その32の1「レオハルトさんとカツアゲ事件」
「だったら俺たちで
向こうの狙いを吐かせてやりますよ。
ダンジョンにでもおびき寄せて」
「無駄なリスクを犯すべきじゃない。
カイム=ストレンジに関しては
様子見を続けるように」
「ですが……」
「これは命令だ。良いね?」
「……わかりました。それでは失礼します」
「ああ、ちょっと待って」
居間から去ろうとした少年たちを、エミリオが呼び止めた。
「何ですか?」
「猫は元気そうだったかな?」
「べつに。のんきそうにしてましたよ」
「そう」
「もう良いですか?」
少年は、煩わしそうにそう言った。
「うん。悪かったね。呼び止めて」
少年ふたりは山荘から出た。
エミリオと話していた方の少年が、もう一人の少年に声をかけた。
「様子見様子見って、俺たちはいつ手柄をあげられるんだ。なあ?」
それに対し、もう片方の少年がこう答えた。
「自分がヘマしたからって、
俺たちまでヘマすると思ってるんだろうな。
あの人は」
「ははっ。そうだな。どうする?
命令を無視してやっちまうか?」
「あまり気が乗らないな」
「どうしてだよ?」
「転校生をやり込めたとして、
それが大きな手柄になるのかという話だ。
命令違反というリスクを犯すなら、
それに見合ったリターンが欲しいものだ」
「そうだなあ。どうせやるなら、でかい仕事が良いよなあ」
「帰るか」
「ああ」
少年は視線を動かした。
山荘の庭に、黒く大きい獣の姿が見えた。
「宝の持ち腐れだな。おまえも」
獣に向かってそう言うと、少年たちは山から去っていった。
……。
翌朝。
約束が有ったので、カイムは早めに学校に向かった。
カゲトラを寮に残し、カイムは猫車に乗り込んだ。
そこに見慣れた顔が有った。
「カイム。おはよう」
「おはよう。ジュリエット」
カイムはジュリエットに挨拶を返した。
そしてジュリエットからは離れた席に座った。
「ちょ、ちょっと! 私はここだよ!?
どうしてそんな離れた席に座るのかな!?」
「どうしてって、ここがすいてるし」
「えぇ……? 謙虚だね? カイムは。
わかった。私がそっちに行くよ」
ジュリエットは立ち上がった。
ナスターシャもそれに合わせて立ち上がった。
二人はカイムの方へと近付いてきた。
カイムの隣に座っていた女生徒が、シュバッと席を変えた。
空いた席にジュリエットは腰を下ろした。
そしてカイムに笑顔を向けた。
「ふふっ。これで隣同士だね」
「ああ。光栄だよ」
「だろう?」
それからジュリエットは、カイムと世間話をしようとした。
ルイーズに敵意を向けているという一点を除けば、カイムは彼女のことが嫌いではない。
カイムは話に乗ることにした。
猫車がのりばにたどり着くまでの間、二人は雑談をした。
のりばに到着すると、カイムたちはまっすぐに教室へと向かった。
教室に入ると、ジュリエットは室内を見回してこう言った。
「レオハルトさんは……まだ来てないみたいだね」
そのとき。
「いえ」
カイムたちの後ろに、ルイーズが姿を現していた。
「わっ!?」
ジュリエットは驚いて飛び退くと、背後のルイーズへと向き直った。
「来ました」
「……驚かせないでくれるかな?」
「すいません。
それでカイムさん。これからどうされるのですか?」
「まずは隣のクラスかな」
カイムたちは教室から出た。
そして隣のクラス、2年B組の教室を覗き込んだ。
「ここに怪の四、
レオハルトさん上級生カツアゲ事件の
目撃者が居るはずだ」
「怪とは……」
ルイーズの疑問を無視して、カイムは彼女にこう尋ねた。
「ルイーズ。
アンドレ=アングラードってやつが分かるか?」
「はい。1年生の時はクラスメイトでしたから」
「もう来てるか?」
「あの人ですね」
ルイーズは男子の一人を指差した。
「よし……」
カイムはアンドレに近付いていった。
少年は友人と会話中だった。
会話のジャマになることを気にせず、カイムはアンドレに声をかけた。
「アンドレ=アングラードだな。
ちょっと話を聞かせてもらって良いか?」
「話……?」
アンドレは意外そうにカイムを見た。
そしてカイムの背後にルイーズが控えていることに気付いた。
「ヒッ……! レオハルトさん……!?」
「落ち着け。今日はルイーズは何もしない。
ただ話を聞きたいだけだ」
「今日じゃなくてもしませんけど?」




