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『地球ショッピング』で異世界を快適に!~医学生、善行ポイントで現代物資を取り寄せ、兎の村を最強要塞に変える~  作者: 月神世一


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EP 30

祭りを前に、それぞれの夜

帝都アウストラの郊外、静寂に包まれたホープ・クローバーズの屋敷。

街の中心部で渦巻いていた「獅子王祭」への熱狂が嘘のように、そこには穏やかな時間が流れていた。だが、その静けさの底には、これから始まる血肉の祭典に向けた確かな熱気が静かに燻っている。

四人と一頭は、それぞれの領域で、思い思いの夜を過ごしていた。

■ 勇太の夜:武の探求

日が傾き始めた中庭。

勇太は一人、ウルジ爺さんから譲り受けた鋼の薙刀を手に、静かに汗を流していた。

「ふっ……! せいっ!」

鋭い呼気と共に、薙刀が空気を切り裂く。

ひゅんっ! と鳴る風切り音には、一切の淀みも無駄もない。

彼は地球の現代兵器や科学アイテムを駆使するが、決してそれだけに頼るつもりはなかった。己の肉体と技術の研鑽こそが、生死を分ける最後の砦だと知っているからだ。

「……久々の他流試合だ。相手がどんな流派だろうと、どんな種族だろうと関係ない。油断すれば、一瞬で足元をすくわれる」

突き、薙ぎ、払い、そして石突での打突。

勇太は基本動作を何百回と反復し、体に染み込ませていく。その瞳に宿る真摯な光は、医学生のものでも商人でもない、純粋な『武術家』のそれだった。

この大会は、異世界で自らの技がどこまで通用するかを測る、絶好の試金石なのだ。

■ イグニスの夜:妄想の覇者

一方、自室に戻ったイグニスは、特大のベッドに大の字になって寝転がり、天井を見つめながらだらしなくニヤニヤと笑っていた。

その顔は、どう見ても強敵との戦いをシミュレーションしている顔ではない。

「ガハハハッ! 見える……俺様には見えるぜ! あの巨大なコロッセオの中心で、俺様が最後に勝ち鬨を上げる姿がな!」

イグニスは空に向かって拳を突き上げた。

「『見よ! 彼こそが今大会の覇者、新たなる獅子王、イグニス・ドラグーンだァァァッ!』……ってな! クゥ〜ッ、たまんねえ! 俺様の武勇が帝都に、いや、世界に轟くぜ!」

まだ見ぬ栄光と名声、そして優勝賞金による美味い飯を思い浮かべ、一人で悦に入る。愛用の戦斧と大盾は、壁際のラックでピカピカに磨き上げられ、ただ静かに出番を待っていた。

■ キャルルの夜:乙女と武闘家の狭間で

その頃、キャルルはニンジン柄の自室で、姿見の前をそわそわとうろついていた。

「きゃ〜っ! どうしよう! 大陸規模の大会に出るなんて、ルナキャロット村の師範に手紙を出すべきかな? でも、一回戦で負けたら笑われちゃうかも……。お母さんにも知らせたいけど、心配するかなぁ?」

彼女は鏡の前で、シャドーボクシングのように軽く拳を突き出し、くるっと回ってみた。

「それに、たくさんの人の前に出るんだから、衣装はやっぱり可愛い方が良いですよね! 今の革の防具も動きやすいけど、せっかくの月兎族だし、もっと白くてヒラヒラしたドレスみたいな……。でも、それだと『三日月蹴り』が引っかかっちゃうし、やっぱりスリットを深くして……う〜ん!」

武闘家としての大舞台への意気込みと、年頃の女の子としてのお洒落心。

キャルルの悩みは、二つの間で可愛らしく、そして真剣に揺れ動いていた。

■ リーシャとアカメの夜:長命種たちの晩酌

そして、夕暮れの空が帝都を深い藍色に染め上げる頃。

屋敷の二階の広々としたテラスでは、リーシャと、人間の青年の姿になったアカメが、夜風に吹かれながら静かに杯を交わしていた。

リーシャの手には赤ワインのグラスが。アカメの手には、勇太が地球ショッピングで出した**『高級フレンチブランデー』**が入ったクリスタルグラスが握られている。

「……お主は出ないのか? エルフの魔法使いであれば、魔法部門で無双できよう」

アカメが、琥珀色の液体を舌の上で転がしながら静かに尋ねた。

「出るわけないじゃない。私は後衛よ?」

リーシャは夜景を見下ろしながら、ふふっと笑った。

「観客のいる闘技場で、見世物みたいに派手な魔法を撃ち合うのは趣味じゃないわ。私は三人の『スポンサー』として、最高のポーションを用意してサポートに徹するの。それが私の役目だから。……アカメは? 貴方が出れば、優勝どころか祭りの『伝説』になるでしょうけど」

リーシャがからかうように問い返すと、アカメはふっと鼻で笑い、ブランデーの芳醇な香りを楽しんでからグラスを傾けた。

「面白い冗談だ。わずか百年足らずしか生きられぬ短命種たちの『遊戯』に、我ら誇り高き竜族が興じると思うか?」

口調こそ傲慢だが、その真紅の瞳は楽しげに闘技場の方角を見つめている。

絶対的な強者としての矜持。そして、途方もない年月を生きる者特有の、ほんの少しの『退屈と寂しさ』が滲んでいるように見えた。

「そう。なら、特等席で彼らの戦いを見物させてもらいましょうか。……きっと、退屈はしないわよ」

「ふん。……まあ、アテにはなるだろうな」

武術大会「獅子王祭」を前に。

刃を研ぐ者、栄光を夢見る者、衣装に悩む者、そして静かに見守る者。

四人と一頭の夜は、それぞれの想いと静かな熱狂を乗せて、ゆっくりと更けていくのだった。

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