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52 管理官の仕事

綾は今、自室で女房達と大量の書類を前に格闘していた。


 それというのも、先日やっと東宮が会いに来てくれた。ほんのひととき甘い時間を過ごしたと思ったら急に現実に引き戻された。

 国の財務関係の仕事が滞っていて良い人材を探していると聞いた左近中将は適任者がいると伝えられたのが綾だったらしい。


 綾は後宮に来てから特にやることもなく暇を持て余していて、昼寝ばかりしていると周囲に思われているのを誤魔化すためでもあると言われて反論の余地もなく受けることになった。


 国として各農村や荘園からの税収に行事などで使用した物、公達からの報告書などが含まれていた。


 家にいた時からよく似たことをしていたのであまり深く考えずに受けたのだが、思ったより量も多くとても一人ではできる内容ではなかった。

 そこで実家から連れてきている女房の中で計算の得意な者と一緒に書類を確認しているのだ。


「姫様。これ、間違いが多いですね」


 女房の一人が言うと隣にいた別の女房も頷く。


「そうね。とりあえず間違っているところは訂正していって」


 綾は女房達に指示を出し、自分は最終確認と称してすべての書類に目を通していた。いくら人手不足だとしても東宮様が自分にこのようなものを頼むのを疑問に思った。


初日に東宮と担当官が書類を持って説明に来た。

 前日に東宮様からは実家でやっていたことは言わないようにとクギを刺されていたため、どういう態度を取ればいいのか迷ったが、東宮から言われて仕方なく引き受けたが少し困っているといった表情を時折見せてみた。その結果、担当官は勘違いをしてくれて、更には綾を見下し、最後には適当に見ていただければいいという言葉を残していった。


 東宮は帝の許可は取ったと言っていたが綾がこの手のことを得意としているのは話していないと言っていたことを思えばこの管理官にもその話はしていないはずだ。帰り際、東宮は笑みを残していったのを見て自分の態度は合格だと悟った。


 実際、後日 数人の公達が訪ねてきて綾がこの任についていることに同情的な言葉を投げかけてきた。ただし、その目は綾を見下している様があった。

 その公達たちは綾に分かるわけがないと思っているのだろう。綾は否定もしなければ肯定もしなかった。そして最後には担当官から適当に見ればいいと言われたと伝えると安心して帰っていった。


 周囲からは東宮姫のことを心配した東宮が何か仕事をさせ存在意義を知らしめようと考えたらしいといった噂が出回っていた。

 それと同時に東宮姫に分かるわけがないなどと嘲笑う者もいた。それこそが東宮様の狙いだった。


 一日目、綾は書類を見ていてあまりにも計算間違いや転記間違いの多いことに気がついた。その為、女房達にすべての書類の訂正を頼み、自分は訂正された書類の確認をすることにした。


 そして分かったのは、横領だ。

 ただの、横領だけではなく、数年前に起きた飢饉の補助金をだまし取っている公達も見つかった。

 間違いの数字を追っていくとどう不正をしたかがわかってきた。同じ要領で何件もの不正を見つけた時は驚きすぎて声も出なかった。

 よく今まで見つからなかったなと思ったが計算間違いくらいは見つけられたはずだ。それなら、あの管理官もグルだろう。


 綾が確認した書類は担当官が取りに来るかと思っていたがなぜか兄の左近中将が夜遅くに取りに来る。そこにも何か秘密があるのだと思った。


 管理官は別の任務があると東宮が言っていた。担当を外し、その間に調べようと考えているのがわかった。


「最近はどうしているの?」

「昨日は東の方へ行っていましたよ」


 何気に聞いてみる。

 兄はその意図に気づいているはずだが明言を避けている。その答えに綾は確信した。東宮は綾が調べた内容の確認をしているのだ。

 一昨日渡した書類の不正は東の領地のものだった。


 今日確認出来た分を兄に渡すと兄は早速帰っていった。

 綾はまだ残っている分の書類に目を通す。この中にきっと重要な何かが隠されているのだろう。

 不正だけを調べているわけではないだろうが、それ以上のことは分からない。それなら出来るだけ見落としのないようにしっかりと確認しないといけない。少しでも東宮の役に立てればいい。そんな思いから毎日遅くまで書類を調べていた。

 不正をしている者達のほとんどが皇太后派だ。皇太后に関わってくるものを探しているのかもしれない。

 そう思うとのんびりしていられず香奈には心配されたが、ひたすら書類の確認をしていた。一週間ほどが経った夜、兄がやってきた。


「皇太后様の審議が開かれることになったよ」

「あの事?」

「あの事」


 あの事とは皇太后が仕組んだ綾の密通の容疑だ。その場で疑惑は解けたが皇太后が綾に容疑をかけたことを重くみた父様と東宮、そして弘徽殿女御はきちんとした謝罪の場を設けるために動いていた。


 それというのも、あの場にいた者は限られていて、疑惑も解けているにも関わらず綾の密通の容疑の噂は瞬く間に広がっていた。

 皇太后は帝から謹慎を言い渡されている、それでも噂はどこからともなく流れていた。それは皇太后派の誰かが流していると考えていい。


 綾はその人物を探しているのだと思っていたがどうやら違っていた。

 今回の審議では反論の余地もないほどに証人、証拠を集めたそうだ。しかし、帝の態度次第ではどこまでの責任を問えるか分からないらしい。

 それならその後のことも手を打っておいた方がいいと判断したらしい。そこで、不正や偽装と言った内容で皇太后派の公達の力を削ぐ方法を取っている。

 この一週間で既に三人が職を追われたと伝えられた。


 兄からその話を聞いて綾はもう一度書類を見直すことにした。何か見落としがあるような気がしてきたのだ。


 皇太后派の力を削ぐには三人ばかりでは何にもならない。もっと多くの者達を捕まえなければ。

 そんな綾の姿に香奈や他の女房達の協力で今までよりも確認作業はかなり進んだ。

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