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こちら魔法犯罪取締室〜最狂の窓際部隊が帝都を闇から守り抜く〜  作者: 尾田jerart


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第10話

 ~side セレス~

「このくそ女が!はかりやがったな!」

 後ろからディスタの怒号が聞こえる。

 私ははじかれたように階段を駆け上がる。



(武器も携帯していないし、真っ向から戦ったら確実に負ける..!とにかくグレイさんのところまで行って体制を立て直すか、追尾をまかないと..。)


 一瞬で全身から冷や汗が噴き出す。グレイさんの最初のアドバイス——「ヤバいと思ったら即座に逃げろ」——だけが頭をよぎる。



「第一魔法術式”迅”!」

 体内を巡る魔力を脚部へ集中させ、身体能力を強制的に引き上げる。

 階段を駆け上がる勢いそのままに、私は1階フロアへ続く重い鉄扉を蹴り破った。


 一瞬後ろを振り返ると、何やらまくし立てているディスタをおいて護衛の一人が私に迫ってくる。


(術式使い!武器のない今の状況でやり合うのは少し分が悪いから今はなんとか逃げるしかない!)


 ドアを蹴飛ばしたことで店内の視線が一斉に私にむく。

 ただ私は周囲の悲鳴も何もかもを無視して一目散に店の出口まで向かう。


「おい誰か!その女を捕らえろ!」

 後ろでディスタが金切り声をあげ、店内にいる警備の人間に指示する。


 ただ警備の人間が私に気づくより先に私が扉に手をかけることができた。

(出口までもう少し!いける!)


 そう確信した次の瞬間だった。


(ッ!!!?)


 肌を突き刺すような、おぞましい『死の気配』。

 私の中の本能が警鐘を鳴らし、とっさに両腕を顔の前に交差させ、防御姿勢をとった。

「第二魔法術式”烈”。ッ!!!グァッッッ!!!」


 瞬間私に強烈な衝撃が襲いかかる。

 一瞬でもガードが遅れていたら、大きな負傷は免れなかっただろう。

 ガードごと弾き飛ばされ、私は宙を舞った。無惨にテーブルを薙ぎ倒し、グラスが粉々に砕け散る。

 フロアの中央に叩きつけられ、肺から空気が強制的に漏れ出る。


(やられた!一体誰あんな濃密な殺気を出してるのは。前回の事件の犯人達と比べても明らかに格上の相手、こんな実力者一体誰なの..?)


「ゴホッ、ゲホッ……っ」

 痛む体を必死に起こし、顔を上げる。 阿鼻叫喚のパニックに陥るフロア。

 逃げ惑う客たちが割れてできた道の先に、二つの影が立っていた。


「おまえが近衛のセレスか?」

 偉丈夫ーヴォルティスの後ろから豪奢な服を身にまとった男ードルガが話しかけてくる。


(そうか、この人達がジンさんの言ってたスペリドのボスとその用心棒..道理で強いわけね。プレッシャーが全然違う....。)


 全身の細胞が「逃げろ」と叫んでいる。しかし、圧倒的な殺気を前に足がすくみ、立ち上がることすらできない。


「黙ってないで答えんかい。おまえがセレスか?」

 ドルガがねめつけるように私をにらみつけてくる。


「..そうです。」

 恐怖で震える声を抑えて答えるとドルガはにやりと笑う。


「ほぅほぅ。それで近衛の方がどんなご用件でこんな僻地まで?」


「...ただ遊びに来ただけですよ」


 私が精一杯の強がりを口にすると、ドルガはニヤニヤと笑い出す。

 そして、右手に持った透明な袋に入った薬——『スティムラント』を私の目の前で見せびらかすように揺らす。


「ほう。ならおまえはたまたま遊びに来た人間が、こいつを買いに来たっていうのか。」

「えぇここにいる客はほとんど使っているみたいですから。」

「そうかそうかそれは嬉しいなぁ。なら近衛の人に報告しないとなぁ」

(近衛のパイプを使って私のことをどうとでもできるって意味かしらね。しかも誰に何を伝えるとは言ってないからただこっちの不安を煽るだけ...。やっていることといい本当に性格が悪い)


 私は立ち上がって店の外へと向かおうとする。

 しかしそんな私の行き先にヴォルティスが割り込む。


「まぁまぁまぁそう焦るなよ。俺らもいきなり近衛の人が現れて俺らの商品を買いたいって言ったからびっくりしちまったんだよ。」

 ドルガは立ち去ろうとする私をみてにこやかに話しかけているが、その目は全く笑っていなかった。


「俺らも近衛の方にはお世話になっていてな。()()にもてなしたいからいつもなら先に連絡をいただけるんだが、、、何故か今回はその連絡がなくてだな。それで少し敏感になってしまってな。」


(嘘ね。内通者から情報をもらっているだけでしょ。近衛が来る前に対策ができるように)


「だからそのお詫びとしては何だが、一度VIPルームに来てくれないか?ゆっくりお話がしたい。」

(これも嘘ね。密室に行ったら最後私は戻ってこれない...。)



「どうした?遠慮はいらないぞ。盛大にもてなしてやるからよぉ。来い!」

「....結構です。これ以上とどまっていても他の方に迷惑なので私は出ますね」


 私は恐怖ですくむ足をなんとか出口へ向けるが、再びヴォルティスが出口の前に立つ。


「何ですか?出たいんですけど」


「まぁまぁそう怒るなよ、セレス。俺らもここの存在を近衛に嗅ぎ回されたら面倒なんだ。」


 背後から、ドルガのねちっこい声が鼓膜を撫でた。 いつの間にか背後に立っていた彼は、私の耳元に顔を寄せ、蛇のように囁く。


「俺らも色々嗅ぎ回されたらやっかいなんやわ。だからよぉここで死んでくれや。」


 瞬間私は強烈な殺気を感じ、すぐさま横に飛び回避行動を取る。

 その直後私が先ほどまでいたところにナイフが猛スピードで振りかかる。



「キャアアアアッ!」

「ヒィッ……!」

 ドルガの突然の凶行に、店内は再び阿鼻叫喚の地獄と化す。

 悲鳴を上げ這いつくばってでも逃げようとする客たちを、ドルガは愉快そうに眺めていた。


(クッ!危なかった。少しでも反応が遅れたら今頃私は死んでたかも。こいつ本気で私のこと殺しに来ている...!)


 私は訓練とは違う、本物の殺気を体感したことで自分自身に明確に()が近づいていることを悟る。



(ドルガ、ヴォルティス、ディスタと護衛を含めて敵は8人。魔術使用は見られたが、魔法使用は不明。

 ヴォルティスとドルガさえいなければなんとかできたかもだけど....。あの二人がいる限りここを自力で制圧するのは完全に不可能..!)


 周囲を見渡し敵の分析を進めながら、攻略の意図を探る。


(であれば、どっかのタイミングでここから抜け出さなければ..!)


 私が思考をまとめている間にも、ドルガ達はじりじりと距離を詰めてくる。


「ははっ!何だか一杯考えてるみたいだが無駄なんだよ。おまえ一人じゃどうやってもここから抜け出すことはできねぇよ。そもそも俺らがここに来た時点でおまえは詰んでんだよ」


 ドルガのならす革靴の乾いた音が、店内の音を支配する。


(包囲陣が強固すぎる!全然抜け道がない!せめて剣さえあれば!)


 あまりの状況の悪さに焦りが生まれるが、どう頑張ってもこの状況を打破できる実力は私にはなかった。



 ドルガ達の一歩一歩が私に近づく死神の一歩のように感じられる。

 私はつい胸元にある古びたボールペンに触れる。

(私こんなところで死ぬのかな..。まだ私は何もできていないのに!()()()()のこと見返してやるって決めたのに!まだ何もできてない!)


「んじゃそろそろ飽きたわ。おまえには死んでもらおうか。ヴォルティス、やれ」

「承知しました」


 ヴォルティスは背負っていた大剣を抜き放つ。

「悪いとは思うなよ。これも運命だ」



 刀身に洗練された魔力が込められていく。

(これはもうだめだ。私死ぬんだなぁ。まだ死にたくないなぁ。)


 振りかぶった剣が私に近づく。

 もう終わりだと諦め、私は目を閉じた。

 その瞬間ーー


双影転置インバージョン

 キィン!

 鼓膜を突き破るような甲高い金属音と、激しい火花が目の前で弾け飛んだ。

 私を両断するはずだった大剣が、空中でピタリと止まっている。



「え..?」

 目を開けるとそこには見慣れない派手な服を身にまとい、見慣れた警棒で大剣を受け止める怠惰な先輩の姿があった。


「よく耐えたなセレス、そしてよくここまで敵をまとめた。よくやった」


 たばこのにおいが私の鼻先をふわりとかすめる。


「おまえの仕事はもう終わりだ。後は俺に任せろ」

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