28話 逃げない気持ち
イヤと言えるのは大事ですが、すぐくじけます(´・ω・`)
※18/02/16 誤字脱字修正しました
いつも通り、午後の治療を早めに終わらせてから夕食の準備に取りかかる。
今日の夕食は鶏肉をつみれにしたスープに、ジャガイモを蒸してから潰し、中にチーズを入れてオープンで焼いたもの。あとはカットした牛肉のワインで煮込み。
お汁系・オープン系・煮込み系、この辺りの料理は調理時間が調整しやすいので、合間合間に出来る定番レパートリーになりつつあるかな。
「相変わらず怪我人が絶えんな」
「東の方でも毒にやられた人が少しずつ増えてるみたいですね」
「西では毒に感染したトロールが出たらしい。あんなに治癒力が高い魔物が毒になるのも異例だが、毒の影響で更に狂暴になったらしく、仕留めるまでにかなりの冒険者が返り討ちだとよ」
そんな男性陣の会話を後にし、わたしとマチュアさんは通い馴れた訓練室へ。
ルナさんはリアル用事で来れないけど、ニーナは約束通り神殿に来て、今はわたしの横にいる。
部屋について早々、マチュアさんから
「いまから始めるけど、足元に描いてある円から一歩も出ないこと。一歩でも出たら今日はおしまいね。もちろんお友達の乱入も禁止」
「はい」
「はーい」
「じゃ、はじめましょうか」
円の直径は約五メートル。
一歩じゃ踏み込んでも届かない距離に立つマチュアさんはいつもと同じ自然体でこちらを見ている。
「行きます!」
習った通りの踏み込みから拳を前に。まだまだ不馴れな突きだけど、まずは動かないことには! だけど、
トン
「がはっ……」
わたしが拳を打つより先に、マチュアさんはいつの間にか目の前に立っていた。そしてわたしの鳩尾に軽く触れる……たったそれだけだったのに、
「ううっ……おぇっ」
あまりの苦痛にその場で崩れ落ちると、口から胃液を吐き出す。
『痛い痛い痛い痛い』
触れられた時に走った衝撃が全身を駆け抜け、あまりの痛みに涙が止まらなくなる。
「あ、言ってなかったけど反撃はするから。案山子じゃ意味がないからね。あと今のは最低限の攻撃よ、突きでも無いレベルでちょっと当てただけ」
マチュアさんが言ってることに耳が微かに反応し、なんとか聞こえているけど、未だ抜けない痛みに視界が揺れ、立つことも出来ない。
『い、痛いのイヤだ。怖い、痛い……』
「一度感じた痛みは恐怖を伴い、体の自由を奪うの」
マチュアさんはそう言うと
「もうやめましょう、リアはこんな『戦う世界』に向いてないの、痛い思いをすることもないの。今までと同じようにウチで治療のお手伝いをしていてくれればいいの。
大丈夫、時間はかかるけど『痛い・辛い』思いをしなくても強くなれるわ」
マチュアさんの言葉は、たったの一回攻撃を受けて折れそうになった、わたしの心の奥底まで染み込む。
『……あぁ、わたしは痛い思いをしなくてもいいんだ』
それは逃げなんだろうけど、わたし自身がそれでも良いと心の中で頷いている。
『そうだよ、わたしは痛い思いをするためにこのゲームをしている訳じゃないんだよ、料理したり楽しいことしようよ』
そう……だよね、わたしは、わたしは……
【もうやめましょう、あの子だってもう子供じゃないのよ】
「!」
《大丈夫、パパとママは別々にいるけどずっと家族だからね》
「ああ、あぁぁ……」
マチュアさんに言われた事と、頭の片隅に隠していた記憶とが頭の中でリフレインする。
『なんで!? どうして出てくるの!』
いつも思い出さないように、ずっとずっと奥深くに隠しておいたのに……なんで今出てくるのよ!
いいじゃない、このまま寝ていたら!
マチュアさんだって言ってるじゃない、『こんな痛い思いをする必要ない』って! だから……だからわたしは
【本当にそれでいいの?】
《それであなたは満足なの?》
それは……それは……
【《後悔しないの?》】
「……イヤ、だ」
何もしなかった事に、きっとわたしは後悔する。
「イヤだ……イヤだ」
あの時は何もできないと思っていた、諦めていた。
だってそうするしかないと思い込んでしまっていたから。
『いやだ……イヤだイヤだ、嫌だ!』
「な……にも、でき……ない、じぶんが……イヤ、だ」
あの時自分が何か出来たとは思わない。
今だってきっと同じ。だけど、
「なにもしないのは……もっと……イヤ……」
『痛いし、怖いし、逃げ出したい』
でも、ここで逃げたらきっともう前に進もうと思わない。この一撃だけで終わったらマチュアさんもきっと……
『痛いのはイヤ。だけど……何もしないのはもっとイヤ! それだけは譲れない、譲っちゃいけない!』
「フッ、フッ……はぁ、……《ヒール》」
『治したい』という想いをおもいっきり込めたヒールが混濁した意識を、ふらついていた足を平常に戻す。
「い、いぎまずっ!」
「ええ……いらっしゃい」
わたしは再び一歩目を踏み出した。
・
・
・
「随分とボコボコにしてくれましたね」
「顔は殴ってないわよ」
私はリアの頭を膝の上に乗せ、そっと髪をとかす。
『まったく無理するんだから……痛覚100パーセント設定が変えれないのに阿里沙ったら』
顔以外の全身に受けた攻撃は、彼女によってすでに癒されている。
倒されること二十二回。
泣いて、吐いて、フラフラになっても、尚彼女に向かう姿勢は正直見ている方が辛かった。
それに立ち上がるたび無意識に呟いていたのは、三年前に受けたアレ以降、追い込まれた時の口癖。
それが出る以上、リアが逼迫した状態なのは言うまでもないし、下手したら壊れかけない危険な状態。
そんな状態になってでも、何度も立ち上がり彼女へ向かっていくあの姿を見せつけられたら、私から手を出して止めるなんて出来るわけないじゃん。
「がんばったね、リア」
「頑張りすぎなのよ、そんな痛い思いをしてまで戦うことを覚えないといけないの?」
彼女の一言に私が呟く。
「嫌でも痛くても、逃げ出す選択肢を選べないのがリアだから」
「そう……」
阿里沙の事情を知らない人にはわからない。イヤ、知っていても理解されないだろうなぁ。
「リアの部屋を教えてください、この子は私が運びます」
抱っこして持ち上げ、彼女にリアの部屋を訪ねる。
「……わかったわ。リアの部屋は二階の突き当たり、扉にプレートが掛けてある部屋よ」
「ありがとうございます、それと……」
どうしても言わないと気が済まないかな。
「それと、私はあなたのことキライです」
リアにとって、進むにしても止まるにしてもハッキリさせるには、こうやって実際に体で感じるのが一番だというのは彼女に聞かなくてもなんとなくわかる。
そして限られた中において、次へ進む為に効率良く成長させることを考えた際には、このやり方が良いのかもしれないと頭の中では思っている。
……だけど気持ちまでは押さえられない。
「そっか、だったら私もあなたの事は好きになれないわ。もっと良いやり方でリアを先導して欲しかったもの」
「……」
あぁ、話してみてわかった。きっとこの人と私は近い。近いからこそお互いが気に入らないんだ。
「リアが目を覚ましたら伝えておいて。自分の目でその結果を確認しなさい。そして明日からの修行には組手も入れるからって」
彼女はそう言うと自分の体を軽く叩いてから部屋から出ていく。
「伝えるわ」
抜け殻のようにノビているリアを抱え、私も彼女のあとを追うように部屋を出ると、二階にあるリアの部屋へと向かった。
長くなっちゃった( ´ㅁ` ;)
長すぎだったでしょうか……
でも私の中の山場で切るに切れなくて(´・ω・ `)
いつも読んで頂いてありがとうございます!
という訳で二話目アップさせて頂きました〜
引き続きよろしくお願い致します(*_ _)




