第十一話:王と弟と、“国の責任”
謁見の間は、いつもより空気が重かった。
玉座には王。
その右側に第二王子アルベルト。
そして正面に、俺。
誰も先に口を開かない。
静けさだけが、やけに長く続いていた。
やがて王が咳を一つして言った。
「レオン……最近の報告は見ている」
「鍛冶職人の優遇、傭兵軍の編成、鉱山開発……」
王はゆっくりと目を細める。
「国の形が、変わってきているな」
俺は即答する。
「変えています」
その瞬間、アルベルトが一歩前に出た。
「変えている、ではありません」
「壊している、です」
空気が一気に張り詰める。
・弟の論理
アルベルトは地図を叩く。
「兄上」
「この国を何だと思っていますか」
俺は答えない。
アルベルトは続ける。
「弱小国家です」
「そして弱小国家が生き残る条件は一つ」
「“目立たないこと”です」
彼は視線を上げる。
「ですが兄上は、それを真逆にしている」
少し間を置き、続ける。
「分かっていますか」
「周辺国はすでに動き始めています」
「我が国の経済、資源、傭兵戦力」
「すべてが“異常な速度で変化している”と」
俺は黙って聞く。
アルベルトの声は淡々としているのに、確実に圧があった。
「このままでは必ず介入されます」
「保護という名目で」
「あるいは制圧です」
王が低く言う。
「アルベルト……言葉を選べ」
だが弟は止まらない。
「事実です」
・“遅い改革”という指摘
アルベルトは俺を見据える。
「兄上のやり方は、間違っていない」
「ですが――遅い」
「そして、目立ちすぎる」
一歩踏み出す。
「この国はまだ弱い」
「なのに外からは“強くなり始めている国”に見える」
彼は地図の外側を指す。
「その結果、何が起きると思いますか」
「警戒ではありません」
「排除です」
・過去の警告
アルベルトの声が少しだけ鋭くなる。
「思い出してください」
「塩生産を開発して塩や肥料の輸入をやめた時」
「すでに周辺国は反応していました」
彼は俺を見る。
「その時、私は言いました」
「“この国は危険視される”と」
「“戦争の対象になる”と」
沈黙。
アルベルトは続ける。
「そして兄上は言った」
「まだ戦争はしない、と」
さらに一歩進む。
「そして経済改革が進んだとき」
「市場は動き、商人は戻り、交易は活性化した」
「その瞬間」
彼は地図の外を指す。
「評価は変わった」
「“利用できる国”ではなく」
「“影響を与える国”として見られ始めた」
王がゆっくり目を開く。
アルベルトは言い切る。
「そしてその瞬間からです」
「周辺国が動き始めたのは」
・結論
アルベルトの声は静かだった。
だが、揺らがない。
「兄上の政策は間違っていません」
「ですが順番が逆です」
「弱い国が“強く見える”ことは、抑止ではなく標的になります」
沈黙。
はっきりと告げる。
「しかも傭兵まで雇って鍛冶職人を招聘し軍備を進めている」」
「兄上に任せていると」
「この国は“完成する前に壊される”」
・王の揺れ
王がゆっくりと視線を上げる。
「レオン……どうするつもりだ」
アルベルトが続ける。
「今止めるべきです」
「一度、外への圧力を抑える必要がある」
「でなければ本当に――」
一瞬だけ間を置く。
「周辺国に“処理”されます」
・主人公の答え
俺は静かに息を吐く。
「全部、分かってる」
アルベルトの目が細くなる。
「分かっていてやっているのですか?」
俺は続ける。
「経済が動いた瞬間に、狙われる」
俺は地図を見る。
「つまり最初からこうだ」
「何もしなくても終わる」
「動いても終わる」
沈黙。
俺はアルベルトを見る。
「なら答えは一つだろ」
「終わる前に変えるしかない」
アルベルトは低く言う。
「それは賭けです」
俺は即答する。
「どっちにしろ賭けだ」
王が静かに目を閉じる。
「レオン……この国にはもう余裕がない」
アルベルトが最後に言う。
「兄上のやり方は、国を救うかもしれない」
「ですが同時に――他国の侵略を加速させる」
俺は答えない。
ただ、一歩だけ引く。
(なら、加速で勝つだけだ)




