32話 祝福と
説明とかって始めると文字数が一気に増えるけど、逆にどこで切るべきかがわからなくなる……
放たれた一撃に一瞬だけ意識が霞むけど、気合と根性で倒れるのを我慢する!
……痛いけど。
「おおっ、耐えたか! てっきり意識を手放すかと思うたのに、やはり二度目となれば抵抗があるか。それとも修練の淵で身に付けた力かの?」
「一体……今のは、なんですか」
吐きそうになるのを必死で抑え、今のが何か聞き返す。それに二度目って、ディメール様にこういった攻撃を受けた記憶は無いし。
「今のか、ふむ。貴様はすでに受けているのだが……どうやらフレリアは何も言ってないようじゃな。貴様のステータスも巧妙に偽装されておるしの」
フレリアさん……二度目……ああっ!
「何か似た感じの痛みと思ったら、こっちの世界に転送される前にフレリアさんが会話の最後で放ったアレ!」
「なかなかにボケておるようじゃが、確かにそれと同じ【祝福】よ」
……祝福?
「まぁ、フレリアにはフレリアの考えがあっての事だろうからソレについて妾は何もせぬが、妾からの祝福については、目に見える形にしておいたぞ」
そう言うとディメール様の姿が光の粒子となって徐々に薄れていく。
『そうそう、最初に聞かれた貴様が妾の声を聞くことが出来たのも、フレリアから受けた祝福で神力の影響がほんの僅かにあったからよ。会う機会があれば感謝するようにのぅ、カカッ』
「ディメール様!?」
『妾ともまた会うかどうか、それは貴様次第よ……』
その言葉を最後にディメール様の姿は完全に消え去り、祭壇の間は元の静かな部屋に戻る。
ピロリン♪
《称号【豊穣神の祝福】を入手しました》
《祝福効果で【大地共鳴】のスキルを入手しました》
【豊穣神の祝福】
どのような状態であっても地に接している状況であれば豊穣神の加護に入り、平常を保つことができる。
【大地共鳴】
一日に一度だけ大地と接続することができ、一時的に大地の力を共有することができる。アクティブスキル。
『なんか来た!?』
これがディメール様が言っていた【祝福】のようだけど、祝福を得た事でスキルも身に付けれるのは予想外で嬉しい! ……まぁ、使い方わかんないけど。
というか、今日は痛いこと多すぎで胸焼けじゃなく鳩尾焼けしそう。
『そろそろ戻らないと要さんと那緒が心配しそうだし、早く部屋に戻ってログアウトしよ……』
まだ少しヒリヒリする鳩尾を撫でながら、わたしは自分の部屋へ、自分の世界へ帰ることにした。
―――◇―――◇―――
「要っち、PAWでの阿里沙のことだけどさ……」
「かなり複雑と言うか、謎多すぎね」
阿里沙が『少しだけログインしてきます』と自分の部屋へ戻ってからも、私と那緒はリビングで話していた。
「元々キャラ作成時からおかしな状態だったけど、そこで収まることなく、どんどん普通から離れてる気がするわ」
「あの人との対戦は流石にやり過ぎだよ。痛覚慣れしていないのに、いきなり痛覚百パーセントのダメージ受けさせるなんて運営はプレイヤー殺すつもりなのかって」
今日こうやって来たのも、那緒から話を聞いて心配だったから。
とりあえず阿里沙と話した限りでは、いつもと変わらず大丈夫そうだと思った。
ただ、PAWの中で受けたゲーム中の体の痛みよりも、心の傷に触る事象があったという話が気になった。
「まったく、そんな記憶の底に閉まっておいたものまで利用するのは悪趣味すぎるわね」
阿里沙が普段から見せないように隠している過去の傷に触れるのは、わざとではないとしても良い印象は与えない。
それによりも、
『阿里沙の件が偶然じゃなく、もし本当に人の過去の記憶に紐づいたイベントが起きているとしたら、このゲームの管理者が過去の記憶を覗けているという事になる……本当にそんな事が可能なの?』
それが可能だとしたらトンデモナイ事になる……さすがに有りえないと思いたいけど。
それに今回のシナリオが運営の用意したものだとしたら、阿里沙がイレギュラーな事を続ける限りこの先もイヤな思いをすることが予想されるし、場合によっては私達だって同様の目に合うことすらゼロではない。
『自由がウリの、今までとは違うVRMMOか……』
実際に感じる楽しさは本物だし、視覚や味覚など五感に訴える感覚は過去のVRを遥かに凌駕しているのも確か。
『少し気をつけた方がいいのかしらね』
確固たるものが無いからまずは心構えだけ。ただ、気持ちだけでも構えていれば、何かあった時に対処ができる時間が得られるから。
「そろそろ阿里沙帰ってくるかもしれないから」
「は~い、暗くなりそうなのはやめまーす」
いま私達にできるのは、こうやってみんなで楽しむことだけ。
「じゃあ話を変えて~最近阿里沙って服装とかファッションを気にするようになったんですが! この前も少し大人なレースの入ったグレーの下着でした!
因みにゲームの中でもオシャレな下着でした! たぶん私がしているのより高価です!」
「ぶっ!」
いや、確かに最近までそういうのには無頓着だったはずが、リップとかもするようになったりしてるけど。
あ~、あと眉毛も手入れしてたし、ファンデーションとかもしてたような?
「まさか彼氏とか……一人で抜け駆けでしょうか!」
「いや違うと思うよ」
良い意味でゲームの中のことが現実にフィードバックしてると推測できるけどね。
「阿里沙って元々女の子としての素材いいから」
「ゲームのキャラもビックリするほど可愛かった」
「こっちでも仕上げたら同等以上になるわよ?」
なんだか話が予想外に逸れてく。
ちなみにスリーサイズは現実そのままらしい。スタイルもすっかり……くっ、なんだか悔しい!
「しくしくしく……」
あ、那緒がいじけ出した。
いや、ほら、まだ成長期だから大丈夫だって。えっ、バカ兄貴に成長分取られてるって? 大丈夫、ガタイがデカイだけだから。
「ま、それはさておき、明日の夜に迫ったボス対策おさらいするわよ。地域レベルに合っていないボスだから入念に確認しておかないと」
「ほ~い」
二人で対ボス戦のことを話している間に阿里沙も来たので、再度三人で明日の事を話し始めた。
「サクっと終わらせてまたご飯食べに来よう!」
「えっマジで!?」
さすがに阿里沙もビックリするよ、二日連続で晩御飯は……え、いいの? じゃあ私もヨロシク!




