういえばそうだったね、えーと」
「ローゼ」
ローゼの言葉にエルのアバターは頬を掻き、セリオがそっと耳打ちをするとエルのアバターは笑いながら訂正する。
「そう、ローゼ。なんでラックじゃないの?」
「別に人の自由じゃないですかねぇ……!?」
エルの言葉にローゼは青筋を立てながら反論し、諦めたようにため息をつく。その後、仕切りなおすようにエルのアバターに問う。
「で、キミの名前は?」
「健忘症? 私の名前は「そのキャラクターのだ! 始める時に名前付けたろ!?」あぁ、そっち」
エルのアバターが自分の名前を名乗ろうとするのをギリギリで遮り、ローゼはエルのアバターのキャラクターネームを聞く。
「リーゼロッテ。私はそう名付けたから、リゼって呼んで」
「……わざとか?」
「まっさかぁ」
どことなく自分の名前の響きに似た名前をつけたエルのアバター改めリーゼロッテにローゼは呆れた目で疑問を投げかけ、リーゼロッテはその疑問を笑い飛ばす。
「セリオ。面倒は君に任せたはずだけど」
「アンタと同じところで訓練してたんでしょう? 短期間だけとは言えども戦力アップになるじゃない」
「全く……!」
ローゼはセリオへと向き直って問うと、セリオの返答にイラつき後頭部を掻き毟る。
「そも、パラムスは? 初期設定の中に生体認証がある。他人が使えるようになってないはずだ」
「自分の持ってたわよ?」
「アレでやるガンシューティングが楽しくて」
「君まともに扱えるのサブマシンガンとショットガンだけだろ……!?」
ローゼはこの暖簾に腕押し、糠に釘うちのようなもう何言っても無駄な状況に頭痛がし始め、こめかみを押さえてハルを横目で見る。ハルは慌てているどころか状況についていけず呆然としている。ローゼは舌打ちを一つすると諦めたようにため息をつく。
「ハァ……わかった! わかったよ……連れてきゃいいんだろ? ただし、幾つか条件を付けさせてもらう!」
「何ぁに?」
リーゼロッテの問い返しにローゼは手を突きつけて人差し指を立てる。
「一つ、俺がログインしてない時にログインをするな、キミはどうもネットエチケットについてものすごく甘く考えている節がある!」
「そんなエチケットとかマナーとか気にする場かなぁ」
「マナーってのは自分が不快な思いをしたくないから率先して守るもんだよ。守ってる奴だけがマナー違反者に文句を言える」
ローゼはそう言いきると中指も立てる。わかっているとは思うが数をわかりやすいようにジェスチャーとして数字の宣言をしているわけであり、決して喧嘩売るために中指を立てているわけではない。むしろピースサインだ。そもそもピースサインというのは日本に降り立ったマッカーサーが勝利宣言として落とした原子爆弾の数を示して日本人達に挑発したものが最初であるはずなのだが、“ニホン”の指を立てている事からマッカーサーは日本を立ててくれているという風に勘違いして広まったと思われるものだ。いや、事実は作者がまだ生まれてない時代のことだからわからないけども。
「二つ、別行動をしないこと」
「なんで?」
「さっき挙げた理由と同じだよ。目の届かないところにおいといたら何するかわからない!」
ローゼは心底嫌そうな顔をしながらそう告げるとどこかへ向かって歩き出す。
「ちょっとちょっと、どこへ行くの?」
「キミの装備を整えに」
―――――
~調剤屋兼鍛冶屋【Warnin' Boobm】~
「こんなところに店が?」
「まあ“こんなところ”ってのは否定しないけどねぇ」
ローゼ達は薄汚れた路地裏の中で不自然なまでに綺麗に掃除された区画に訪れ、その中の日光当たる大きな屋敷のような店舗の扉に近づきローゼはノックハンドルを持って337拍子のリズムを刻んでミラーの登場を待つ。少しすると大きな衝撃でドアが揺れたと思うと同時に轟音とともにドアが破られ、神社の神主のような和装姿のミラーが土埃とともに転がり出てくる。
「っがぁっ」
「ミラー!?」
「……まぁたアイツと喧嘩してんのかよ」
その転がるミラーを見てローゼは驚き、事情が大体把握できてしまったハルは呆れ気味にため息をつく。
「はいはーい、すみませんねぇーうちの馬鹿、が」
そしてまだ土埃が舞う店の出入り口からレイヴンが笑顔で出てきたかと思うとリーゼロッテを見てその笑顔が凍りつく。
「……何やってんの姉さん」
「いや、ちゃんと関係者いるでしょう?」
「え、ニホンの親戚ってもしかしてレイヴンのことだったのぉ?」
「おい、レイヴンお前日独ハーフだっけ」
「クォーターだよぉ!?」
レイヴンは笑顔を引きつらせながらリーゼロッテに何をしているのかを問い、リーゼロッテはそれにローゼを指差しながら答え、ローゼはリーゼロッテとレイヴンを見比べ、ハルが素っ頓狂なことをレイヴンに問い、レイヴンはそれに律儀に答える。ミラーはまだ倒れ付し、セリオはそれを靴の裏で踏みつけて反応を調べて強制ログアウトしていると判断し、プーランは店の中から怯えた目でその光景を眺める。
無駄にカオスである。カオスに有意義も無駄もあるのか知らないが。
ローゼは収拾をつけるのを早々に放棄し、レイヴンがここにいる理由を問う。
「っていうか、ギルドレイドイベント? ってのはどうしたんだよ」
「んえ、ああ、あれもそろそろ降臨間近ーって忙しい時にちょっときな臭いことが起こりましてねー。ちょーっと独自に動ける人間に当たってもらおうとしたらそこで倒れてるの、渋りまして。ちょっとお話を、ね?」
「「(肉体言語でか……)」」
レイヴンの答えにローゼとハルは未だにセリオに足蹴にされているミラーをちら、と見て自分の心の中で解決する。
「アイツが渋るって、どういう依頼したんだよ」
「いつものあいつだったら二つ返事で受けてくれるような依頼ですよー? 馬鹿共がうちのシマにモンスター連れて大群で攻め込もうとしてるからそれを迎え撃ってくれーって。別にどっかに潜入してテロみたいに内部工作して来いって言ってるわけじゃあありませんし。そもそもそれはうちの美学に反する」
ローゼの問いにレイヴンは役者めいたジェスチャーを交えながら説明する。
「そいつ、ただ単純に仲悪い奴と一緒に戦いたくないーってごねたんで蹴り飛ばしました」
「おいこら」
そしてレイヴンがサッカーボールを蹴るようなジェスチャーをした瞬間にローゼは呆れた目でツッコミを入れる。
「いやだって同じギルドの仲間ですよ? いざという時に戦ってくれなきゃ困るんですよ上層部として」
「上層部として人事はしっかりするべきでしょぉ? ってかぁ、ミラーがそこまで言うって誰と一緒に戦わせようとしたんだよぉ」
ローゼの呆れ気味の問いにレイヴンは頬を掻きながら答える。
「トールですよトール。コロナは正直言って多対多の局面で迂闊に切れませんしー。トールだったら他人を気遣いながら戦えますんで」
レイヴンの答えにローゼの目尻がピクリ、と動き、セリオ、リーゼロッテ、ハルの三人はその動きに一瞬身を強張らせる。
「……ほう? なら、その依頼はこっちが変わりに引き受けよう。あいつには個人的に用がある」
「……ああ、イルムから聞きましたけどテンス全員倒すのが目標、ですっけ? やるんなら依頼終了後にもどうぞ。もしも背中を撃つ様な事したら……」
「潰すぞ?」
「出来るものなら」
レイヴンは笑顔を消して目を細めながら腰に巻かれたベルトのハードポイントに取り付けられたマグナムを引き抜いて突きつけ、ローゼも左手でEx-Sを引き抜いて突きつける。
「まあ、そんなことはないと信じていますよ? あなたはまるで貴族のような誇り高さを持っている」
「Hum.俺で貴族ならお前は王族だな」
「当たり前でしょう? 僕ですもの」
レイヴンはマグナムをハードポイントに取り付けなおすとローゼの脇をすり抜けながらローゼの帽子の唾に何かの紙を乗せると、何かを取り出しリーゼロッテに投げ渡す。
「……そっちはいいか。これは?」
「場所書いた紙ですよ。馬車屋に渡せばタダでつれてってくれます。こっちで立て替えるだけですがね。では」
レイヴンはそのままどこかへと立ち去り、残された面々はしばし立ち尽くす。それでもローゼはその場で不敵な笑みを絶やさずにトールとの戦いを想っていた。出来ることならば、最近の迷いも振り払えることを祈り。




