EP 41
輝く笑顔と歯磨き革命
村の復興も進み、穏やかな昼下がり。
勇太たちが昼食を食べていると、キャルルが不思議そうに鼻をひくつかせた。
「……くんくん。ユウタさんの息って、いつも森の朝みたいに爽やかですね」
「えっ、そ、そう?」
「はい。それに、歯も真珠みたいに白いです。……何か『清浄の魔法』でもかけてるんですか?」
リーシャも、勇太の口元をまじまじと観察する。
エルフは潔癖な種族だが、それでも食事の後には独特の生活臭が残るものだ。だが、勇太にはそれがない。
「魔法じゃないよ。毎日『歯磨き』をしてるからさ」
「ハミガキ……? 塩で擦るアレですか?」
「いや、もっと科学的なやつさ。……みんな、自分の口の中が綺麗だと思ってる?」
勇太はニヤリと笑い、ボードを展開した。
【購入完了:歯垢染色剤(フルーツ味・錠剤タイプ)×10】
【購入完了:手作り歯磨き講座(書籍)、超極細毛歯ブラシ(見本)】
「これを噛んでみてください。汚れている部分が『赤く』染まる薬です」
「へぇ、面白そう!」「ふふ、私はエルフよ? 穢れとは無縁だわ」
キャルルとリーシャ、イグニスが錠剤を口に放り込み、ガリガリと噛み砕く。
そして、互いの顔を見合わせた瞬間。
「「「ギャアアアアアアッ!!?」」」
悲鳴が上がった。
キャルルの前歯、イグニスの牙、そしてあろうことかリーシャの美しい歯並びまでもが、鮮血のように真っ赤に染まっていたからだ。
「な、なによこれぇぇぇ! 私の口が血まみれに!?」
「違うよリーシャさん。それが『歯垢』……虫歯や口臭の原因になる細菌の塊だ」
「さ、細菌!? 私の口の中に虫が!?」
リーシャが白目を剥いて卒倒しかける。
プライドの高いエルフにとって、自分の口が菌の温床だったという事実は、クリスタルタートルのブレス以上のダメージだった。
「だ、助けてユウタさん! 口の中の虫を追い出してぇ!」
キャルルが涙目で勇太にすがりつく。
「任せて。……そのための『武器』を作ろう」
勇太は村の素材を集めた。
研磨剤として**「細かく砕いた貝殻のパウダー」。
殺菌・清涼剤として「ハッカ草の精油」。
そして、泡立ちを生む「サボン草の根のエキス」。
これらを蜂蜜で練り上げ、特製の『ミント・ペースト』**を完成させた。
ブラシは、弾力のある植物の繊維を束ね、木の柄に植え込んだ「特製・豚毛風ブラシ」だ。
「さあ、これで赤く染まった部分を重点的に磨いて!」
三人は必死の形相でブラシを動かした。
シャカシャカシャカ……。
小気味よい音が響く。
「んむ!? 口の中が……泡だらけに!?」
キャルルが驚いて目を見開く。
「この泡が汚れを包み込んで剥がすんだ。そして……」
「……スースーする! 冷たい風が口の中を吹いているようだわ!」
リーシャも、未体験の爽快感に驚きつつ、赤色が落ちていく鏡の中の自分に安堵する。
そして、イグニス。
彼は誰よりも真剣だった。
ガリッ! ゴリッ! シャカッ!
「おお……! 取れる! 肉の繊維も、こびりついた血の味も! 俺様の自慢の牙が、研ぎ澄まされていくのを感じるぞ!」
竜人にとって、牙はナイフであり槍だ。
彼は歯磨きを「武器の手入れ(メンテナンス)」として楽しんでいた。
数分後。
川の水で口をゆすごうとした時、最大の感動が訪れた。
「「「あーーーっ!!」」」
舌で歯を触った感触。
これまでの「ザラザラ」が消え、陶器のような**「ツルツル(キュッキュッ)」**に変わっていた。
「すごい! 歯がツルツルです! 息を吸うと、口の中が涼しい!」
「見て、私の歯……雪のように真っ白に戻ったわ! 輝いてる!」
キャルルとリーシャが、白い歯を見せてニカッと笑い合う。その笑顔は、どんな化粧品よりも彼女たちを魅力的に見せた。
イグニスは、キラリと光る鋭利な犬歯を見せつけ、近くのリンゴを皮ごと齧った。
シャクッ! といい音が響く。
「へっ……切れ味抜群だぜ。これなら硬い肉も骨ごとイケるな」
その夜、ルナキャロット村には、シャカシャカという軽快な音が響き渡った。
勇太の指導により、「朝晩の歯磨き」が村の新たな習慣として定着したのだ。
【ピンポンパンポーン♪】
【ルナキャロット村の衛生革命に成功しました】
【村人たちの健康寿命が大幅に延びるでしょう】
【貢献ボーナス: 200 P 加算】
【現在所持ポイント: 16205 P】
勇太は、月明かりの下で輝くみんなの笑顔を見ながら、深く満足した。
健康な体、美しい髪、そして輝く歯。
彼らに贈れるものは、もう全て贈った。
「……よし」
勇太はポケットの中の「魔石(クリスタルタートルの核)」を握りしめた。
ポイントは16,000Pオーバー。資金も潤沢。
旅立ちの準備は、完璧に整った。
「明日の朝……出発だ」
勇太は静かに決意し、眠りについた。




