手を組み、炎へ向かう
コウタの雰囲気が和らいだ後、アザトースはレベルアップとは何なのか?とかアイテムの取得とはどういうことか?などいろいろな質問をした。ゲーム用語をほとんど知らないアザトースにそういったことを教える大変さは、機械音痴の老人にスマホの説明をする時のものに近かった。アザトースがわかったと言った後、コウタは説明をやり切った満足感を漂わせながら精神的疲労からだろうか、地面に座り込んだ。ちなみにコウタが一番驚いたことは初心者がいきなりシブヤに飛ばされたことだった。彼曰くこのエリアはまだ誰も攻略できていない高難度の場所らしい。
「ふぅ...いいことしたなぁ。じゃあこれでサヨナラということで、またどこかで会ったら遠慮なく質問してくださいね!」
本当にちゃんと全てわかったのか確認しているかのようにアザトースの目を見ながら腰を上げて立ちあがろうとするコウタだったが、アザトースはそれを引き止めた。
「...もひとついい?」
コウタは定時退社の時間で上司に呼び止められた会社員のような反応をした。アザトースは遠慮なく聞いてねといっていたことを忘れていなかったので手短に伝えることにした。
「......はいご」
「え?僕の背後がどうかしたんで...ああ」
「「「ゲロロロロロ...」」」
コウタが振り向くと、10匹ほどのオグハの眷属がさっきコウタによって殺されたオグハの眷属長の方を向いて合唱していた。その鳴き声は耳障りで不快な音だったが、同時に悲壮感も感じさせた。眷属たちの顔には強い戦意が浮かんでいた。仇討ちといったところだろうか。
「フッ、なるほど...このウタは眷属長への鎮魂歌というわけか...」
「...またろーるぷれい?」
「これに関してはどうか見逃してください...こうやって自分を励まさないとビビっちゃうんです...」
情けないセリフを吐きながらもコウタは背負っていた盾と大剣を素早く構え、戦闘態勢に入る。アザトース的には眷属たちの見た目は割と好みなのでビビる要素はなかったが、声のうるささは嫌だった。何というか自分の本体がいる場所で鳴っているフルートや太鼓の音を思い出すのだ。ステータスを見ると、MPも3割ほど回復している。一発くらいなら魔術も使用可能だろう。
「こいつらは僕が片付けるので下がっててください!『黒曜の...」
「...わたしにおまかせ。...『薙ぎ払われた大地』」
コウタが大剣を地面に突き刺して何らかの力を起動しようとする前に、アザトースが自身の手を魔術の名前の通りに薙ぎ払うように振るい発動する。もちろんコウタを巻き込まないような軌道でだ。そのせいで数匹ほどの眷属が残ってしまったが、それでも大半はチリも残さず消え去ることになった。アザトースは魔術の成功に確かな満足感を覚えたが、それと同時に『空間の掌握』を発動した後にもあった虚脱感も感じとった。コウタは今までの問答からアザトースのことを初心者だと思っていたため、驚きでしばらく固まってしまった。しかしすぐに落ち着きを取り戻し眷属たちを叩き切る。
ヒキガエルの声が途絶えた後、コウタは鎧を着ていることを感じさせないような機敏さでアザトースの肩を掴み、興奮した面持ちで捲し立てるように質問してきた。あの魔法は一体どの教義由来なのだと。アザトースはさっき色々と答えてもらったお礼から教えてあげたかったが、魔術はゲームの外でも使用が可能なのだ。普通のヒトに教えたりしたらニャルラトホテプに小言を言われるかもしれないし、そもそもヒトに理解できるとも限らない。そのためゲームを始めた最初からできるとごまかすことにした。そう聞くとコウタは納得していない様子だったが、追求は諦めて別の話を持ちかけてきた。
「このエリア、シブヤで僕はアナタ以外の人に会ったことがない、クリアした人もいないと言いましたよね?それはこのステージのボスが関係しているんです」
神妙そうな口調で話を始めたコウタだったが、アザトースは話の目的がまだ読めなかった。質問しようかとも思ったが、話を聞き終わってからにしようと考え直した。
「このゲーム内では各エリアによって求められるステータスの値が異なります。ここシブヤではボスが正気度を削る行動をしてくることから正気度の高さが何より重要視されています。ただ、正気度の高い人物が本当に少ないのでこのエリアは未攻略の状態が長らく続いています。」
コウタは息を呑んだあと、意を決したかのような顔でアザトースに話しかける。
「アザトースさん、もしアナタが良ければですが僕と組んでくれませんか?」
「...それがあなたのねがいなら」
アザトースは考える。神は願いを叶えてこそ神だと。
シブヤスクランブル交差点にて、少女と騎士が立っている。彼らの目の前、交差点の中心には鉄の仮面を着けた神父が一人立っている。彼は持っていた釘バットを地面に突き立てると、横断歩道を直径として炎の渦が立ち上る。それは決して逃がさないという彼の意思表示であり、闘いのリング。
『燃殻の神父 オスカーが現れました。』
VRゲームカテゴリの王がついにアニメ化&ゲーム化ですって。憧れますね。
釘バットというよりは強化クラブ




