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弱小国の王子だったので、近隣都市を制圧します  作者: レモンティー


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第三十六話:持ち帰ったもの

・帰還

荒れた街。

崩れた壁。

乾いた風。

スパイたちは戻った。

門兵が一瞥する。

「……遅かったな」

歓迎はない。

ただ“消耗品が戻った”という目だけだった。


・報告

貴族の前。

「設計図の確保に成功しました」

空気が揺れる。

「再現は可能か?」

一瞬の沈黙。

スパイは頷いた。

「……可能です」

それは嘘ではない。

“そう言え”と命じられた言葉だった。

だが――真実でもない。


・金

部屋に戻る。

袋を開けると、金貨が流れ落ちる。

光が揺れる。

「……これで何人救える」

誰かが呟いた。

だが返事はない。

金は“救い”の形をしているだけだった。


・葛藤

「敵の金だぞ」

「だが金は金だ」

沈黙。

外から子どもの泣き声が響く。

「おなかすいた……」

その声で、手が止まる。


・選択

「……使うしかない」

低い声。

「生きるためだ」

誰も否定しない。

否定できるだけの正しさが、もう残っていない。


・崩壊

工房。

再現された農具が動く。

――ガラガラ

次の瞬間。

バキン!!

「まただ!!」

「なぜ壊れる!!」

怒号。焦燥。

同じ形。

同じ材料。

同じ手順。

それでも、動かない。


・追及

「本当にこれで正しいのか!?」

貴族の声が鋭くなる。

スパイは答える。

「……間違ってはいません」

「実際に動いていた」

“見た”という事実を伝えるしかなかった。


・市場

パンを買う。

金を出す。

子どもに渡す。

その瞬間――

(あの国なら、これが日常だ)

思考が染み込む。


・提案

夜。

「このままじゃ図面が罠だということがバレていずれ殺される」

「……行くか」

「どこへだ」

一拍。

「レヴァンティア」

空気が止まる。


・動揺

「正気か!?」

「敵だぞ!?」

「裏切りになる!」

だが――

「……もう裏切ってる」

沈黙。


・理由

「国は俺たちを駒としか見てない」

「だがあの国は違う」

一拍。

「人を使ってるんじゃない」

「人が動いてる」


・決断の裂け目

沈黙のあと、一人が呟く。

「……でも俺たちだけじゃない」

視線が集まる。

男は拳を握る。

「家族がいる」

その言葉で空気が変わる。


・家族

「残していけるわけがない」

「戻ったら処刑だ」

「スパイの家族も同罪だ」

誰も否定できない。

それが“常識”だった国だからだ。


・静かな答え

「……連れて行く」

誰かが言う。

「もう隠す意味もない」

別の男も続く。

「どうせ死ぬなら、一緒だ」

最後の男が笑う。

「どうせ死ぬなら、賭けるか」


・準備

夜が動く。

小さな家。

母。

子。

兄弟。

「どうしたの?」

「……出る」

「どこへ?」

一拍。

「生きられる場所だ」

理解できない顔。

だが、拒否もない。

この国では“残る理由”より、“出る理由”の方が多かった。


・出発

夜明け前。

スパイたちは歩く。

その横に、小さな手がある。

震える呼吸がある。

荷物は少ない。

だが“重さ”だけは増えていた。


・国境

遠くにレヴァンティア。

光がある。

煙がある。

人の流れがある。

「……本当に行くの?」

子どもの声。

男は頷く。

「ここよりはマシだ」


・遭遇

兵が止める。

「止まれ」

武器。

だがスパイは手を上げる。

「亡命する」

一拍。

「家族もいる」

兵の視線が変わる。

報告が走る。

「……投降する」

一拍。

「レヴァンティアに来た」


・報告

「亡命希望者、複数」

「家族同伴」

「元スパイです」

沈黙。


・声

「……通せ」

低い声。

レオンが現れる。

誰も息を呑む。

家族の存在を見ても、表情は変わらない。

ただ一言。

「戻ってきたか」

ただそれだけ。


・真実

「偽図面を持ち帰った」

「祖国に提出した」

一拍。

「つまり――お前たちは自分で戦争を始めた」


・崩れ

「……俺たちは……」

「選んだのはお前たちだ」

「金を受け取った時点でな」


・宣告

「祖国はお前たちを裏切り者とする」

「家族も同じ扱いだ」

「待ってくれ……!」

母が小さく息を呑む。

子どもが母の手を握る。

沈黙

「……待て」

「やめる理由はない」

「お前たちが持ち帰ったのは情報じゃない」

「結果だ」


・亡命

レオンは短く言う。

「選べ」

「死ぬか」

「ここで死ぬか」

「ここで生きるか」

男は震える。

「……もう戻れない」

レオンは頷く。

「なら来い」

「ここは裏切り者の国じゃない」

「選び直した者の国だ」


・受け入れ

一人ずつ、膝が落ちる。

家族もその横に座る。

「……もうあの国には帰れない」

「それでいい」

「……ここで生きていいのか」

誰かが呟く。

レオンは答えない。

ただ一言。

「生きろ」

レオンは静かに返す。

「人が動く限り、国は動く」


・亡命

その日。

背後では、かつての祖国が彼らを“処刑対象”として定めていた。

レオンは言う。

「情報は人が運ぶ」

「なら、人ごと取ればいい」

副官が苦笑する。

「最悪の発想ですな」

レオンは静かに答える。

「最も確実な方法だ」

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