第51話 セリオ、キミの意見を
~アクダク火山:洞窟~
レーダーに何か異物を感知したローゼはふと異物を感知した天井を見上げる。
「……むっ」
しかし、そこには何も無い。しいて言うならば光が無いので何も反射せずに闇を封じ込めたかのようにじっとりとした水晶だけだ。
「どうした? ローゼ」
その様子に気がついたターレットがローゼの肩を叩きながら声をかける。次の瞬間にターレットは地面へ顔面からダイブすることとなった。ローゼが肩を叩いた手を掴み、乱暴に放り投げたからだ。
「へぶぅぅぅっ!?」
「あ、ごめぇん。つい、無意識に」
「あんまり刺激与えないほうがいいと思うよ。暗闇で視界が聞かないから、その他の感覚が研ぎ澄まされてる」
ハルがターレットのほうを向いて語りかけた後、洞窟の奥を瞼を閉じたまま見やる。
「何かやけに静かなんだ。ディアヴォロ・ワイバーンの時みたいに。あの時は奥に威圧感を感じた。でも、今回は、どこからでも視線を感じるような、そんな感じ」
「走査の調子もなんかおかしいんだよねぇ。特に異物も無いのにどこか異常と言うかぁ。セリオ、キミの意見を」
ハル、ローゼの二人は腕を組んで考えながら、セリオがいたポジションを見る。しかし、そこには誰もいなかった。ローゼのレーダにも、異変は無い。穴が開いた様子も無い。地形に異変は無い。しかし、セリオの反応は消え失せていた。
「ッッッ!?」
「んなぁっ!? ロゼ! 背中を!」
師弟はすばやくそれぞれの獲物を構えながら互いの背中をくっつけ、いきなり背後を取られないようにする。
「ターレットッ! キミも……!?」
ローゼがターレットに意識を向けるとターレットの反応も消えていた。
「どうなっている!? 判断材料が足りない! トリックを暴けない!」
「わかんねぇ! 今分かるのはただ一つ!」
慌てるローゼにハルは叫ぶ。
「次は俺たちだ!」
ガォン! と、音がした。それだけで師弟は反応する。地面すれすれを動く何かを飛び越え、真下に来た瞬間に、全体重をかけて踏み砕く。
何かは暴れ、熱線を吐き出す。光は発さず、視覚できない。しかし二人はわずかに身をそらし熱線の被害が及ばぬ位置を取る。
「ハァル!」
「ロォゼ!」
互いに声をかけ、互いが無事なことを確認した後、その場を離れる。互いに奥へ。撤退は好みじゃない。それに、主にセリオ、後ターレット、二人の安否も気になる。入り口にいるなら勝手に帰るだろう。奥地にいるならば助けなければならない。なぜなら、拘束されてリスポーンできない状況かもしれないから。
踏み砕いたはずの何かは二人を追って動き始める。振動音を発しながら。
「ロゼ!」
「I know how to!」
ローゼはハルの声に応え、振り向くことすらせずに銃弾を背後の何かに放ち、それは確かに着弾した。着弾していなかったら跳弾として弾かれる角度ではなったのだ。弾かれる音はしていない。つまり、まともに入った。
しかし、振動音は止まらない。それどころか、分裂した。その振動音はまるで人の話す声のように二人の耳に届く。
≪I am known. It is which was. there are fear of Human. I am Abyss≫
「「うるせぇぇぇっ!」」
二人は叫びながらメダルケースを叩く。その音を振り払うために。
「魔法詠唱!『鉛よ弾けろ凍てつく何かをぶっ壊せ! 地属性魔法【メタリック・バースト】!』」
「魔法詠唱!『闇よ飲み込め怯えるそれを呑み尽くせ! 【ショゥルネァ・デラァ】!』」
投げられた金のメダルと黒のメダルが交差した瞬間、金のメダルか爆風を撒き散らしながら弾け、黒のメダルを吹き飛ばす。そして吹き飛ばされた黒のメダルは振動音の発信源の元へと到達した瞬間、光も、何もかもを吸い込み、擂り潰す超重力の穴『マイクロブラックホール』へと変わる。
しかしその超重力の穴ですら振動音は止まらない。場所が後ろから前に変わった程度だ。
≪That is Futility,I am Abyss.I Never lost≫
「本当に、消滅しないというのか……!?」
ハルが恐れおおのく中、ローゼは思考を巡らせていた。
レーダーは振動を捉えた。そしてそれはマイクロブラックホールに飲み込まれた。音とは空気の振動。動けば絶対に微小な振動が発せられる。つまり、レーダーに反応があるはず。瞬間移動の可能性、その場合また何らかのアクションがあるはず、レーダーで観測する限り特にない。実際に振動音は突然前方に移動しただけで今、足を止めているのに襲ってくる様子は無い。
状況を振り返る。セリオがいなくなって、ハルと背中を合わせ、ターレットも消えていて、ハルが叫んで、何かが襲ってきて、それを踏み砕いて、熱線をかわし、奥地へと進み、踏み砕いたはずの何かが追ってきて、それを撃って、それが喋って、マイクロブラックホールに飲み込ませたら、前方に現れていた。
ここでふと、ローゼは気付いた。レーダーの不調。闇の塊のような水晶。消えたように見えたときの自分の目線。何故、ハルは何故今目を開いて視覚で確認している? 目を閉じてそれ以外の感覚で把握していたはずなのに。それでは対処できない理由、何かによってそれでは困難にされたか、銃口を匂う、硝煙の匂い、嗅覚じゃない、銃口を舐める、鉄の味、味覚じゃない。手を叩く、何も聞こえない。
ローゼの頭からバチリ、バチリと空気の弾ける音が響き渡り始め、バチン! と一際大きな音が鳴るとローゼの耳にとある声が聞こえ始める。
「……ゼ! ローゼ! 聞こえてるの!? ローゼ!」
「幻覚!? 新手の魔法使いか!?」
強く二人のことを認識したローゼはとりあえず的外れなことを言っているターレットを思いっきり引っ叩く。そして空気の弾ける音を立てながら青白く光る手でハルの頭を掴み、バチン! と音がなった瞬間に、ハルの意識が途切れ、力無く垂れた。
「……俺としたことが、気付くのが遅れるなんて」
「正確にこの前髪変なのを引っ叩いたってことは目、覚めたの?」
「うん。水晶の振動音で生まれた波長で簡易催眠状態に陥っていたみたいだねぇ。すっげぇご都合主義」
ローゼは気を失ったハルを背負いながらセリオの問いに答える。
「で、それらの意識飛ばしたのは見せないため?」
「知ってる人間だけでモンスターと戦うことが無かったからねぇ。いっその事エレメンツの件が終わるまで人には見せないでおこうかなぁ、とねぇ」
「全く、どうせ気まぐれで見せるんでしょう? ならいつ見せても同じでしょうに」
「ま、これも気まぐれだからねぇ。感情論に“不正解”はないよぉ」
「“正解”も無いでしょうに」
「Hum,この件に関しては議論続けても意味ないよぉ? 何しろこれも感情論だもの」
「……フン」
機嫌が悪そうにセリオが顔を背けるのをレーダー(というより一種の感覚器といってもいいもの)で把握しながらローゼはとあることを考える。
先程、聴覚が麻痺していたにもかかわらずハルと“声”による意思の疎通が出来ていたことだ。ローゼはいくつかの推論を頭の中で組み立てる。が。
「(まあいいか)」
その推論の中で一番非科学的な【師弟の絆的な何か】という結論で思考を打ち切り、背負いなおしながら奥へと進む。ターレットも意識を取り戻し急いで追いかけてくる。
数分後、ログインしなおしたハルが「どうせならSexyな女性に背負われたかった」と言ってローゼとセリオのツープラトンを倉ってまた気絶する羽目になるのだが、関係の無い話である。
最初は「屋根の染みが顔に見える」的な落ちにしようと考えていましたが、そうしたら最初辺りの前置きが丸々意味不明なことになるので没にしました。




