見上げるがいい、唾棄すべきあのアルデバランを その5
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「この脈動...Aldebaranは贅肉を削ぎ落としたようですね。陛下達に倒せると良いのですが。さて、私は私の仕事を成すとしましょうか。『緑の魔手』」
ベルモットが指揮者のように手を振るとそれに応じて何本も植物のツタが彼の足元のアスファルトを突き破って現れる。ツタはいくつもの太さの異なるものが絡み合ってできていて、鞭を連想させた。それらは意志を持つかのようこはく達に向かって襲い掛かる。
「喰らったら不味そうだが...んな馬鹿正直な攻撃喰らうかよ。お偉いさんなんだからもっと頭使えや」
「『海洋生物特徴混成付与:甲殻+触手因子』。カイザよ。同感だな。烏滸がましくも「神の父」を名乗ったのだ。それ相応のものを見せてもらわねば」
片や爆発によってツタそのものを消しとばし、片や背中から生やした甲羅に覆われた巨大な触手でツタを逆に締め上げて地面から引きちぎって対処していた。そしてカイザとサモンの二人はベルモットの方を向き、啖呵を切り返す。だがベルモットはまるで気にしていないような素振りだった。やれやれとややオーバーに頭を振って、二人に何もわかってないと言う。
「あなた達のことは別に知ったことではないんですよね。私の相手はこはく様だけですよ」
「ハァ?街に迷惑かけといてなんのつもりだオメーはよ。変な植物で道塞いで、おまけにこの俺達をどーでもいいと言い切ってオンナだけ相手にするだぁ?ダセェな」
「苦艾の神父よ。貴公が強いのは見ればわかる。だがこのサモン・サーモン、路傍の石扱いできるほど弱くはないぞ」
「...随分と曲解されているようですね。言ったでしょう?仕事だと。伝えたでしょう?使命だと。私は神父、世界の歯車。具象化された試練。ただ世界を回す存在です。故にこはく様、あなたには倒れてもらいます」
「意味わかんねぇよ...おいこはく!あのバカの与太話理解できるか.........こはく?おいこはく!?どうしたんだ!!しっかりしろ!!」
「星を食む牙」を使って暗黒空間にツタを飲み込んで消失させた後、こはくはカイザ達の方を向くことすらせずベルモットの方を向いていた。そんな彼女にカイザが近づいて話しかけても、返事が帰ってこない。いつもならカラッとしていながらも少し毒のある返答が返ってくると言うのに、彼女はこちらに背を向けたままダンマリを決め込んでいる。その様子が気になってカイザがこはく肩を掴んで話しかけると、その勢いでこはくが倒れる。彼女の顔は青く、手足の先が諤々と震えていた。目は焦点が合わず、口の端からは涎が垂れている。
「これは毒...?いやしかし一体どこで...?」
状況的にベルモットがやったのは間違いないが、その方法が一切わからない。少なくともツタではないのはわかる。サモンはツタに触手で触れていたがこはくが受けたような影響を受けた様子はない。
「ええ確かに、毒と言えば毒です。名前は...「苦味」」
「ふざけてんのか」
「全然、全く、これっぽっちもふざけてないです。......口に出すことを我々には禁じられているのですが、せっかくですし特別に教えて差し上げましょう。唾棄すべきAldebaran、そしてその使徒は我欲のままにあらゆるものを平らげます。それこそ毒さえも。ですが例外の権化たるAldebaranはともかく、「使徒」は食欲と消化能力こそ強まれど、味覚自体は大して変化しておりません。そして使徒たるこはく様は今、彼女自身の技によって私のツタを食らいました」
「道理で触れた私は問題ないわけだ。苦味...そうか、故に貴公は苦艾なのか」
「Aldebaranつーのは初耳だけどよ...毒じゃ死なねーが苦味は堪えるっつーわけか」
「ご理解いただけて助かります。ではお二人には退いていただけるとこのベルモット、始末する相手が減って大変助かるのですが」
「一応聞こう。下がればどうするというのかね?」
「先ほど説明した手段によって使徒たるこはく様の正気を破壊します。そして彼女が『人でなし』として復活できなくさせます」
「そうかよ...おいサモン!わかるよな?」
「もちろんだとも」
意味ありげに顔を見合わせ、ボソボソと話し合う二人にベルモットが再び催促をする。その声には余裕が滲み出ていた。
「お話はまとまりましたか?」
「まとまったぜ。お望みどーり下がってやんよ」
戦闘の意志がないことを示すためか、カイザは魔術書を閉じ、サモンは海洋生物特徴混成付与で展開していた背中の触手を消し去った。二人が戦いを止めることを選んだことにベルモットは動かない口角が少し上がったのを実感した。
「それはそれは素晴らしいことです。ご協力感謝します」
「苦艾の神父よ。一つ言っておかなければならないことがある」
「なんでしょうか」
二人は再び顔を見合わせて、意地悪そうな口調で二人同時に声を出す。
「「誰がテメーに従うかよ」」
その言葉とともにカイザが手元の魔導書をベルモットに投げつけて起爆する。あたりに土煙が舞い上がり、カイザとサモン、そしてこはくの姿をベルモットの目から隠す。煙が晴れた後、その場にはベルモット以外誰も存在しなかった。遠くからこちらから逃げるような足音が聞こえてくる。
「確かに私は下がって欲しいと言った。だが彼らにこはく様を置いていけとは言わなかった...随分とずる賢いことで。いいでしょう、私の使命に変わりはありません。その道に死体が二つ増えるだけです」
ベルモットは自分の脇の甘さをほんの少し笑った後、逃げた獲物を追い詰めるべく自らの力を発動した。
豆知識:「神父」は全部で七人います(いました。もしくはいることになるでしょう)。それぞれ異なる教義に属していますが、真の意味で信奉している神はたった一柱です。その神のために生まれたといっても過言ではないので。




