第39話 未来の幹部への投資ですもの
~山岳ステージ【グラスィアリーズン】~
「レーダー……」
コックピット内の銀髪の青年、荒戸葉楽、ローゼス・ノブレスは眼球をモニターに映る光点を確認する。しかし、モニターには一切反応は映らない。
「……ステルス、だよな」
一人ごちりながら期待の周囲に気を配る。しかし眺めても眺めても茶色緑の山肌ばかり。そのとき、葉楽の脳裏に稲妻が走る。
「……ッ!」
葉楽が嫌な予感を感じフットペダルを踏みバーニアを吹かす。そして斜め前へと移動するとさっきまで葉楽の機体があった所に銀色の銃弾が殺到する。
「―――烏らしく空からか! レイヴン・クロウっ」
『―――流石ですよローゼス・ノブレスッ』
葉楽がコンソールを操作をすると銀と赤で彩られた機体はライフルを腰部装甲から引き抜く。
「Fire!」
葉楽がスティックのトリガーを握ると機体もトリガーを引きライフル弾を発射する。しかしレイヴン・クロウの黒基調のダークブルーの機体はチェインガンを発射しながらバーニアを吹かし回避する。そして発射されたチェインガンの弾丸を葉楽は真下へと急降下することによって回避する。
「魅せ付けろ! ノーブルナイト!」
『羽ばたいて! バッドクロウズ!』
葉楽の機体、ノーブルナイトはスラスター、バーニアを全力で吹かして振り子軌道を描いて上昇し、レイヴン・クロウの機体、バッドクロウズはまるで翼をはためかせるような噴射炎を吐き出しながら急上昇する。
葉楽がコンソールを操作するとノーブルナイトが肩のコンテナからミサイルを発射する。それを見たレイヴン・クロウは宙を仰ぐ体勢から反転して下を向き、左手に持った剣を振るいミサイルを切り落とす。
『こんなものが!』
「当たるなんて、思っちゃいない!」
葉楽はバッドクロウズが腕を振り切ったその瞬間を狙い引き金を引く。銃弾は鋭くその胸部に搭載されたジェネレーターを狙って駆ける。
『っち!』
それをレイヴン・クロウは右肩部のスラスターを吹かし回転。銃弾を回避し、回避が終わると左肩部のスラスターを吹かして姿勢を制御し、背部のブースター、バーニアを吹かして急降下する。
『ロォーゼェース!』
「レェェイヴゥン!」
急降下するバッドクロウズの剣を加速して迎え撃つノーブルナイト。しかし重力を味方につけているレイヴン・クロウの勢いを重力に逆らいながら殺しきれるわけもなく、錐揉み回転をしながら二機とも墜ちて行く。
「っらぁ!」
『そこっ!』
そこで二機は互いの体を掴んで放さず、胸部装甲内部に隠された武装を開放する。
ノーブルナイトは機関銃を50門無理矢理繋げた様な外観のバルカンファランクス【F・B・P】。バッドクロウズは蒼穹に輝く縦に長細い八面体のクリスタルのようなブラスター【アクゥア・シュトローム】。ライフルも、チェインガンも、ブレードも、ミサイルも、バンカーも。相対する相手には通用しないことを理解した上で切り札を見せ付ける。たった3分にも満たない攻防の中で互いに今現在の相手の力量を理解した二人は、機体の装甲と、武装の攻撃力、それぞれどちらが上なのかで勝負を決めようとトリガーを引く。
『ッ!?』
しかしレイヴン・クロウの眼前には白い噴煙が広がる。次の瞬間、実弾武装が着弾したとき特有の重い衝撃と轟音がコックピット内に響き渡る。突き破られていないのは腹部にコックピットがないが故だ。胸部は内部構造が露出するほどに損傷し、レイヴン・クロウはトリガーを引いてチャージしたままトリガーを引いていないほうの手でコンソールを叩いて断線したエネルギーパイプの供給を停止し、ブラスターにエネルギーを集中する。ブラスターチャージが間に合わなければエンジンやジェネレーターなどの動力源をやられ負けが決定してしまう。
「これでCheck mateだ!」
葉楽の脳裏に浮かぶのは、光学兵器の特性、それは正しく光の特性を得ていること。どこまでも鏡などが無ければ真っ直ぐ進み、光を遮る物がない限り進み続けるということ。しかし実際に遮られるものがない状況など現実世界には殆どといっていいほどない。だからこそ減衰率といううものがあるし、レーザーにも射程がある。ならば視界を遮るほどの煙幕を張れば光学兵器は空気を熱するだけとなる。そう、光学兵器ならば。
『チャージ完了!』
「チャージしようと!」
『アクゥア・シュトロームを舐めるな!』
そう、アクゥア・シュトロームは。
『アクゥア・シュトローム、Shoot out!』
ガン○ムのビーム兵器の様な重粒子を圧縮・加速し、放射する光線銃だったのだ。この場合例えるならば超が付くほど小さい砂鉄を熱して噴出すようなものなので煙幕で遮ることはできない。クリスタルのような放射部から発射された光り輝く重粒子はノーブルナイトの装甲を易々と貫き、レイヴン・クロウのコックピット内のモニターには【RANK9:RAVEN CROW'S WIN!】という文字が躍り、レイヴン・クロウはヘルメットを脱ぎ息をついたのであった。
~AM待機室~
『いやぁ、丁度“偶然”AMやってるとローゼスさんと出会うなんて、本当に運が良かったですよ』
「“さん”はいらないよ。何か君にそう言われるとむず痒い」
『ははっ、ですよねー。じゃあクリエイト・ワールドに因んでローゼ、と呼ばせてもらいますね』
「それでいいよ」
葉楽の目の前に浮かぶモニターには茶色い癖毛で女顔の気の強そうな釣り目の男が映っていた。なんと属性過多な男だろうか、装飾語が一つだけでも十分に代名詞として機能する気がする。
『セントウォルフの悪徳ギルドを潰してくれたそうで、真に感謝ですよ。謝礼はイルムに届けさせますので』
「忙しいんじゃないのか?」
『コロナやトールはそうですが、イルムは今の所暇なんですよ。ミラーもいますし』
苦笑するレイヴンを見て、葉楽は一般企業の窓際族を思い浮かべる。あえて細かく言うなら子会社から出奔してきた優秀な人間に仕事を奪われているような。葉楽はそういう所にいた事はないのでイメージでしかないのだが。
『ところで、聞きましたよ? イルムとPvPしたそうじゃないですか』
「負けたけれどな」
『一応このゲームのプレイヤーの中で上位グループに所属している人間ですよ? 始めたばかりで接戦できる時点で異常です』
そんなものなのか、と葉楽は感じるが、そんなことよりも聞いておきたいことがあった。
「ハルにクリエイト・ワールドのディスクを送ったのはお前か?」
『いいえコロナですよ? あいつんとこの会社が作ったらしくてですね。サンプルが十何本もあって邪魔だー、って言ってたところに欲しがってる彼が来ましたのでー』
葉楽はその言葉を一先ずは信じる。瞳も逸らさず、汗もかいていない。だが、全てを話しているわけでもないだろう。
『そんなことよりもですねー。聞いてくださいよー』
「? どうかしたのか?」
いきなり顔をほころばせたレイヴンに葉楽は嫌な予感を感じる。具体的に言うとSOEGのメンバーの一人である生物学者、ベンジャミン・フェニキシアンが新しいゲーム機を買ってきた。と葉楽に自慢しに来たら葉楽が既にそのハードで遊んでいたときのような予感である。その時は泣きながら何で買ったなら買ったと教えてくれなかったとか言われて勝手だろと返してさらに泣かれたことは脳裏に焼きついている。
『ようやくゲットできたんですよ鎧装宝玉ー! あれ持ってるモンスター倒しても4096分の1の確立でしか手に入らなくってー! 5000体目でようやく! 鴉怪鳥の嘴がドロップしましてー!』
予感的中。ここは当たり障りなく答えておくべき。そう葉楽は判断した。
「へ、へぇ、そうなのか。すごい、な」
出来ていたかはまた別の話となるが。顔は引きつり目は明後日の方向を見据えて声もなんかどもっている。これはレイヴンが不審に思っても不思議ではなかった。
『……どうしたんです? いきなりあせり始めて』
「なんでもなぁい、なんでもなぁい、よ?」
『ナ訳ねぇだろその誤魔化し方』
あまりにも怪しいその様子にレイヴンは目を細めて葉楽を見つめる。しかし少しするとすぐにため息をつきながら首を振った。
『……ま、いいです。どうせ一発で鎧装宝玉出たとかで気遣ってくれてるんでしょうし、とやかく言いません』
「(ばっちり気付いてやがったこいつ)」
心の中で葉楽が愕然としている中、レイヴンは続ける。
『それで今、ウィッシュ・リーに居るんでしたっけ? ハルに聞きました』
「そうだけど、それが?」
『いえ、どこか遠く目指してるみたいだから、と馬車の手配を頼まれまして? 目的地を聞こうかな、と』
レイヴンの屈託のない笑顔を見ながら葉楽は考える。割と手施し受けすぎじゃないか? と。
「アクダク火山近くの町お願いできる?」
『はい。フォーリン・カーズですね』
「『呪いに落ちる』? 不吉な名前だな」
『いえ、『車とかに落ちる』です』
「え!? とかってなんだよ!? あとカーズってcurseじゃなくてcarsかよ!?」
しかしその思考を二秒で切り返し、『もらえるもんはもらっとこう』という考えで目的地を告げる。プライドで強くなれるなら断っていただろうが。
「ま、まあいいや。礼を言わせてもらう。ありがとう」
『いえいえー。未来の幹部への投資ですもの。安いですよー。ま、条件を満たしたとき容赦などはしませんが、ね?』
「ハン、当然」
モニターを挟んだ顔が互いに鋭く歪む。凍えるほど冷たく、火傷するほど熱い。そんな矛盾するものを具えた獣のような獰猛な笑みを浮かべたのも一瞬。すぐに基本的な微笑んだ顔に変わる。
『では、ご贔屓に』
「あぁ。よろしく」
そしてモニターウィンドウは閉じた。そして葉楽もAMからログアウトしクリエイト・ワールドの世界へ飛び込むのであった。




