80話 ありのままに(主人公視点ではありません)
『この娘は天然なのか、それとも……』
目の前で部屋にいるメンバーにペコペコと頭を下げる女性を見て私は首を傾げる。
たまたまこの村に立ち寄った際に起こった事件。
その要因と同じ異邦人の冒険者でありながら、神官という職に従事する女性は今まで自分が見てきた中にはいなかったと思う。
神官となればそれなりに信用と信頼がなければなれないはずだが……それだけ皆に認められたのだろう。
……それ故の、アレに繋がるのか。
『まぁ、あの脱ぎっぷりは実際に凄かった訳だが……』
少しでも自分にかけられた不安要素を無くす為とはいえ、あんなに人がいる場所で躊躇なく服を脱ぎ捨てたのを見た際には、正直なところ驚いた。
さすがにあれ以上、あの場で脱がせるわけにもいかなかったので止めたが、もし止めなければ一糸纏わぬ姿にすらなっていたかもしれない。
『同じ事をやってみろと言われても、私には出来ないだろうな。立場的な問題以前に、その覚悟ができるかに自信が無い。
実際の所、アレだけスタイルも良ければ見られた所で……いや、恥ずかしがっていたか』
一瞬そっちの趣味があるのかとも思ったが、ついさっき見せたあの恥ずかしがり方と、疑いを即否定したのを見た限りでは、さっきのアレは疲れていて本当に【ついうっかり脱いだ】だけなんだろうが……
『なんにせよ、変わった異邦人だ』
少しだけ異邦人に対する印象変わった気がする。
『それよりも……今は山神様か』
しかし、問題の根本は解決していない。
山神様が己に傷を負わせた者達を追い続けていることは、時折山から上る煙のようなものを見る限り、継続していると考えた方が無難だろう。
いつまでこれが続くのか。
『それとも終わらせるべきなのか……』
山神様との古き盟約により、おおよそ百年に一度その身に宿ってしまった【穢】を削ぐことを目的とした討伐が行われている。
だから山神様自体、決して倒せない訳ではない。
ただ、それは討伐と言っても完全な退治ではなく、ある程度弱らせたうえで、山神様を山の中腹にある洞窟の中に奉られている依代へ戻すこと。
【穢】を削ぐ作業を簡単に言えば、伸びた羊の毛を刈るようなようなもの。とにかく山神様についた【穢】を剥がせばよい。
もっとも、規模やレベルは格段に違うわけだが……
それにおおよそ百年毎というのも、山神様自身がが溜め込んでしまった【穢】によって弱まっているであろう目安でしかなく、あくまで討伐できるであろうという憶測でしかない。
よって、まだ前回の討伐から五十年しか過ぎていない今の山神様では、全盛期とは言わなくとも万全の状態に近いと言っても過言ではないだろう。
そして何より大切なのは、討伐の際にはこの村で巫女として認められた者がアルブラへ向かい、領主からそれなりに力を持つ者達の協力を得る事。
こと巫女については良いとしても、問題はアルブラに伺いを立てずに山神様と戦うこと。
『一応、名代として私が仮の許可を出したとしても、領主たるアルブラへ使いを出す必要はあるな』
その場合、今ここにいる者達で対応するしか無いわけだが……
『これでは討伐するどころか、逆にこちらが全滅する未来しか見えないか……』
この問題、どう解決させることができるのか……頭が痛いな。
とりあえず彼女らのことも含め報告を送り、アルブラの考えも伺っておくか……
―――◇―――◇―――
『あ、ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
リアがファナさんと話しながら何をするかと思ったら、身につけていたマントを脱いでタンクトップにスパッツの健康的な体を惜しげもな』
バシッ
「話さなくていい」
「痛ってぇな! 心の中で言っただけだろうに」
どこから出てきたその巨大なハリセン!
「大丈夫、あなたは硬いからアレぐらい殴っても死にはしない。とりあえず目の前で見たものを忘れられるぐらい、黙って殴られなさい」
「死ぬわ!!」
とりあえず少し離れて……
ゴン!
「ぐはっ、今度はどこから金たらいが……」
いかん、本当にツッコミだけで強制戻りされそうだ。
しかし、どんなスキルでこんなものが出せるんだ!?
「落ち着けって! 裸見られたわけでもないし、タンクトップにスパッツの姿なんか、見ても何とも思わないって」
「それは見た者の感想。見られた者の哀しみと恥ずかしさを理解していない。故に理解の代わりに死を持って償うべき」
だめだコイツ……リアの事だと少しおかしくなりやがる。
「それに下着姿よりも、さっきみたいな姿にこそ欲情するタイプもいるから……あなたみたいに」
いや、そんな風に睨まれてもなぁ……はぁしょうがない、
「オーケーオーケー、ちょっと待とうか」
「なに?」
「確かに、そういったものにこそ反応する奴もいると思うが俺は違う! 実際さっき見たのあの姿よりも、以前に偶然とはいえ見てしまった下着の方が何倍も……」
ゾクッ
あ、いま地雷を踏んだような感覚が。
「ハル……」
「ハイ、ナンデショウカ」
いつの間にか俺の背後にリアが!? しかも微妙にプルプルと震えていませんか……
「ねぇ、今度組手の相手して欲しいの」
「ハイ、ドノヨウナ」
「いま、【鎧通し】から【千枚通し】に繋げるコンビネーションを練習しているんだけど、なかなか上手に出来なくて……その実験台かな」
「いや、その大技コンビネーションって単発でもかなり痛いと思うのですが?」
「……なに、イヤなの? ひとのパンツ二回も見ておいて」
「ちょ、あれは俺だってワザとじゃ」
「イ・ヤ・な・の?」
「ハイ、全力デヤラセテイタダキマス!」
……ハイライトが消えた瞳で見てくるのは反則だと思います。




