謁見
アルデバランの情報をアルキオネが握っているとは思っていた。しかしまさかあちらから持ちかけてくるとは。アザトースがなんと返そうか迷っている間にコウタがアルキオネに切り出した。
「フッ...なにが目的だ。女王アルキオネ。なぜそちらからわざわざ明かしてくる。そちら側は「あとぼしさま」を信仰しているのだろう?」
「自分の目的?君らとおんなじだよ?自分はアルデバランを殺したい。ただそれだけ。それ以外に自分の人生など存在しない。存在しないんだよ」
それまでどこか飄々とした雰囲気を纏っていたが、急にゾッとするような声で言葉を吐き出すアルキオネに、アザトース達三人は少し身を引いてしまう。距離を置かれた事に気がついたのか、彼女は自分の頬を揉んで表情を和らげて最初の時のにへらっとした笑顔を見せる。しかし先ほどのドロリとした声が一層いま浮かべている笑顔の恐ろしさを際立てている。
「まいいや別に。多分君たちのその顔を見るに自分がなぜ彼女を殺したいか納得していないんだね?そんじゃアザトースちゃん、アルデバランについて何をどこまで知ってる?」
「...あなた、アルデバランのまつえい。それで...アルデバランヒトたべる。あと......えっと...」
思い出せずに言葉に詰まり出すアザトースにコウタがヒソヒソと耳打ちをする。
「アルデバランは未だ神じゃないですよ」
「...そだね。アルデバランはいまだかみじゃない」
「十分知ってるみたいだね。でもちょっと古いかな?こはくちゃんわかる?」
「え?アタシ!?...アタシが知ってることは...アルデバランが最近人を食べたって話は聞いた事ないかなぁ...」
「正解!!よく知ってたねぇ〜。そう、アルデバランは人を食べていない。それは間違いないよ。...ある一族を除いてね」
アルキオネの勿体ぶった言い回しに三人の頭がこんがらがる。
「一族?一体どういう事ですかアルキオネさん?」
アルキオネが口を開く前にモトベが話し始める。
「遠い昔、一族の長はあの唾棄すべきアルデバランに願いました。食べるなら我らの一族だけにしてくれと。せめて無辜なる民すら喰らう真似だけはよしてくれと。そして陛下はその一族の生き残りです」
「アレアレ?モトベ君がそれ喋っていいんだっけ?禁じられているんじゃなかったの?」
「臨機応変というものです。それに...陛下ご自身も正確に覚えているとは思えませんので」
顔色一つ変えずに切り返してきたモトベにアルキオネはほっぺたを膨らませたが、それ以上追求する様子を見せなかった。
「フッ...なるほど。つまり、だ。女王アルキオネがその体を生贄の代わりに差し出すことでイケブクロは保たれているというわけか」
「あれ?でもでも、そしたらなんでアルキオネさんは生きてるの?死ぬまで食べないとかそういう約束?」
「...なぞ」
その言葉を口にした時、アルキオネの周りの空気が凍りつく。兜を被り俯いていた彼女の顔は見えないがきっと恐ろしい顔をしているのだろう。モトベさえもほんの僅かだが表情に恐れが見えた。
「...うん。うん。うん。気になるよね。じゃあどこから話そうかな......よし。自分はさ、ずっと食われ続けているんだ。母さんが全部食べられたその時からずっとね。最初は指先から。ポリポリといつの間にか食べられているの。」
そう言いながらアルキオネはぎゅっと手を開いたり閉じたりすると、その度にキリキリと金属同士が噛み合い動くような音が僅かに聞こえた。
「いまの自分はほとんど食べられてるんだ。体をカラクリで補ってなんとか人の体を保ってはいるけれど...」
アルキオネはそう言って口元以外を完全に隠していた兜をゆっくりと脱ぐ。その素顔は無かった。まるで大きな生き物に頭から齧り取られたかのように、鼻から上、つまり頭部の上半分が消失していた。




