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44 退屈な日々

 女房姿で秘密の部屋で人々の動きを観察して既に一週間が立っていた。

 例の護衛は東宮本人で時間が出来ると護衛に扮して綾を守ってくれている。あれから特に会話はないが視線を交わすだけで嬉しくなる。


 帥宮から受け取った文の検証は既に終えたがそれを証明する物が少なく皇太后を追い詰めるまでには弱いことが分かった。それならと新たな証拠集めを兄たちが動いているらしい。

 そしてもう一つ分かったことが頓死した先右近中将はあの男の義理の兄だった。もともとあの時、頓死したことを不審に思っていた東宮は密かに調べさせていた。そしてあの男が新右近中将となったことでその疑いが更に大きくなった。

 それというのも先右近中将とあの男の父は内大臣で頓死した先右近中将の母は正妻で宮家の姫君、それに引き換えあの男の母は下級官吏の娘だったため正妻からはかなり酷い扱いを受けていたようだ。

 綾との弓の試合で負けた時も家に泥を塗ったと言って無理やり出家させたのもその正妻だった。あの男が正妻や義理の兄、綾を恨むのも納得出来た。

 頭中将曰く、正妻が溺愛する息子に罪を着せ自分が返り咲く機会をうかがっていた節があったようだ。

 承香殿の前であの男、新右近中将が女房達と談笑しているのが見える。


 更衣の産んだ沙羅内親王や大納言家の綾を欲したのも正妻が産んだ義理の兄より上に立ちたいという思惑があったためだ。それを察しした正妻はあの男を出家させ色々な伝手を使い息子に右大臣家の三の姫との縁談を取り付けた。


 あの男は出家した後も虎視眈々と正妻と義兄に一矢報いるための準備をしていたようだ。油断ならない。


「よく見えますね」


 声のする方をみると奥の扉から兄と頭中将が入ってきた。


 綾の部屋からいくつかの部屋の中を渡り歩きこの部屋までやってきた。

 今は、表向き綾の部屋で二人は談笑していることになっている。その為、香奈は綾の衣を着て部屋にいるのだ。


「人の動きがよくわかるわ」


 綾の視線の先を見て兄と頭中将が笑う。


「確かに」

「それにしてもよくここまで調べ上げましたね」


 先日からこの部屋で見てきたことを書き示した紙を頭中将は見ていた。


「新右近中将殿の行動は謎が多いですからね。ここから見えているものだけでは判断できないものもありますが参考にはなります」


 兄の左近中将の視線はあの男に注がれている。


「そっちは何か分かったの?」

「色々とね。でも、まだ足りないよ」


 兄の言葉で皇太后を追い詰めるのはまだ先になりそうだ。その前に自分たちに災いが降りかからないとも限らない。


「皇太后様の目的は柾良親王様を東宮にする事よね」

「そうだよ。でも、現状は難しくなってきている」

「それは、東宮様が後宮の問題を解決しているから?」


 犯人までは捕まえていないが柾良親王の病の原因を突き止め、藤壺の物の怪騒ぎは賊を捕まえた。すべてを解決したわけではない。

 実際、柾良親王の病は美和が手を下していた。その美和は桜子の頼みで後宮から出てもらっている。今更罪を暴くことはしないはずだ。それに、藤壺の物の怪騒ぎは藤壺女御に懸想していた常茂が原因で起こったことだ。その常茂は既に亡くなっている。

 綾は常茂が生前言っていた藤壺女御と逃避行を計ろうとしたのは中納言が仲介になって兵部宮の許しを得ていたと言っていたことだ。


「中納言様は本当に藤壺女御様のことに関係していないの?」

「調べたけど、その痕跡はなかった。それに、物の怪騒ぎが起こり始めた時、中納言様の姉君の更衣が亡くなっている。それも更衣がいた部屋の床下から例のお札が出てきた。自分が疑われるようなことをするとは思えないけど」

「そうよね」


 綾はもう一度考えてみた。


「例の文は誰が書いたものかもまだ分からないのよね」

「今は範囲を広げて調べていますがまだ誰の筆跡かまでは至っていません」


 今度は頭中将から返事が来た。

 常茂は兵部宮からだという文を持っていた。その文はあの火事から逃げる途中、綾が持ち出していて今は東宮の元にある。その文の検証をしたが筆跡が兵部宮のものとは違っていた。

 調べた者の話だととてもよく似せている文字で誰かが兵部宮になりすまし文を書いたと思われると結論づけられた。その人物が分かれば少しは進展するのではないかと思ったがそこも手詰まりを感じているようだ。


「とにかく、何が起こるか分かりません。十分注意をしてください」

「分かりました」


 兄と頭中将は来た時と同じように奥の扉から帰っていく。

 暫くして綾の部屋がある方から二人が歩いていくのが見えた。その先にあの男、新右近中将が待ち構えていた。

 先日の公達の挨拶は東宮の許可があったが東宮は綾の部屋を訪ねるのは自分が許可した者だけと周囲に伝えたと言っていた。その為、比較的静かに過ごすことが出来ている。

 兄と頭中将は新右近中将と何やら話をしている。新右近中将は時折こちらに視線を投げかけているがその先は綾の部屋を見ていてこちらには気づいていない。

 兄たちの話だとあの男は綾の様子をしきりに聞いてくると言っていた。そのことで次の動きは綾を狙ったものだと警戒を強めていた。何を仕掛けてくるのか。

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