第42話 電脳生命体
ちょっと学校の単位が危なかったのでそっちに集中してました。
峠は越えた!
〜ウィッシュ・リー〜
「はん、いくらあんたのパーティの中で最強で、たまたま俺に勝ったからと言って、俺を拒否する権限なんてないと思うけど?」
「フン、小学一年生みたいな見た目で偉そうに」
「一年生!? 小学生ならまだしも一年生だと!? いくらなんでも言っていいことと悪いことがある! そもそも流石に一年生に俺と同じくらいのデカさのやつはいねぇ!」
「140なんて少しでかい小学一年生くらいだろうが」
「訂正しろ! 143だ!」
「変わらないだろうに……」
そんな言い争いをする事2時間。流石に罵る語彙もつき、子供の喧嘩のようになって来た時、ハルとセリオの二人が一緒にログインして集合場所へ集まってきた。
「ちーび! ちーび!」
「ノロマ! ノロマ!」
「おーい! 待っ……何やってんのあんたら」
ハルが駆けて来て近づくとその幼稚な喧嘩にテンションを削がれ、セリオはいつも通りの仏頂面で近づき、二人を、剣先で突いた。
「あいたぁ!?」
「いったぁ!? セッ、セリオ、剣はなしだろぉ!?」
「うっさいわね頭冷やしなさいよ」
「現実じゃ傷害罪!」
「あんたのゲーム内でしでかした現実においての罪、いくらかしら。何回かPKしてるって聞いたから殺人罪はもちろんよね。銃を一般人の身分で持ってるから銃刀法違反、さらに何回か器物破損。……さて? どっちが?」
「……こ、の、あぁ~っ」
セリオは感情の行き場をなくし、唸るローゼを見て目を少しだけ細めると町の出口に向かって歩き出す。
「さて、いつものあんたに戻ったことだし、アクダクの麓の町に行きましょう?」
こともなく言うセリオに、ローゼは小さく呟いた。
「……鬼か何かか」
「何か言った?」
「いいえ、なんにもぉ?」
ローゼは睨み付けるセリオに意趣返しのように口元をにやけさせながらごまかす。
「どーでもいーから、さっさと行くぞ」
「……なぁ、ハル。彼、カルシウム不足なのぉ? あんな見た目だしぃ」
「……あのね、ローゼ。成長に必要なものはカルシウムだけじゃないのよ?」
「……そうそう。あいつの好物牛乳なのにあれだからな。分解酵素ないんじゃね?」
「聞こえてんぞ貴様らぁ!?」
まったく、とかぶつぶつ呟きながらイルムは門の外に出て右腕を上げる。
「カモン! E・G・ガスタ!」
叫びながら指を鳴らすと轟音が鳴り響き始めた。しばらく鳴り響いた後、空から青い飛行機が急降下して来た。
「セリオ! 俺の後ろに! ハル! 俺と風除けになれ!」
「ああ! ここで負傷者一命とか間抜けすぎる!」
「あんた達私を何だと思ってるの?」
ローゼが指示を出し、ハルが従い、セリオが細い目で突っ込みを入れる。そんなコント集団を無視して、イルムは降りてきた飛行機に指示を入力する。
「チェンジ! バトルモード!」
指示を入力された飛行機はモーターが駆動し、ギアが切り替わる音を響かせながら姿を変えていく。翼が中程から畳まれ肩部のパーツとなり、胴体と肩の付け根あたりから収納されていたのだろうか、腕が生えてくる。そして尾翼が開かれ腱部パーツとなり、翼の先が折れ曲がり捻られ膨らんで足へと切り替わる。そして機首が割れ、収納されていたのであろう頭部が現れ、ロボットとしての姿を現した。
「「「……」」」
思わず絶句する3人。しかし、セリオ以外の二人はすぐさま行動に移す。
「ハル! お前はあのロボットの下半身を調べろ! 俺は上半身を調べる!」
「応!」
そして二人が飛びかかった瞬間、ロボの目からビームが走り、二人を襲う。ローゼは地面を撃ち土煙を上げて補足をずらし、真横に飛んでそれを交わし、ハルは槍の穂先でビームを弾いた。
「おいおい、いくら設計の参考になりそうだからってそいつをロボット扱いすんなよ。そいつには意思がある、命がある。からな」
イルムはロボットに近寄るとさらに指示を入力する。
「チェンジ、ランドモード」
指示を入力したイルムがすばやく離れるとロボットはさらに変形し、車へと変わる。そして機体上部からはしごが下りてきた。
「んじゃ、梯子上った先のハッチから乗り込んでくれ」
「おまえはどうするんだよイルム」
ハルの問いにイルムは機体前部に歩きながら答える。
「持ち主がパイロットに決まってんだろうが。そっちは客間だ」
「納得」
そしてイルムが操縦席に乗り込んだのを見て三人は梯子を上りハッチをくぐる。
「ま、内部からの観察も乙、ってもんだねぇ」
「あんたにとっての粋が俺にはわかんねぇ」
―――――
~ヨゼフ荒野~
「それにしても、このゲーム、世界観がよく分からないなぁ。西部劇風だったり中世みたいだったり、こんな変形するのが居たりぃ。なんというかぁ、欲張りというかぁ」
「あぁ、意図的にそういう風にしてるらしいぞ? なんでも国内で流行っているゲーム内容が再現された町を作ってあって、プレイヤーがさらに新たな町を開拓する。そういうものだとか」
「うげ、マジかよ。ならアメリカとか行きたくないなぁ。確実に核戦争後みたいな町があるよぉ?」
「日本はそこらへん忌避してるからなぁ。まあ水爆実験で生まれた怪獣だとかに襲われてるからそういう感情が生まれるのもしゃあないけど」
そんな取り止めのない話をしていると、客間に設置されたモニタに映像が映し出される。イルムだ。
『あー、あー。本日は晴天なり、いや、曇天? ま、いーやそんなこと。フォーリン・カーズまで後30分程度で着くから外の轢かれたモンスターの内臓見ながら待ってるかログアウトして待ってなー』
「何でその二択ぅ?」
思わずイルムの言葉に突っ込むローゼ。イルムは聞く耳持たずにモニタが消えるが、セリオはそれを待っていたかのように話し始める。
「……そろそろ、いいかしら」
「何がぁ?」
「ハル、しばらくの間ログアウトしていてもらえるかしら? 10分程度で済むわ」
「んぇ? まあ、いいけどさ」
セリオはハルの体から力が抜け、半透明になるのを見た後、ローゼへと向き直る。
「さて」
「どうしたんだよセリオ? リアルに関係する話ならこっちもログアウトしてから……」
「説明するにはこっちのほうが都合がいいのよ。 話そうと思ったの。あんたを誘った理由を」
セリオのその言葉にローゼの目が細まる。ふざけた雰囲気が消え失せ、触れれば斬れる刃物のような雰囲気を纏う。ローゼはセリオがそもそも自分を誘った理由を思い出す。“VRの知識”。“戦闘技術”。この二点があるゆえに呼ばれたはずだ。
「何故、今?」
「あんたも、このゲームの世界に慣れてきたでしょう? 見たわよね。あの超AIで形作られたNPC達」
「あぁ。生きているとしか思えないほどに。だけどセリオ。生体CPUの件は君自身が否定したはずだけど?」
ローゼはセリオを睨み付けるが、セリオは堪えた様子もなく返す。
「えぇ。生体CPUではないわ。そっちの噂やあのNPC達はとあるものを隠すためのカムフラージュだと私は考えているわ」
「何を?」
セリオの思わせぶりな言葉にローゼは眉を顰め、怪訝な顔をしながら問う。セリオはその問いに間髪を入れずに答える。
「電脳生命体」
「電脳生命体? 何でそんなものが」
ローゼの頭の中には電脳生命体がこのクリエイト・ワールドに結びつく理由が思い当たらない。キーワードですら違う。辛うじてかする所は電脳くらいか。電脳生命体とは情報がやり取りされる空間の中に突如として生まれるイレギュラーファイルの事を指す。このファイルは時に他のファイルを捕食したり、繁殖したりすることから生命体と名づけられた。害をなすものと益をなすものがおり、害をなすものをディジタルデヴィル、益をなすものをディジタルエンゼェルと言ったりするが、そんなものはこの作品内の設定であるためこの作品を読むときだけ頭に入れておいてもらいたい。
「デビルかエンゼルかは分からない。このゲームの会社、天道コンピュータエンターテイメント、もしくはその系列天道コンツェルンのどこかの会社に生まれた電脳生命体。そのデータを取るためにこのゲームを生み出した……」
「何でそう考える?」
「不自然だからよ。これほどまでに世界展開しておきながらディスクは安いし課金要素もあまりない。採算が取れているわけがない。あのやり手の社長がこんなミスを犯すわけがない。株価も下がることを知らないほどだしね。ならば、それを補って余りある何かがあるべき」
セリオの言葉にローゼが続ける。
「それが、電脳生命体、ねぇ」
「それが半月後のこのゲームのPvP大会で商品として使われる、と情報が入ったのよ。だからそれを手に入れるためにあなたを誘った……」
「それもデータ収集のため、か。手に入れてどうするつもり?」
ローゼの言葉にセリオは笑って返す。
「デビルなら消すけれど。エンゼルなら何もしないわよ。あくまでも私は爆弾を取り除きたいだけだもの」
「……そうかい。ま、爆弾処理なら任せなよ。なんたって俺は傭兵らしいから」
「らしくないわよ?」
「自覚してる」
軽く返しながらローゼは壁にもたれかかり天井を見上げる。自らの記憶も見つけられないのに爆弾なんて探している暇があるのか。自らの素性も分からないのに頼られていてもいいのか。答えの出ぬ自問自答に襲われながら、ローゼはガラスの破片が落ちていく感覚に包まれた。




