34話 さてはて、どうしたものか(主人公視点ではありません)
こういう第三者的な内容ってどうなんでしょうね、書き始めたら予定の三倍になったので……
「その子が着てたのって制服?」
「ああ」
「だったら近くに同じ制服着てる子いない?」
私に言われて辺りを見渡し、近くのショップから出てきた二人連れを見つけると、
「あれと同じ制服で、タイが赤かった」
「アレって桜紋じゃん、進学校だし部活もそこそこ強いから、かなり有名校よ」
あそこは学年によってタイの色が変わるから、赤ってことは確か一年だったはず。
寮住みじゃないから学校に問い合わせてもダメだなぁ。
「あ、とりあえず学校まではわかったわ」
「さすが由佳!」
「ほ、褒めたって何も出ないから!」
まったく世話がかかる兄さんだわ。
それに学校までわかったところで次の問題があるし。
「でもさ、学校わかっても今日が土曜で明日日曜だからね、どうやって会うの? 兄さん明日の夕方には地元って言うか学校に帰るよね」
「あ……そっか、そうだよな」
兄さんは私と違って寮生活で、通っている学校の正面にある学校関係者のみが居住している寮生活(といっても1LDK、一人一部屋で羨ましい限り)。
だから、ここから帰るには電車で乗り継ぎ三時間ぐらいかかる為、明日の夕方には帰らないと門限にかかってしまう恐れが。
それにさっきの話だとその子は急いで帰ったみたいだから、多分この辺りにはもういないだろうし。まぁ、桜紋に通っている友達に聞いてみることもできるけど、さすがに今からコンタクト取って『その子について教えて欲しい』と聞くのも難しいし、第一特定する為の情報が足りない。
この後の予定は別に無いから桜紋まで行けるけど顔も名前もわからないから調べようもないし、場合によっては不審者扱いされかねない。
「ま、今日の所は諦めて。一度私の伝で調べておくから」
「わかった、ありがとな」
一年だったら私と同い年だし、中三で同じクラスだった文奈と望美が桜紋に通ってたはずだから、もう少したどり着けるようなヒントがあればわかるかもしれない。そうと決めれば、
「じゃ、今日はサクっと帰ってゲームするよ」
「由佳はホントにあのゲーム好きだな」
「くっ、兄さんが強すぎるからでしょ!」
兄さんの影響で始めたら意外にハマっちゃったゲーム。色々な事ができるわりには、ウチらみたいな未成年だと変な事に巻き込まれないよう設定があるので安心に遊べてる。
「兄さんは相変わらず部活の後に少しだけしかプレイしてないんだよね?」
「もちろん! そんなに長くしてたら部活の疲れで寝落ちするからな」
そんな訳で早く始めた兄さんのレベルも装備も既に追い抜かしたハズなのに、どんな勝負しても勝てないのが悔しくて、さらにプレイする悪循環に……いや、楽しんでるけどね!
「私の方がレベル五つ高いのに、模擬戦したらそのアドバンテージが一切無くなっているのが納得いかないのよ」
「ははっ、由佳はステータスのスペックに頼りすぎなんだよ」
いや、ゲームの中なのにそんな素のスペックで勝負しないでしょ普通は。
ま、実際に勝負出来ている人が目の前にいるから特殊じゃないかもしれないけどさ。
「あ、そう言えば団長さんが呟いてたよ『ハルがまた出て行った……』って」
「あはは、まぁコレばっかりは言われてもなぁ。一応事前に話してあった訳だし」
兄さんのゲーム内の趣味、それは国を跨いだ観光という名の武者修行。
元々部活の関係で遠出はできない生活だから、それを紛らわせる為にゲームしていたんだけど、無類の戦闘マニアの血が騒ぐのか、他国に行っては色々とやってくるらしい。
ゲームを始めて三週間後に連合に行くと、向こうの地元民達と戦闘で語り合ってきたらしく、それだけでレベルが四つも上がっていた……どんだけ戦闘してるのよ。というか、戦闘だけで(もちろん行く道中とかで魔物相手に野良戦闘もしているだろうけど)レベル上げてるの!?
「で、今度はどこへ行くの?」
「この前行ったのが連合だったから本当は帝国を見てみたかったけど、あそこは色々厳しいって話だからな、公国か王国にでも行ってみようかと思ってる」
「あそこって種族差別なかったっけ?」
「いや、単純に国を選ぶ際に種族が人しか選べないだけで、エルフやドワーフもいるし俺らみたいな獣人も普通に生活しているぞ」
帝国と争っている国の一つであり、その中心位置にいる国だから活気もあるし、兄さんが望むような強い人もいるかもしれないけど、あんまり痛い目ばっかりあってくるのも心配だなぁ。
『本当は私も行きたいけど、そうしたら団長さん倒れるかも』
兄さんも私も同じ国のギルドに所属しており、二人ともそのギルドで上から五人に入る戦力だから両方ともいなくなると何かと問題も起こりかねないし……
「あんまり無理はしないでよ?」
「ん~、約束はできないけどな」
はぁ、コレだ。このいい加減さが兄さんの本質だ。
だけど、あくまでこんな応対をするのは私にだけで、学校や部活では人望も高く責任感があると言われているらしい。
「普通の戦闘もだけど、PAに乗った戦闘ももう少ししてみたいが、なかなか相手も機会も無いのが寂しいよな」
「そんな事言っているの兄さんぐらいじゃないの?」
「ま、ボチボチやるさ」
そう言うと、兄さんは私がカートに載せてあった複数のショッピング袋を片手で軽々と持ち上げ、そのまま駅へと向かい始める。お米と油とか入ってて、かなり重たいハズなんですが!?
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
「早く帰るんだろ?」
『まったくこの兄さんは……』
私はため息を一つ吐くとカートを専用の置き場に戻し、先行する兄さんの後をついて行った。




