EP 22
地球ショッピング発動! 魔法少女ティンクルスター降臨
「……勇太、これは何かしら? 布面積が、その、圧倒的に足りないのだけれど」
エルフのリーシャが、フリフリのミニスカートを指先で摘み上げながら、美しく整った頬をほんのりと朱色に染めていた。
彼女の長く尖った耳が、戸惑うようにピクピクと動いている。
「はわわ……! す、すごいです! お花畑みたいにヒラヒラで、キラキラしてます! でも、お腹のところも空いてますし、これでお外を歩くのは、ちょっと……」
月兎族のキャルルも、両手で顔を覆いながら指の隙間から衣装を見つめている。彼女の豊かな胸元や健康的な太ももが、この衣装を着ることでどう強調されるか、純真な彼女にも想像がついたのだろう。
俺の「地球ショッピング」のスキルによって空中に召喚されたのは、前世の地球で一世を風靡した伝説のアニメ『魔法少女ティンクルスター』の公式コスプレ衣装一式だった。
しかも、ただの安物のコスプレではない。俺の貯め込んだ莫大なポイントを惜しみなくつぎ込んで取り寄せた、「超高クオリティ・ハイエンドモデル」である。
主人公である『星の戦士・ティンクルピーチ』を模した、鮮やかなピンクを基調としたキュートな衣装。そして、クールな相棒『月の戦士・ティンクルムーン』を模した、神秘的なブルーとシルバーが交差するエレガントな衣装。
どちらも、艶やかなサテン生地にふんだんなレースとオーガンジーがあしらわれ、大きなリボンや星型のアクセサリーが胸元や腰に輝いている。
「聞いてくれ、二人とも」
俺は、まるで出陣前の将軍のような、極めて真剣な表情で語りかけた。
俺の生来の気質である生真面目さが、この狂った作戦の説得力を無駄に底上げしてしまう。
「これは、僕の故郷である地球において、愛と正義のために戦う『魔法少女』と呼ばれる気高き戦士たちの正装なんだ」
「ほ、星の戦士の、正装……」
「そうだ。僕はこの『魔法少女ティンクルスター』をこよなく愛する、重度で、気持ち悪くて、常軌を逸した『変態オタク』をこれから演じ切らなければならない」
俺は拳を握り締め、天井を見上げた。
「シャリゼ侯爵家から派遣されるであろう使者、あるいはサブリナさん本人がこのマルストアにやって来た時、僕がこの衣装に頬ずりし、ハァハァと荒い息を吐きながら『ティンクルスター最高でござるぅぅ!』と叫んでいれば、間違いなく彼女たちは僕を軽蔑し、愛想を尽かしてくれるはずだ。……これは、僕たち三人の愛の巣を守るための、絶対に負けられない防衛戦なんだよ!」
俺の熱弁を聞いたリーシャとキャルルは、顔を見合わせた。
普通なら「正気ですか?」と呆れられるところだ。しかし、俺を愛してやまない二人の妻のフィルターを通すと、その狂気は「愛の深さ」へと見事に変換されてしまう。
「勇太……。私たちの愛を守るために、自ら泥をかぶって、そこまで屈辱的な道を選ぼうというのね……」
リーシャが、感動のあまり碧色の瞳に涙を浮かべた。
「勇太様……! 勇太様のその重すぎるほどの愛、私、しっかりと受け止めました! 私、着ます! 勇太様が愛と正義の戦士の服だと言うのなら、恥ずかしくなんてありません!」
キャルルが勢いよくピンク色のティンクルピーチの衣装を抱きしめる。
リーシャも、ブルーのティンクルムーンの衣装を手に取り、決意の表情で頷いた。
「ええ。勇太の覚悟に、私たちが応えないわけにはいかないわね。……キャルル、隣の部屋で着替えましょう」
「はいっ、リーシャさん!」
二人は衣装を抱え、隣の寝室へと姿を消した。
(……すまない、二人とも。僕の変態偽装作戦に巻き込んでしまって……)
俺は扉の外で、腕を組んで待機した。
だが、その真面目な決意とは裏腹に、俺の心臓はさっきから早鐘のように鳴り響いていた。
(い、いや、作戦のためだ! これはあくまでサブリナさんをドン引きさせるための小道具であって、決して僕が二人のコスプレ姿を見たいから買ったわけじゃ……!)
言い訳をすればするほど、鼓動が早くなる。
やがて、数分後。
「……勇太。着替えたわよ。入ってきても、いいわ」
「ゆ、勇太様……あまり、じろじろ見ないでくださいね……?」
扉の向こうから、恥じらいを含んだ二人の声が聞こえた。
俺はゴクリと唾を飲み込み、ゆっくりと扉を開けた。
「――っ!!」
開けた瞬間、俺は危うく鼻血を吹き出しそうになり、慌てて口元を両手で覆った。
そこには、奇跡のような光景が広がっていた。
キャルルの健康的なプロポーションには、ピンクのフリルスカートがこれ以上ないほど似合っている。絶対領域と呼ばれる太もものラインや、ウサギの耳とピンクのリボンの相乗効果が生み出す可愛さは、もはや暴力だ。
一方のリーシャは、神秘的なブルーの衣装が彼女の銀髪と白い肌を完璧に引き立てていた。胸元の空いたデザインがエルフの成熟した魅力を際立たせ、ハイソックスから覗くすらりとした脚線美は、芸術品の域に達している。
「ど、どうかしら……? やはり、布が少なくて、少しスースーするのだけれど……」
リーシャが恥ずかしそうに身をよじり、スカートの裾を抑える。
「勇太様、どうですか……? 変じゃ、ないですか……?」
キャルルが上目遣いで、もじもじしながら俺を見つめてくる。
(破壊力が……致死量を超えている……ッ!)
変態を「演じる」つもりが、このままではガチの変態として理性を失ってしまいそうだった。俺は必死に自制心を総動員し、なんとか平静を装って親指を立てた。
「す、素晴らしいよ! 二人とも、まさに魔法少女だ! これなら、どんな敵が来ても、ドン引きさせられる……いや、完璧な防衛陣地が築けるはずだ!」
「ふふっ、勇太がそこまで喜んでくれるなら、恥を忍んで着た甲斐があったわ」
リーシャが柔らかく微笑み、キャルルも嬉しそうにその場でくるりとターンを決める。
フワリとスカートが舞い、ピンク色のフリルが空中で綺麗な円を描いた。
その瞬間、俺はある「違和感」に気づいた。
キャルルがターンした時の動きが、あまりにも軽やかすぎたのだ。
「……あれ?」
キャルル自身も、自分の体をペタペタと触りながら不思議そうに首を傾げた。
「勇太さん、このお洋服……すごく不思議です。こんなにヒラヒラしているのに、少しも重さを感じません。それに……」
キャルルが、試しにその場で軽くステップを踏み、愛用のダブルトンファーを構えるような動きを見せる。
シュッ! と空気を切り裂く音が寝室に響いた。
「すごい……! 普段の服よりも、関節の動きが全く邪魔されません! まるで、自分の体の一部になったみたいに、空気がスッと逃げていくんです!」
「本当ね……」
リーシャも、己の手を見つめながら驚きの声を上げた。
彼女がそっと指先を振ると、ブルーの衣装の表面に、わずかに魔力の光が走ったのだ。
「この生地……ただの布じゃないわ。魔力の通りが異常に良いの。エルフの法衣すら凌駕するほどの、極めて高い魔力親和性を持っている……。それに、この薄さなのに、不思議と守られているような安心感があるわ」
それを聞いて、俺は「地球ショッピング」の商品説明欄を思い出した。
(そういえば、あのコスプレ衣装……『公式ハイエンド・バトル仕様モデル』とか書いてあったな。まさか、ガチのアクション用スーツとして、新素材の特殊繊維で作られているのか?)
地球の現代科学、あるいはオタク文化の熱量は恐ろしい。
コスプレイヤーが激しいアクション撮影に耐えられるよう、極限まで軽量化され、通気性と伸縮性に優れ、さらに特殊なコーティングで防御力まで高められたオーバースペックな一着。
それが、異世界の魔力と結びついたことで、とんでもない「戦闘服」に化けているようだった。
「勇太様! この服、戦うための正装だっていうの、本当ですね! 私、これなら普段の倍の速さで動ける気がします!」
「ええ。私も、これなら魔法の詠唱速度が劇的に上がりそうだわ。……勇太、これは本当に素晴らしい装備よ」
キャルルとリーシャが、純粋な戦士としての目で衣装を絶賛している。
まさか、変態偽装作戦のために買った魔法少女のコスプレ服が、実用性MAXの最強装備として機能してしまうとは。
(……まあ、二人が喜んでくれているなら、結果オーライか)
俺は、二人の圧倒的な可愛さに癒されながらも、ふと我に返った。
「よし、衣装の準備は完璧だ。……次は、僕自身の『オタク演技』を極める番だな」
衣装だけではサブリナさんを追い払うことはできない。俺自身が、骨の髄まで気持ち悪いオタクになりきらなければならないのだ。
だが、生来のクソ真面目な性格のせいで、俺はどうしても「キモい台詞」を言うのが苦手だった。
「……客観的なアドバイスが必要だな。ちょっと、イグニスを呼んでくる」
俺は、親友であり悪友である竜人族の男を思い浮かべた。
あいつなら、俺の演技に容赦ないダメ出しをしてくれるはずだ。
魔法少女が舞い降りたマルストア城で、俺の「貞操防衛戦」は次のフェーズへと移行しようとしていた。
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