見上げるがいい、唾棄すべきあのアルデバランを その4
コウタがエレベイタで一階まで戻ると、地上の景色は完全に様変わりしていた。乙女によって血溜まりの範囲は広がりを見せ、幾つものビルが侵食されて赤く塗りつぶされている。広がりを見せたそれはアメーバのようにジュウジュウと音を立ててあらゆるものを溶かして...喰らっている。そしてボコボコと沸き立つ血溜まりの中心からは今も延々と乙女が湧き出していて、きっと血の池地獄に迷い込んでしまったのかととコウタに思わせた。
(やっぱそう言うことだよね)
乙女達との戦いをコウタが一人で引き受けたのは半分は計算、もう半分は個人的な感情だった。計算の方は単純なもので、アザトースは一度Aldebaranを階下に落としている。後一回吹っ飛ばすくらい簡単だろう。それにアルキオネの実力が未知数である以上、一人は残った方がいいというもの。それに比べて、感情の方はたった一つ。
(誰かのために自分を賭けるって、とってもとってもかっこいいことだと思うんです.........フッ、乙女達よ!Aldebaranにその身を捧げた英傑達よ!俺が貴女達に送るのは鎮魂歌と...溢れんばかりの敬意だ)
わざわざアルキオネが乙女とその場で名づけ、そして目の前で湧き出た乙女達が全てAldebaranの体から生えていた大量の白い腕を媒体としているのも、これはきっとそういう意味で、だからこそここでするべきは葬送なのだろう。血溜まりの中心の近くに向かい、コウタは手に握っていた焼けこげた小さな本を開いてパラパラとめくりそこに書かれた一文を朗々と読み上げる。さっきまで喋ることができなかったのに、何かに引っ張られるように読むことができた。
「『憧れと敬意は消えることはなく、煌々と燃え続ける。燃殻の試練を超え、種火は既に我が内に継がれた。最高に熱い憧憬を薪に、種火はついに大火となった』」
コウタの宣誓によって本のページが光り始め、コウタの腹の底にじんわりと熱が貯まっていく。この本...もといオスカーの祈祷書はオスカーと戦い勝利した時に得たドロップアイテムだったが、アザトースが得た強化棍と違ってこれまでの間コウタは祈祷書の使用ができなかった。何度使おうとしてもページを開くことすらできず、『想いに点火せよ』と表示されるだけだった。
(でも今なら...!)
打算も何も関係なく、自分も誰かのために迷いなく自分を差し出せる人間になりたい。ぼんやりと輪郭だけだった思いに形が生まれていく。それに応えるように体が熱くなっている。鎧を見ると、左腕全体が渦巻くような炎を纏い、さらに加熱によって白と赫に染まっている。
「『黒曜の創造:大破壊剣』!」
祈祷書をしまいこみ、魔力をいつもより多く注ぎ込んで、普段よりも硬い黒曜石製の大剣を生成する。コウタの能力の都合上、魔力を注ぎ込んで作った一つの武器を使って戦うよりも、粗製濫造ではあっても大量に作って物量で攻めた方があっているのでこの行為はいつもなら無駄だが今回ばかりは意味がある。魔力をしっかり込めて作り上げた武器でなければ、耐えきれない。コウタは右手に握った大剣の刃に燃える左手をかざし、炎を移す。大剣が赤熱して螺旋状に渦巻く炎を纏う。
「『赫曜の葬送』」
横一文字に振り抜かれたコウタの大剣から散弾のように飛び散る大量の黒曜石の燃える結晶と地面を舐め尽くすような赫と白の火炎が、乙女の生み出している血溜まり目がけて飛んでいった。
【ココロ焼ク大火】はその名の通り心、つまり魂を焼きます。なので【ココロ焼ク大火】は神の魂を傷つけられますし、それの原典とも言える祈祷書の技も同様です。デメリットとしては自分の正気度も焼く...と言うか薪にすることですかね。まぁ大したデメリットではないでしょうHAHAHA




