解釈、あるいは事実
やっぱ会話劇は書くのが楽です
カルコサから自らの居城に戻ってきた後、アザトースは再びハスターの言ったことに対して思考を巡らせる。『相食む』『重なれど似姿ではない』と言ってはいたが、如何にもこうにも意味がわからない。
「陛下、ハスターの妄言でお悩みのようでしたら、私めの意見を聞いていただければと」
ニャルラトホテプはなんとなく予想がついているらしい。アルデバランや遊んでいるゲームについて全く話していないのによくわかるものだ。
「...きかせて」
「お任せください。それでは似姿云々から考察していきましょうか」
一拍間を置いてニャルラトホテプはくるりと回転して、三体に分裂する。一つはさっきまでと同じ姿の、浅黒い肌の好青年。もう一つは真紅のドレスに身を包んだ高飛車そうなお嬢様。最後の化身はガラクタをかき集めて作った人型のロボットだ。
「さて陛下、私は一体どれでしょう?」
「...ぜんぶ」
「全くもってその通りです陛下。しかしこの三つの化身全てを私が創造したわけではありません」
「...?」
「たとえばこの機械の体、『チクタクマン』と呼ばれていますが、これは元々は誰かが作ったものに私が入り込んだだけです。化身として私が作ったわけではありません。しかし多くの存在がこれを私の化身と解釈したために、私の化身として自在に生み出すことができるようになりました。まぁ下等生物を洗脳して造らせたものに入った方が楽しくはあるのですがね」
「...つまり?」
ニャルの化身達が再びくるりと一回転すると三つの化身が笑いながらドロドロになり、そこから化身が一つ現れる。いつものスーツに頭の代わりに触手がついているやつだ。
「我ら『外なる神』は強大すぎて正しく観測できる存在が自分以外ほぼいません。なので解釈しだいでどのような存在にもなりうるのですよ」
アザトースはニャルの意見を聞いてなるほどと思う。それならばゲーム内で魔力が大きく制限されていることに納得がいく。アザトースはきっとあの世界ではヒトとして解釈されているのだろう。コウタはレベルが足りない故のMP不足と言っていたが、本来のアザトースであればその程度の枷など簡単に外せるはずだ。
「...でもハスター、きゅーしはいしゃ」
「ええ、ですが彼はヨグの血をひいてますからね。どちらかといえば『外なる神』に近いです。そんな彼に非常に近い神アルデバランが何故彼そのものとならないのでしょうか?わかりますか陛下?」
「...けしんとかいしゃくできないから?」
「その通りです陛下。化身になりうる程度の情報がありながらも、同時に化身として扱われないだけの何かを混ぜ込まれているわけですね」
「...ふんふん」
「この考察と『相食むモノ』という発言、ここからアルデバランという存在は何か別のものとハスターの化身の成り損ないが混じりあって生まれたものだと解釈できます」
「...なる」
「個神的にはクトゥルフの伝承と混じりあっていたりしたら爆笑モンなんですがねぇ...。ああ陛下、これはあくまでこのニャルラトホテプの妄想にすぎないので信じすぎないことをお勧めします。もし陛下が今ヒトの化身で遊びに言っている場所を教えてくださるのであればより確実な意見を述べることが可能になりますが...」
「...いってきます」
小言、もしくは面倒臭い質問が飛んできそうな雰囲気を察したアザトースはすぐにログインして逃げ出す。もし仮にゲームのことを漏らしたら、アザトースの安全のためとか言ってそのゲームを破壊してきそうだ。意識が転送されるような感覚の中、ニャルラトホテプが「いってらっしゃいませ」と怒りのこもった声で言っていたがアザトースは考えないことにした。
「...あれ?」
「どうかしたのかね?『人でなし』のお嬢ちゃん」
目を覚ますと、アザトースは狭間駅にいた。アルキオネの前でログアウトしたのだから、そこに戻ると思っていたのだが。相変わらず邪悪な顔つきで話しかけてくるグリム神父に疑問をぶつける。
「...なんでここ?」
「何故ここにだと?ここは『人でなし』の魂が流れ着く場所だからだ。俺にはそうとしかいえない。これで満足したかね?」
なんともいえない答えが返ってきたが、別にまたイケブクロに行けばいいだけだと思い直し、グリム神父に電車を呼ぶようせがむ。
「...イケブクロいきたい」
「すぐに電車を呼ぼう。...アルデバランの方はどうなっている?」
「...アルキオネがてつだって、っていってた」
「あの女がか!随分気に入られたのだな。......そうだ、ベルモットは元気にしているかね?」
「...なぁに?それ」
「......そうか。それならいいんだ。さあ電車がきた。さっさと乗るがいい」
一人で勝手に納得して思わせぶりに話を打ち切るグリム神父に気になったが、彼は話してくれそうになかった。諦めたアザトースを乗せた電車に発進して姿が見えなくなった後、グリム神父はひとりごちる。
「ベルモット、君はまだそこにいるのか。お互い様だな」




