第三十二話:回収装置
・レヴァンティア王城
報告。
「……国中に資金が余っています」
アルベルトの声は冷静だった。
「同盟国による関税収入、物資差益、通貨操作」
「すべてが想定以上です」
副官が笑う。
「いいことづくめですね」
アルベルトは首を振る。
「しかし余りすぎています」
一拍。
「物価が歪みます」
レオンは短く。
「過剰資金は回収する」
・発想
副官が眉をひそめる。
「税を上げますか?」
レオンは否定する。
「反発が出る」
「ならどうしますか?」
レオンは言う。
「自分から出させる」
沈黙。
・計画
地図の横。
新たな図面。
円形の施設。
アルベルトが目を細める。
「競技場……ですか?」
レオンが言う。
「そうだ」
「賭ける場所だ」
副官が笑う。
「博打ですか」
レオンは訂正する。
「国家運営の賭博施設だ」
・仕組み
アルベルトが読み上げる。
「競馬」
「闘技」
「試合」
「すべてに賭けを設定」
「配当は操作可能」
「結果がどうなろうともかならず国が儲かるようにテラ銭制度を導入する」
レオンは淡々とテラ銭制度を説明する。
テラ銭制度の基本構造
敗や結果に関係なく“場を提供する側(=国家)が必ず利益を取る仕組み
1.人々が賭ける(お金を出す)
2.勝者が決まる
3.勝者に配当を支払う
4.その前に一定割合を運営側が差し引く(=テラ銭)
要するに運営側は“場代”を取るだけでリスクを負わない
副官が言う。
「最初から国が勝つ仕組みですか」
レオンは淡々と。
「そうだ だが夢は残せ」
「そして空気抜きとしての意味もある」
「不満、怒り、焦り それらを発散させる場にもなる」
「暴動の代替だ」
副官が笑う。
「石を投げる代わりに金を投げるという話ですか」
レオンは否定しない。
「同じだ」
一拍。
「対象が違うだけだ」
・建設
数ヶ月後。
巨大な施設が完成する。
人が集まる。
「なんだここ?」
「馬が走るらしいぞ」
「当てれば金が増えるってよ」
笑い声。
興味。
好奇心。
欲望。
期待。
・初日
鐘が鳴る。
馬が走る。
歓声。
「行け!!」
「抜け!!」
金が動く。
叫び。
熱狂。
そして――
「外した!!」
「くそっ!!」
だが次の瞬間。
怒りは消えない。
だが――方向が変わる。
副官が観客席から笑う。
「みなさんいい顔してますね」
「娯楽の顔です」
アルベルトが答える。
「回収が始まっています」
レオンが指示を出す。
「都市ごとに作れ」
「種類を増やせ」
「常に開催しろ」
アルベルトが頷く。
「流通が回り続けます」
・酒場。
「昨日、当たったぞ!!」
「マジか!?」
「倍になった!!」
別の男が言う。
「全部負けた!!」
「ざまぁ!!」
「次は勝つ!!」
笑い。
悔しさ。
怒鳴り。
だが――武器は出ない。
誰もやめない。
「次は勝つ」
・結果
報告。
「国家収益、増加」
「民間資金、吸収成功」
「暴動発生率、低下」
副官が吹き出す。
「吸い上げ大成功ですね」
アルベルトが言う。
「不満は出ていません」
「娯楽として消化されています」
・本質
副官がレオンに聞く。
「結局これは何ですか?」
レオンは答える。
「循環だ」
一拍。
「金は回る」
「だが、どこに戻るかは決められる」
静かに。
「それを握る」
「それに圧の制御だ」
一拍。
「溜めれば爆発する」
「抜けば続く」
静かに。
「それだけだ」
・他国
報告が届く。
「……賭博施設?」
「正気か?」
だが続く報告。
「財政はさらに安定」
「民衆の不満、低下」
沈黙。
「……理解できん」
人は金を欲しがる。
夢を見る。
勝てると思う。
だから――
自ら差し出す。
その先にあるのが
回収だと知らずに。
レオンはそれを知っている。
だから、作った。
壊させないために。
支配を、続けるために。
レオンはそれを見ている。
ただ静かに。
「次だ」
流れは、止まらない。




