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『魔王城の地下で税金を計算してた俺、いつの間にか世界経済の黒幕になる』  作者: ニートは34歳まで
第一部 地下の税務官編

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第一話 地下の税務官

2作目です。楽しんでもらえたら嬉しいです。

R15指定にしていますが,バイオレンス要素はほとんどない予定です。念のためになります。


 魔王城の地下は、静かだ。

 地上では勇者軍と魔族軍が何十年も戦争を続けているというのに、地下三階の財務管理室には、紙をめくる音とそろばんを弾く音しか響かない。


「……第三軍団、今月も食料費超過か」


 俺――アルト・ゼニスは、薄暗い机に突っ伏しながらため息をついた。

 職業、税務官。

 所属、魔王軍経理部。

 肩書きだけ聞けばすごそうだが、実態は“魔王城ブラック企業”の末端社員である。

 朝から晩まで領地税の集計、軍団予算の調整、壊滅した村から回収した資産の査定、さらには魔族たちの経費不正チェックまで。

 ドラゴン部隊の隊長は「火炎ブレスは業務上必要経費」とか言い出すし、吸血鬼貴族は高級ワイン代を接待費で落とそうとする。

 もう終わりだ、この組織。


「アルト、まだ終わらんのか?」


 筋骨隆々のオーガ上司――経理部長ガルグが、ドスドスと近づいてくる。


「今日中に北方領の徴税報告をまとめろ。魔王様への会議資料に使う」


「えっ、今日中ですか?」


「今日中だ」


「もう深夜二時ですけど」


「魔族に労働基準法はない」


 知ってた。

 俺は死んだ目で羽ペンを走らせた。

 だが、このときの俺はまだ知らなかった。

 この“ただの税務処理”が、世界をひっくり返すことになるなんて。


     ◆


 三日後。

 俺は、魔王軍最大の問題に気づいてしまった。


「……おかしい」


 山積みの帳簿を前に、俺は眉をひそめる。

 魔王軍は強い。

 圧倒的な軍事力を持ち、人類側の国家を次々と蹂躙している。

 なのに。


「なんで金がないんだ?」


 ありえないほど、財政が悪化していた。

 原因はすぐに分かった。

 徴税システムが雑すぎるのだ。

 地方領主が好き勝手に中抜きし、物納の価値基準はバラバラ。輸送中の損失も管理されていない。

 ひどいところになると、税収記録が「なんかいっぱい取れた」で終わっている。

 終わってるのはお前の脳みそだ。


「こんな運営で、よく今まで国が持ってたな……」


 いや、持っていないのか。

 戦争で奪い続けていたから破綻が表面化しなかっただけだ。

 つまり。


「略奪を止めた瞬間、魔王軍は崩壊する」


 その結論に至った瞬間。

 地下室の扉が、勢いよく開いた。


「いたぞ!! 地下の経理官だ!!」


「魔王様がお呼びだ!!」


 黒鎧の親衛隊が雪崩れ込んでくる。


「へ?」


 俺が間抜けな声を出した直後、腕を掴まれ、そのまま廊下を引きずられていく。


「ちょ、待っ、俺なんかやりました!?」


「貴様、北方領の赤字を三日で黒字化したそうだな」


「え?」


「魔王様が直々に興味を持たれた」


 ……あ。

 そういえば。

 徴税率を少し下げて、代わりに流通税を統一し、倉庫管理を数字化しただけだった。

 ついでに、腐敗していた地方貴族を二、三人処刑台送りにした。

 経費削減のために。


「いや、あれは普通の改善で――」


「黙れ。魔王様の御前だ」


 巨大な扉が開く。

 玉座の間。

 漆黒のマントをまとった魔王が、静かにこちらを見下ろしていた。

 その赤い瞳が細められる。


「貴様がアルトか」


「は、はい……」


「面白い」


 魔王は玉座に肘をつき、低く呟いた。


「余の国は、なぜ貧しい?」


 ――その瞬間。

 俺は理解した。

 この魔王は、“気づいてしまっている”。

 剣でも魔法でもない。

 もっと別の何かが、この世界を支配していることに。


 ――こうして俺は、魔王軍のしがない税務官から、世界経済を裏から操る存在へと成り上がっていくことになる。


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