第40話 合言葉は鎧装纏着(アームドオン)
今回は前置きです。恐らくイルムとの決着が付きますね。
D・Gはドワーフ・ギガントの略です。
~ウィッシュ・リー~
クリエイト・ワールドにログインしたローゼは宿屋の主人にセリオ、ハルが下りてきたら連絡するように伝えて欲しいと頼むとレイヴンとの話を考慮し、一足先に装備を取りにドワーフの酒場へとやってきていた。イルムと戦うために装備を整える必要があったからだ。
ドワーフの酒場は仕事終わりの職人たちで賑わっていて、陽気な騒がしさがローゼを包む。見回すと、カウンター席にブランゲラが座っていたので声を掛けると酷く驚いた顔をしていた。
「良いんですか? お連れさんたちを待たないで」
「少し戦う用事がありましてぇ」
ブランゲラはローゼの言葉を聞くと何も言わずに二つの銃を差し出す。G・マグナムとS・ファランクスだ。しかしその二つの銃は以前と違いバレルの下に剣が取り付けられているし、全体的なディティールも少し細かくなっていた。
「これは?」
「修理ついでに改修しました。軸など消耗しやすい部分には自動修復する特性を持った合金を使い、近距離戦用に銃剣も取り付けてあります。さらに影隼の銃のほうには冒険者の簡易銃弾が自動装填される様にしておきましたし、モード変更でその他の弾丸にも対応しています」
「ほぇー、ごっつい」
ローゼは感嘆の声を上げながら二つの銃を眺め、鑑定スキルを発動する。
隼昇銃・改【EX-S・ファランクス】
ATK+17 射撃精度補正5% 連射機能 MP消費幻影作成 SP消費超音波カッター発射 耐久値自動回復(1日3%) 耐久値 100%
影の名を持つ隼の嘴が銃の形に砕かれたものをドワーフの職人が改造したもの。銃口の下に取り付けられた軸を回転させ銃剣を銃口の先から伸ばせ、近距離戦に対応している。剣が曲がらない限りは機能的には互いに干渉しない。
装填には弾丸の入った箱ごとグリップに取り付けることにより自動で行われる。これによる弾詰まりは起こらないようになっている。その機能からか引き金を引いておくだけで連射が可能となっている。しかし負担がかかりやすいので注意。
二つのモードがあり、Iモードでは冒険者用の簡易銃弾、始まりの弾丸が無限に装填され、Sモードでは自分でセットした弾丸を連射できる。
魔力を消費することによりイメージに沿った幻影を生み出せ、体力を使い隼の刃を放つことが可能。読み方はエクセェス。
剛拳銃・改【D・G・マグナム】
ATK+25 射撃精度補正0% スイングアウト式 MP消費榴弾発射(条件:地属性魔法習得済) 耐久値自動回復(1日10%) 耐久値 100%
人間、ハーフドワーフの師弟、そしてドワーフの職人が作り上げたリボルヴァーマグナム。銃身の下に魔法合金を使った伸縮式ブレードを取り付けたことによって近距離戦に対応した。
装填する際は装填口から一つずつする装填と、弾倉を取り外し一気に装填する二つの方法がある。大口径なので高威力の弾丸が使用可能。
魔力を消費することにより榴弾を創造し、打ち出すことが可能。榴弾の性能はATK+10である。読み方はディグ。
「……一目見ただけで分かる。この性能は以前のファランクスとマグナムの比じゃあない」
ローゼは鑑定結果を見て驚愕する。2倍以上の性能アップ、これを驚かずにいつ驚くのか。驚きながらもホルスターに収めると、それを見たブランゲラは笑みを浮かべていた。
「でしょう? マグナムはあえて性能を下げて使いやすくしていたようですがね。恐らくこれの元を作った職人のところに持っていけば更なる性能アップが望めますよ」
「いえ、これだけでも十分です。それで、鎧装宝玉は?」
「こちらに」
ローゼの問いにブランゲラは短く答えカウンターの上に正五角形にかたどられた宝石が取り付けられた銀色のブレスレットを置いた。
「これが……」
「えぇ。合言葉は鎧装纏着。そして、戦いに行くのなら、これを」
続けさまに置かれた四角く平べったい箱のような物が取り付けられたブレスは、鎧装宝玉の取り付けられたブレスと対になるようにか金色で、箱のようなものの側面にはメダルケースのような穴が開いていた。メダルケースと違うところは細い長方形の穴ではなく、それなりの大きさの真円の穴であるところだろう。
「これは?」
「箱部分を叩けば簡易銃弾を生成してくれます。二挺拳銃の時の素早い装填用ですね」
「……ありがとうございます」
ローゼは左腕に金色のブレスレットを、右腕に銀色のブレスレットを填める。そして少しばかりの金をカウンターに置き、席を立つとブランゲラに礼を言う。そして店を後にする。
「必ず、勝つ。まだ情報届いてないけど、まあ何か一日が濃いしこういうこともあるな。うん」
空は藍に染まり、静かに街に夜を告げていく。店に明かりがともり、心地よい風がローゼの頬を撫でる。ローゼはまるでこれからの戦いを空が応援しているかのように感じた。
そして静かに闘志を燃やしながら町の北の門へと向かう。そこにはちょうどイルムが天より舞い降りていた。おそらく空の移動手段から飛び降りたのだろう。地表近くで風を巻き起こし、勢いを和らげて着地する。それによって周りには突風が吹き荒れ、ローゼは帽子の天辺を押さえ帽子が吹き飛ばされないように深く被り直す。
「随分と派手な登場で」
「いよっす、おにーさん。配達便だぜ。 随分なご身分だな?」
イルムは青い箱を投げ、ローゼはそれをキャッチしろくに確認もせずにインベントリに仕舞い込む。目と目との間に火花が散っている今はしょうがないと言えるが。
「リベンジマッチ、挑もうと思ってな」
「……フン、上等、受けて立つさ」
青いウィンドウが二人の目の前に現れる。それは、PvPの承認ウィンドウ。
互いの意思を確認する必要はない。御誂え向きに周りに人は居ない。二人は迷いなく承認ボタンを押す。
カウントダウンが、始まった。