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ぐうたら姫の後宮生活  作者: こでまり


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51/71

51 想い

「東宮様。そのように急がれては」


 頭中将の言葉に耳を傾けるが気が急いてすぐに歩調は急ぎ足となってしまう。やっと堂々と会えるのだ。この機会を逃すとまた会えなくなるのではないかと不安がよぎる。


 皇太后の企みが失敗に終わった。それは喜ばしいことではあるが、帝の表情は芳しくなかった。それの意味することは何だろうかと気になっている。

 皇太后を糾弾することに躊躇いを持っているのか、それとも別のことに気を取られているのか。


 皇太后のあの態度は昔からあった。それはごく一部の者しか知られていない。帝が自分を産んだ母のことを考えて口封じを命じていたからだ。

 皇太后の行動と帝の口封じ。そのことで宮中では帝の弱みを握る者が皇太后を上手く操って帝さえも操ろうとしている。一時期その勢力は衰えていたが最近、また力を蓄えてきているようだ。


 今回失敗したことにより皇太后たちはこの次、何をするのか予想が出来なくなった。その前になんとしても東宮妃の身の安全を確保しないといけない。


「東宮様。そんなにがっつかれては、東宮妃様に嫌われますよ」

「なっ、なんだと? がっついてなどいない!」


 何度目かの頭中将の言葉に顔を真っ赤にして言い返す。確かに早く会いたいと思っている。その気持ちが歩く速度が速まっているのも自分でも気づいている。

 抱きしめたいと優しい言葉をかけてほしいと思っていることまでも見透かされていたのかと思うと急に恥ずかしくなり更に顔に熱がこもる。


「まあ、いいでしょう。今日は堂々と部屋を訪ねるのですから」

「部屋を訪ねてどこが悪いのだ」


 頭中将の一言が引っかかる。

 一体何が言いたいのか。立ち止まり頭中将を睨みつける。


「部屋に忍び込むことは今後、お控えください。あと、東宮妃様を押し倒すようなこともなさらないように」

「はぁ? 部屋に忍び込むことも押し倒すこともないわ!」


 そんなことするわけがない。勢いよく叫んだが頭中将は動じることはない。


「以前、東宮妃様の首元に赤い痣があったと香奈殿からお聞きしまして、もしやと思いましたが違いましたか」


 ワザとだ。頭中将はきっと気づいている。それでいて自分を揶揄っているのだ。

 東宮妃と会うことを禁止されているのにもし子でもできれば東宮妃の密通疑いは避けられなかったと大きなため息とともに小言を頂戴した。


「ともかく、私は戻ります」


 頭中将は踵を返してきた渡殿を戻ろうとする。


「一緒に来るのではないのか?」

「東宮様の愛の告白の立ち合いになれと? それとも閨の番でもさせようとお考えですか」

「そっ、そんなわけないだろう」

「とにかく仕事が残っていますので私は戻ります。東宮様も出来るだけ早くお戻りください」


 仕事とは先ほど麗景殿に忍び込んだもの達の取り調べだ。

 一人残され、気を取り直して麗景殿へ向かった。


 部屋の入ると東宮妃が席を立って上座を譲ろうとしたのを止めたが東宮妃はそれでも上座から降りて自分の向かい側に座った。


「先程はすまなかった」


 頭を下げた。自分の正直な気持ちだ。


「東宮様のせいではありませんから」


 その言葉にほっとしている自分がいる。東宮として常に後宮内の問題を見てきた者としてその言葉がどれほど自分を楽にしてくれるか誰も分かってはいなかっただろう。


 東宮妃には権力を使って後宮に入れてしまったことを詫びると、気にしていないと言われた。その理由は元から家を継ぐため誰かと婚姻を結ばなければいけないことは理解していたから。それが後宮という場所に変わっただけだと言われた。


 綾姫自身を見て東宮妃にと決めたことが嬉しかったと言われた。自分としては幼い弟宮たちのことを考えた時、綾姫が自分の理想の姫だと確信した。そして何より牛車の御簾の隙間から見えた綾姫は自分の心を一瞬で掴んだ。


 目の前にいるのは紛れもないその姫だ。そっと手に触れてみると少し驚いた様子だったがすぐに笑顔を返してきた。少し欲が出てきた。東宮妃の体を抱き寄せる。拒まれることはなかったので抱きしめたまま話を続けた。


「皇太后様がまた何か仕掛けてくるかもしれない。だが、そなたには手出しはさせない」


 東宮妃に言った言葉は自分自身へ誓いでもある。

ここまで来てしまっては弟宮たちをどこまで守れるか分からない。だが、東宮妃だけは必ず守って見せる。


「皇太后様はどうなりますか」


 帝は皇太后の謹慎で有耶無耶にしようとしていたようだ。だが、左大臣が東宮妃への謝罪を強く要求している。そこで皇太后の今回のことを審議する場を設けることを提案してみた。


 いつもならそこまでする必要はないと言ってくる帝が今回はあっさり認めた。それならと主だった大臣たちの前でことを明らかにしようと考えている。


「帝から謹慎を言い渡されている。近いうちに皇太后様がなさったことの審議の場が設けされることになった」

「皇太后様はお認めになるのでしょうか」

「必ず、認めさせる。左大臣殿も謝罪を要求しているからはっきりさせるには丁度いい」


 東宮妃は神妙な顔をしていた。おそらく東宮妃も先程の帝の様子が気になっているのだろう。今回はどれだけ帝の心を動かすことが出来るかが勝負となるだろう。

 それは審議の場に出席する大臣たちの考えも影響するはずだ。その為の準備は始めている。


 自分の大切な者達を守るための行動を起こす。その為には心を鬼にする覚悟はできている。

 自分が守りたいと思っている東宮妃に手を出したのだ。例え皇太后でも許すことは出来ない

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