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グンマー大戦  作者: WW
第6章
18/31

救済と再会 3

 ハルナを背に庇い、レイは刀の切っ先をそちらへ向ける。いつでも動けるよう適度に脱力し、微かな動きさえ見逃さぬように感覚を研ぎ澄ます。


 一際大きな葉音とともに影が弾丸のごとく飛び出した。低い姿勢で突っ込んでくるそれは、両手に獲物を握っている。

 手数は相手の方が上。ならばと、レイは相手より先に踏み込んだ。そのまま刀を唐竹割に振り下ろす。相手は二振りのククリナイフを交差して刀を受け止めた。


「っ――レイ!?」

「ユ、リ」


 レイの押す力が弱まった隙に、ユリは跳んで後退した。

 強風に茶色の髪がなびく。うっすら青みがかった瞳が揺れ、レイの姿を映す。

 そこにいたのは、黒ダルマに殺されたはずのユリだった。


「どうして……死んだはず――」

「レイ!」


 ククリナイフを捨てて、ユリはレイに飛びついた。


「レイだ! レイが生きてた!」


 ユリは確かめるように何度もレイの名を呼んだ。満面の笑みを浮かべ、喜びの声を上げる。


「ユリ、苦しい」

「ごめん、でも、でも――」


 腕の力が弱まって、ユリがレイの顔を覗き込む。

 その目から流れる涙と、震える唇がレイの胸を熱くさせた。


「生きてて、よかった」


 胸に押しつけられた額から温度が伝わってくる。それが、彼女が生きていることを実感させてくれた。

 熱が喉を込み上げ、目頭がカッと熱くなる。堪えれば堪えるほどに視界は滲み、顎が震えた。ついに頬を滴が流れ、レイはユリの身体を強く掻き抱いた。


「俺のせいで、死んだかと思ってた」

「レイのせいじゃない。それに、私は生きてるから」


 くしゃくしゃなユリの笑みに、レイは安堵の表情を浮かべる。


「レイはここまで一人で――」


 レイの背後にいたハルナに気づいたユリは眦を決し、レイを背に庇って前に出た。剥き出しの敵意に、ハルナの表情が強ばる。恐怖に耐えるように己の胸に手を当てて、視線でレイに助けを求める。


「こいつに捕まってたの?」

「待て、ユリ。ちが――」


 ユリは聞く耳を持たずに飛び出した。脚のホルダーから予備のコンバットナイフを抜き取り、ハルナの胸目掛けて刺突する。


 レイは咄嗟に瞬劫を使い、ユリの首元へ刀を差し出した。もしユリがアクセルを使用していたなら、間に合わなかっただろう。ユリの首は飛び、ハルナの心臓は穿たれていた。だが、寸でのところでユリが踏みとどまった。ユリの首の薄皮一枚が切れ、傷口はすぐに修復を始める。


「レイ、刀を下ろして」

「ユリがナイフを下ろすのが先だ。ハルナは敵じゃない」

「何言ってんの? こいつグンマーの民でしょ? こいつらに私たちの仲間は殺されたんだよ!」

「違う。俺たちは騙されてたんだ。グンマ民は争いを好まない。俺たちが攻めなければ――」

「騙されてるのはレイの方だよ!」


 一際大きな声を放ったユリは、瞳に憤怒と憎悪を燃え上がらせ、射殺すようにハルナを睨みつけた。


「レイに何したの!?」


 ハルナは怒声に肩を揺らし、顔を背けた。そして、濡れた瞳でレイに視線を送る。


「レイ……」


 それが気にくわなかったのだろう。ハルナは目を見開き、双眸を尖らせた。


「女の武器で誘惑したってわけ? ――――殺してやる!」


 ユリは突きつけられた刃にも構わず身体を前に傾けた。このままではユリの首が切れる。苦渋の決断で、レイはユリを蹴り飛ばした。


 数メートル転がった先でユリは腹部を押さえてうずくまる。膝が鳩尾に決まったのだ。レイはユリがガードすると思い込んでいたため本気で打ち込んだのだが、彼女は反応すらできていなかった。

 駆け寄ろうとすると、腕の裾を引き留められた。振り返るとハルナが声を押し殺して泣いていた。


 彼女を抱き締めてあげたいと思った。だが、ユリへ駆け寄りたいとも思った。葛藤が渦巻く。片方を取ればもう片方は取れない。それでも、どちらも大切だった。

 レイはハルナを抱き締めた。白銀糸を撫で、耳元で囁く。


「もう大丈夫だ。ユリは誤解してるだけだから。今からそれを解いてくる」


 引き留めようと伸ばされたハルナの手が止まる。宙をさまよった手を己の胸に抱き寄せて、目を伏せた。憂いの表情を取り払い、彼女は笑みを浮かべる。


「……分かったわ」


 ハルナが胸元を強く握り締めていたことに、ユリの方へ顔を向けたレイは気づかない。


「ユリ、誤解なんだ」

「来ないで!」


 未だ苦しみに喘ぐ表情を浮かべるユリはゆっくりと立ち上がる。その目尻から流れる涙を見て、レイは息が詰まった。


「ユリ……」

「レイ、おかしいよ。なんでその女を抱き締めるの? 敵なんだよ?」

「だから、違うんだって」

「ねえ、目を覚ましてよ」


 もう戦意はないように見えた。代わりに彼女の瞳が悲壮感を帯びる。

 どうすれば分かって貰えるのか。考えても答えは出なかった。ユリとの間が途方もない距離に感じる。ここからでは彼女に声が届かない気がして、レイは足を踏み出した。


「動くな!」


 その太く低い声を合図に周囲から一斉に銃を構えた人間が現れた。いつの間にか囲まれていたようだ。七つの射線はレイとハルナを捉えている。


「武器を捨てて投降しろ」


 ハルナを庇いながらこの数と戦うのは無謀だ。だが、刀を捨てれば万が一の場合にハルナを守れない。

 トリガーをわずかに引く音が耳に届いて、レイは焦燥を募らせた。


「レイ、なのか?」


 その声には聞き覚えがあった。分厚い筋肉を纏ったスキンヘッドの男がレイの方へ近寄ってくる。その手には銃を構えたままだが、他と比べて敵意が和らいだのが分かった。


「マルス?」

「そうか、よかった。お前も生きてたんだな」

「ああ。それよりマルス。ハルナは敵じゃない。すぐに銃を下ろすように言ってくれ」


 レイの言葉を受けたマルスは静かに息を吐き出した。


「それは……できない」

「どうして!」


 問いただそうとするレイの後ろで、物音とともにハルナの悲鳴が響く。


「ハルナ!」


 地面に組み伏せられたハルナ。その頭部にはアサルトライフルの銃口が突きつけられ、捻られた腕が彼女の顔を苦悶に染める。


「やめろ!」


 瞬劫を使おうとしたレイの足下で銃弾が地面を穿いた。


「ったく、雑魚が手間取らせやがって」

「お兄様、昨日負けてませんでしたか?」

「うっせえ! ぶっ殺すぞ!」


 包囲網にゼロワンとゼロツーが合流した。アクセルを使用したゼロワンは、瞬劫を使用したレイと同等の速度を発揮する。加えて、虚番がユリを含めて九名。勝てる見込みはない。


「安心しろ、レイ。その子は捕らえるだけだ。生きたまま連れ帰るのがオーダーだからな」


 生きたままというのは身の安全を保証する言葉ではない。生きてさえいれば何をしてもいいという意味にも取れる。それに、地上に連れ帰られたらおしまいだ。日本で彼女を助けたところで、すぐに捕まるのがオチだ。

 レイは柄を握る力を緩め、鞘に収めた。


「ハルナに傷をつけるなよ」

「約束しよう」


 諦めたわけではなかった。隙を見つけてハルナを逃がす。

 後ろ手に縛られたハルナが不安を宿した瞳でレイを見つめる。すぐに駆け寄ろうとするが、それは向けられた銃口に阻まれた。


「おかしな動き見せたら殺す。いや、むしろ見せてくれた方が助かるぜ? 俺はてめえを殺してえんだからよ」

「邪魔だ」

「あ? てめえ図に乗ってんじゃ――」


 トリガーを引きかけたゼロワンの腕をユリの手が掴んだ。


「やめなよ」

「あ? 黙ってろクズ。てめえが先に殺されてえのか?」


 煽るゼロワンに、ユリは真っ直ぐ目を向けたまま逸らさない。それに気圧されたのか、ゼロワンは舌打ちして銃を下ろした。


「あーあ、興が削がれちまった」


 気怠そうに銃を肩に置いて歩き出すゼロワン。すれ違い様、レイの耳に囁き声が届く。


「――次は決着、つけようぜ」


 レイは別にゼロワンに勝ちたいとは思わない。そもそも性能が違うのだから、勝負する必要がない。それでももし、ハルナを助ける障害になるのだとしたら、決着をつけざるを得ないだろう。


「ユリ、助かった」


 感謝を述べるレイに、ユリは顔を逸らしたまま力なく笑った。そして、何も言わずに歩き出す。


 その背中は今まで見た中で一番、小さく見えた。

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