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第17話 その必要はないわ

なぜか予約投稿が出来ていませんでした。

今日の6時に更新する予定だったんですけどね。

 ~ナラツ湿地帯~


 パチャ、パチャ、と少し硬い泥を足で踏み音を立てながら4人は歩く。今回は周りにもまばらにプレイヤーの姿が確認できる。そんな中、ローゼは切り出した。


「なあ、セリオ、もうやってもいいんじゃないかなぁ?」

「せめてモンスター相手にやらせて頂戴。何が悲しくていきなりこんな何もないところであれやんなきゃなんないのよ」

「いや、だって驚くようなモンスターかもわからないしぃ、ねぇ?」

「無意味なことは嫌なのよ、私は」


 セリオは剣を手で弄びながら告げる。ゲームは無意味じゃないのかと聞くのは御法度だ。趣味を否定してはいけない。


「そうかぁ。じゃ、索敵頑張って見つけたほうがいいよねぇ~」

「ここじゃドーマンセーマンも刻めん。肉眼で捉えるしかないな」

「たまに擬態してるのも居るんですけどね。近くにしばらく居ないと正体現さない面倒なのが。こんなふうに」


 ケイトがはぁ、とため息をつきながら適当な木を殴ってへし折る。へし折られた木はうめき声を上げ倒れ、光の粒子になって消えた。


「……詳しいねぇ」

「いや、適当に折っただけ。割合が多いから3本折ればどれかはモンスターだよ? まあ、同じ場所にずっといない、ってのが林での鉄則。池や湖なんかはユニークボスのためのエリアだし、レベル上げがしたいんなら断然林だね」

「……なら、立ち止まってたほうがわかりやすいじゃない」


 セリオはシャリン、と剣を振り、側に立っていた木を見上げる。


「出てきたら叩き切ればいい」

「いや、大量に出てきちまうから。プラントモンスターはプラントモンスターでもこういうトレントとかじゃなくて、ドリアーデとかそこら辺の単体でいる植物を狙わなくちゃ徒労だっつの」


 セリオの言葉にミラーがツッコミを入れ、お互いがお互いの顔を睨みつける。


「……うるさいわね? 男女」

「……何か言ったか? 金髪ドチビ」

「ちっ、剣を抜け、頭を垂れろ! その無駄に整った顔切り刻んであげる!」

「はっ、ちびにちびっつって何が悪い! そのてめぇに不相応な綺麗な金髪短く刈り上げてやらァ!」

「仲間割れしないでよぉ?口は許すけど手は上げないように。仲間同士のPKとかばからしいじゃん」


 一触即発の雰囲気(というかもう喧嘩発生してた)を放っていた二人はローゼの言葉に渋々従い、口汚く罵るスタイルの喧嘩に変更し、その近くにいたら関係者と思われるためにローゼとケイトは数メーター先を歩き無関係を装う。手遅れだが。


「口で注意しただけでよく静まりましたね、あの二人。でもなんで口喧嘩なら許可したんです?」

「ここで無理にでも納めて不満溜め込んでたらここで聞いてようと後で必ず爆発するからねぇ。口なら大した被害も出ないでしょ~?」


 ローゼの言葉にケイトは納得した様子で頷いた。そして納得ついでに先ほどのミラーの言葉に補足を入れる。


「でもまぁ、ここにはいないけど、ギジェラだけは見かけたら逃げなきゃダメだけどね。単体でも」

「ギジェラ?」


 ケイトのげんなりした顔を見てローゼは問う。


「うん、ギジェラ。どっかで出てきた怪獣が元らしいんだけど……防衛隊とかのドキュメントにも載ってないしねぇ。とりあえず外側黄色で内側紫の花つけた木っぽい何かを見たら近づかないで。おぞましい目にあうから」

「お、おぞましい目ぇ? ど、どういうことぉ?」

「兄さんの友人の話なんだけどね」


 ローゼが声を震わせながら尋ねると、ケイトは声を潜めながら話し始めた。ちなみにミラーとセリオは後ろの方で口喧嘩中だ。同族嫌悪というやつだろう。


「その人、強い奴と戦うのが大好きな人だったんだ。その人がふと、木材欲しい、って仲間に言われてオネストじゃない、拠点の街の近くにあった森へと足を運んだ」

「あ、オネスト以外にも町あるんだァ」

「なかったらMMOとして駄目駄目だと思う。それで、なんかでっかい木が立っていて、これなら満足だろうと斧を取り出してその木を切ろうとしたんだ。でも、その樹はモンスターでね。触手を繰り出して襲ってきたんだ」

「なんかエロ漫画でありそうなシチュエーションだねぇ。知り合いに無理やり読ませられたのにそんなのあったよぉ」

「いやその人男だし。バトルジャンキーな女の人って割と救えないから……それで。その人は剣士で、触手なんて簡単に切り払えた。これは雑魚だな、って止めを刺そうとした時目の前に蔦が伸びてきて、その先には外側黄色内側紫の花が付いてたんだ。その人はもちろん切り払おうとした。でもその前に紫色のガスを吹きつけられたんだ」


 ケイトはジェスチャーを交えながら説明する。その時なぜかローゼはデジャヴを覚えた。あれ? この話どっかで聞いたことあるぞ? と。


「そして拠点の街に帰ってきたその人は何故か剣を構えたまま帰ってきて、通りすがりの人を切り裂いた」

「それを聞きつけた仲間の首領格、生意気ランク9が下手人コロナ・フェンサーを蹴り倒したところ、正気に戻って事の顛末を話した。……だっけぇ?」

「あれ? 聞いたことあるんです? ていうかそのあだ名なんですか?」

「AM。うん。思い出した。掲示板であの二人が話してた抽選でβテストプレイヤになったっていうゲームこれかぁ……!」


 デジャヴの原因は、すごく身近なものだった。しかし、これであの二人とのコネクションは出来たことになる。ならば、自身を鍛え、勝てると思ったとき、この目の前のコネクションを使ってあの二人との戦いの約束を取り付ければいい。たとえ、狂言誘拐なようなことをしてでも。そう、ローゼは考えた。


「……どうしたんです? 難しい顔して」


 ローゼの考えはどうやら顔に出ていたようで、ケイトは不思議そうな顔をしてローゼの顔を覗き込む。


「え? ……あぁ、ちょび~っと、考え事ぉ。きにしないきにしない」


 そのケイトの表情に罪悪感を覚えたローゼは舌足らずにした言葉で誤魔化し、罪悪感を払う。


「なんで舌っ足らずなんですか。キモ……外見に応じた喋り方してください。間延び言葉はまだセーフです」

「ねぇ君今キモいって言おうとした?」


 ケイトは無言で顔を背ける。


「ねぇなんで顔背けるんだよねぇ。ちょっと……ん?」


 顔を背けたケイトにそのまま質問攻めしようとしたローゼが何かを発見した。ローゼはローゼから見てケイトの後ろ側の方向を指差す。遠視スキルを発動して状況を詳しく確認しながら。


「ねぇ、ケイト。……何アレ」

「うっわー。蛸の怪物(ダゴン)みたいですけどなんだろうねあのプラントモンスター。気持ち悪っ」


 ケイトの目にもかろうじて見えるようで、目を凝らしながら捉えた特徴を言葉にする。

 ローゼの目に映ったのは枝も葉も花もついていない丸っこい樹木の怪物。しかし枝はないとしても根はあり、その根を振り回し周りにいる何かを攻撃していた。

 視線を動かして何を攻撃しているのかを確認する。そこにいたのは大学の自分のラボに所属する二人の女子学生だった。

 ローゼはその姿を確認するとホルスターからS・ファランクスを抜き、その現場である林が切り開かれたかのような広場の方へと駆け出した。


「あの二人っ!?」

「え!? どうしたんですローゼさん!?」

「知り合いが襲われてるから助けに行く!」

「えっ、本当!? ちょっと、そこの喧嘩してる二人!さっさと口喧嘩やめて……!」


 ケイトが後ろで口喧嘩している二人を呼ぼうと振り返ると、さっきまで口喧嘩していたはずの二人はもう口喧嘩をやめ、ローゼの後に付いて走っていた。


「んなっ!?」

「ケイトッ、さっさとこなきゃ置いてくぞ!」

「そうよ、口より先に体を動かしなさい」

「……っ、あんたらにだけは言われたくないなぁもう!」


 今さっきまでの自分たちを棚に上げた発言に怒りながらもケイトはその後に付いて走り出す。


「だりゃぁぁぁっ!」


 その間に広場にたどり着いたローゼは跳び、、振るわれた触手をブーツの踵についたカッターで叩っ切りながら女二人を庇える位置へと着地する。そしてその姿を見た黒髪の女、桜子のアバターは驚きの声を上げた。


「教授っ!?」

「あ……教授もこのゲーム、してたんだ……」

「してたんだよ。でもさ、何変なナマモノに絡まれてんのさ!」


 ローゼは足を振り上げ踊るように繰り出される触手を切り払いながら、後ろでなんかズレた反応を示す青髪の女、牡丹の言葉に答えながら、何故ここにいるのかを問う。


「この辺に綺麗な花が咲いてるから見たいって牡丹が言うから一緒に探してたんだけど、ナンパされてそいつらがしつこいから撒こうとしてたらこんなとこに出ちゃって」

「ネット内で実名さらすな! ていうか絡まれるなら魔物よりまだ人間のほうがいいだろう!? なんでわざわざ奥地まで来て撒こうとする!」

「まだ、花見つけてなかったしそれに、」

「それに!? なんだよ、さっさと言えよ!」


 援軍がなかなか来なくて焦るローゼは怒鳴り、続きを言えと急かす。


「人間もまた、魔物の一種なのです……」

「へぇ初耳だ! ならそんなこと書かれてた書籍を調べてそのことについて纏めたレポートでも出してもらおうか!?」

「え、資料集貸すけど読む?」

「どういう本!? 神話集とか!?」

「いや、特撮の資料集」

「ドタマハジくぞコラァ!」


 ローゼは触手を切り払いながら「ゲーム内で!」と付け足す。もう既に多すぎて切り払い方が連続回し蹴りみたいになっているが。

 その時、林からようやく援軍が飛び出し、モンスター本体にハンマーを叩きつけモンスターの体勢を崩す。


「ミラー! 遅いよ!」

「悪かったな遅くなって!」

「……女の子……?」

「れっきとした男だよ! ほら、髪も短いし体鍛えてるし体も女みてぇに小さくもねぇしヤワそうじゃねぇだろ!?」


 ミラーは着地しながら牡丹に向かってジェスチャーしながら反論する。しかし髪は長いが体を鍛えていて体もでかくてそれなりに頑丈そうな桜子が反応した。


「何? あたしに何か文句でもあるの?」

「うっわでっけぇ! 何食ったらそんなにでかくなんだよ!? ユウ……コロナとおんなじくらいあるんじゃねぇか!?」

「……割と今、暴言吐かれたことよりも、おそらく高校一年生くらいにあたしと同じくらいの子がいるって事にびっくりしてるわ」

「あぁ、うん。確かにコロナ・フェンサーは俺と同じ位の背丈してたね。でかかったよ? 細いけど」


 ここで補足。ローゼ、荒戸葉楽の身長は195cm、桜子の身長は188cmである。かなりでかい。

 とりあえずミラーはハンマーを振り回して襲い来る触手を叩き潰しながら名前を問う。


「ローゼの知り合い、ってことだけはわかるんだけどさ、あんたら名前は!?」

「私はPN(ペンネーム)チェリッサ。教授とはただならぬ仲よ」

「……PNじゃなくて、HN(ハンドルネーム)。私は、ピィニィ。私も、教授とはただならぬ仲……」

「えっ、ローゼまさかお前ハーレムの主?」

「違うから。デタラメ吹き込むのやめようか、二人共」


 信じかけるミラーにツッコミを入れながらローゼは桜子と牡丹改めチェリッサとピィニィ二人をたしなめる。


「え、家に挨拶しに行ったのに?」

「殺されかけたからの報復の殴りこみって言うんだよ? あれ」

「……一緒に寝た……」

「一緒に誘拐されて同じところに寝かされてただけだよねぇ? なんでそう誤解されそうな言い方するかなぁ?」

「……「だって恋しちゃったから」……」

「吊り橋効果だって。ていうか恋がすべての免罪符になると思うなよ!?」

「……二股ドクズ? いや、三股?」

「ほら! あのバ……純粋なミラー間に受けちゃってるから! 単位無くすぞこのバカどもが!」


 割と取り返しのつかなくなってきたのでローゼは全力でフラワーコンビの方を向いて怒る。ある意味ローゼも仲間だが。


「好いてくれるのはいいけどさ。それには答えられないって、言ったじゃんか。記憶取り戻せるまで、答えは保留だってさ!」

「だから好いて教授も私たちを好きになってくれるようにアプローチしてるだけだから」

「……最後に私達を向いてくれるなら気にしない……」

「でもさぁ……!」


 さりげなくハーレム容認発言をしているような気もするが、モンスターの近くにいるミラーは触手をさばききれなくなって何発か食らいながらローゼたちに向かって叫ぶ。


「お前ら実は余裕だろ? おい。ラブコメってないでさっさと戦え! いきなり見せつけられてもチンプンカンプンだ!」

「あっと、ごめん。なら、新武器を試させて貰おうかな!」


 ローゼはモンスターの方へと向き直り、片手でS・ファランクスを構える。


「超音波カッター!……!?」


 片手で構えていたローゼだが、体を無理やり操られるようにして両手で構えさせられ、体を傾けていたのが真っ直ぐに矯正される。そしてSPが消費され超音波の刃が発射され、モンスターの触手を全てまとめて切り裂いた。


「……なあ、ミラー。つかぬ事を聞きたいんだけどね? もしかしてスキルって」

「ん? あぁ、スキルはオーラナックルとかの身体強化系じゃなけりゃ動き強制されるぞ?リアルスキルない人間にとっては重要だな」

「この仕様スキル隙だらけになる! なんでSP消費したら一部強化やら発射されるやら応用の利くシステムにしないんだ!?」

「一応応用とかも効くぞ? キャンセルやら早打ちやら」

「格闘ゲーマーにしか使えないじゃないか!」


 ミラーの言葉にこのゲームの仕様の面倒さを感じながら騒いでいる間にモンスターは再生して切り裂かれる以前よりも多く、太く、強靭な触手が暴れまわり始める。


「……チェリッサ、ピィニィ。ここは俺たちに任せて、早く」

「逃げないって。ていうか教授、あたしが今さっきその坊ちゃんが言ってた仕様を活かせる格ゲーマーだってこと知ってて言ってるでしょう? あんなイカ樹の触手程度、このツインダガーで切り裂くわよ」

「……私も、弓で援護する……」


 モンスターの変容を見たローゼは二人を逃がそうとするが、二人共それぞれの武器を構えて逃げようとしない。元々戦おうとしていたようで、逃げる選択肢を持っていなかったからだ。好きな男の前、という結果、いいとこ見せよう、そんな気持ちも多少あるのだろうが。


「……仕方ない、ここは一気に懐に攻め込んで……!」

「その必要はないわ」


 林から飛び出してきたセリオは無数の残像を後引きながら飛び込み、その手に持った剣、ブロードソードを突き立てようと構える。


「……!」

「無駄ね」


 モンスターは残像を引き連れていた先頭のセリオを攻撃するが、その攻撃したセリオは虚空へと消え、残像のうちの一つが軌道を変え、モンスターの目と目の間に剣を突き立てた。そこはこのモンスターの急所(クリティカルポイント)だったようで光の粒子となって掻き消えた。


「はっ、はっ、結構長いし落とし穴あるし……! じゃなかった、ローゼさん! 何なんですあの技!? どこが初見で弱点わかる威嚇技ですか!?」

「いやあれ、前後に高速で反復移動してるだけだよぉ? 足構えとけば対処できる」

「わかるわけないじゃんっ!」


 さも簡単そうに言うローゼにケイトは激昂する。一応リアルで格闘術を習っているため割とプライドが傷つく。


「そこら辺はあぁ~、セリオ、任せた」

「はぁ、仕方ないわね。私の家、剣術道場開いてるの。体格が小さいから本格的にはやらなかったけど、逃げるための歩術だけ習ったわ。剣術が我流なのはそのせい。歩術の名前は『残光駆(ザンコク)』。絶対名前つけた人は色々とこじらせてるわね」

「そこら辺はまあ仕方ないような……」


 セリオの言葉に納得するケイト。そんな時、地響きが鳴り始め、泥に罅が入る。


「……じ、地震!?」

「……噂に聞いてたが、キーモンスターってのがいるんだってよ」

「ミラー、どうしていきなりそんなことを……まさか」

「あぁ。今さっきのがそうなんじゃね?」


 ミラーのその言葉と同時に広場の端から茨の壁が作られ、逃走不可能に。そして広場の中心部が完全に割れ、近くに立っていたセリオがそこから飛び退くとともに巨大な花をつけた植物がそびえ立った。


「あれはまさか、ギジェラ!」

「いや違う! ミロガンダだ!」


 ケイトの言葉にローゼが訂正を入れる。昔SOEGの仲間に見せられた植物図鑑にあった一種によく似ていた。大きさ以外。

 そのミロガンダによく似た植物は怪しく蠢いていた……。

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