見上げるがいい、唾棄すべきあのアルデバランを その7
遅くなりました。
「『赫曜の葬送』!」
全身を包む黒曜石の鎧が真っ赤になるほどに溜め込んだ熱を、Aldebaranの体からできた血溜まりにむけて思い切り放つ。コウタの気合いの乗った声と共に放たれた火炎は、同時に打ち出された拳程度の大きさの黒曜石の結晶に乗ってまさしく噴火のような威力を生み出した。よろよろと進むだけで避けることすらできない乙女の体に黒曜石が突き刺さり彼女たちの脆い体を崩した後、内部から炎で焼いていく。
乙女の声なき悲鳴の中、コウタはただ真っ直ぐ血溜まりの方を見ていた。放った意味があったかどうか。それが気がかりだったコウタの放った炎はただの炎ではない。オスカーの炎、つまりココロを焼き尽くす炎だ。その性質上この技は抜け殻だけになってなお怪物の腹に囚われたままの魂を葬送し、我欲の大元を焼き清めることができる。そう踏んで放ったコウタだが自分の体を確かめてみると、確かに効果はあったようだ。
「...喋れる。Aldebaranが弱ったから?まぁいいかそんなこと。体動かないし」
喉が自分の思い通りに動く感覚に喜びを覚えながら、同時にオスカーの祈祷書の炎のデメリットでビリビリと痺れて動かない体に辟易する。
「アルキオネさん見てたかな」
葬送の炎であるこれを見ていたのなら彼女はどう思うのだろうか。そう考えながらコウタはアザトースたちが残っているサンシャインビルを見上げる。とは言ってもアルキオネはアザトースと共にAldebaranの体から巨人を迎撃しているところだろう。しかしそんなことを考えていたコウタの目の前に映ったのは、予想とはまるでかけ離れた形の局面だった。
Aldebaranだった血溜まりを焼き尽くしたコウタの一撃はアルキオネにとってもアザトースにとっても驚きのものだった。
「あれが御伽噺に聞いた「オスカーの火炎」かぁ。本当にココロを焼くんだね」
「...ココロ?やいてるの?」
「焼いてる焼いてる。Aldebaranの魂が焼けて、腹の中に縛られていた乙女たちが消えていってる」
「...それってよいこと?」
「まだわかんない。でも自分的にはいいことかな」
そう言った彼女の顔は兜に隠れてわからなかったが、口元は笑ってはいなかった。アザトースにはアルキオネが何を感じているのかいまいちわからず、適当に話を合わせた。
「...そ」
「そ。それより私たちは登ってくる方を相手にしないとね多分そろそろ...」
「EEEEEEEEEEAAAAAAA!!!!」
「出たね」
叫び声と共に、瓦礫と血で構成された歪な手がアザトースたちの前に現れる。その手はアザトースたちのいる部屋の床をがっしりと掴み、部屋の中に巨体をめり込ませてくる。その姿はコンクリートの塊や鉄骨をさらに取り込み、さらに血溜まりと共有しているのかコウタの放った黒曜石が背中から棘のように生えていた。全身は血と肉片によって繋ぎ合わされ、一部が燃えている。そしてよく見ると黒曜石の背中の隙間からいくつもの血の糸が伸びていて、下に垂れていた。アザトース達からはそれは見えなかったが、その糸はビルに生えたツタのように先ほどコウタが燃やした血溜まりから伸びていた。
「Aldebaran。そうなってもまだ焼かれる気はないのか」
「.........『Budroud』」
「...やば。『薙ぎ払われた大地』」
アルキオネの短い問いかけにAldebaranは決裂を言い渡す。引き絞るように後ろに下げた右手をアザトースたちを薙ぎ払うように横に振る。その手にはアザトースのよく知る力が込められていた。アザトースは対抗して『薙ぎ払われた大地』をAldebaranの放った方向とは逆に放ち、相殺する。アルキオネもAldebaranの技に合わせて何かしようとしていたがAldebaranとアザトースの力の衝突で彼女は立っているだけで精一杯だったようだ。
本当はこんなことをしなくとも別にアザトースだけならAldebaranの程度の低い猿真似の魔術など何もせずとも無力化できるが、何もしなければアルキオネが巻き添えで死ぬ。この場におけるアルキオネの存在意義がいまいちアザトースにはわからなかったが、見捨ててはいけないだろう。何しろアザトースは神だ。
「Villllllll!」
「むりっ...!」
アザトースはAldebaranの魔術を相殺はできたが、Aldebaranの巨体の一撃を止めることはできなかった。止める方法など100は思いつくが、どれもこれも魔力が足りない。
「『連星の盾』」
ぶつかる。割れるような頭痛の中、少しでも生き残れるようギュッと身を丸めた目を瞑ったアザトースの前に半透明な六角形の盾が現れる。盾の中心にはは七色の宝玉のようなものが付けられていて、うち一つはひび割れていた。盾はAldebaranの一撃を完全に防ぎきり、それどころかAldebaranの腕を弾いた。
「......まさか食らった物質だけじゃなくて技さえも取り込むとねAldebaran。でもこの盾は何も通さない」
身構えていた衝撃が来ずアザトースが目を開けると、アザトースをAldebaranから守るようにアルキオネが立っていた。




