ファンブル・アンド・クリティカル
料理を見て「引力」を感じたのは久々だ。目の前で湯気を立てているカレーを見てアルキオネは思う。自分にとって料理とは栄養を摂取する手段でしかない。自分が女王としての使命をもつ以上、どうしたって食事を楽しめるはずがない。それなのに「引力」を感じるということはきっと、あの唾棄すべき彼女が食らいたいと欲しているのだろう。全くもって不愉快な話だ。
「...陛下。毒見をさせていただきたく存じますが」
憂鬱な気分に浸っていると、モトベが毒味をしようと話しかけてくる。正直いって割とどうでもよかった。作っているところは注視していたのだ。毒が入っている訳がないし、仮に入っていたところで問題ではない。
「...いいよ別に。自分が毒で死ねるような体じゃないの知ってるでしょ?」
「もちろん存じておりますとも陛下。しかしですね...」
「もういいからそういうの」
普段なら意味のない毒味でも待つのだが彼女が求めているからだろうか、モトベの静止を振り切ってアルキオネはカレーをスプーンで掬い上げて口に含む。悪くない食感だと思った直後、得体の知れない甘ったるさと口の中に溶岩を流し込まれたかのような刺激が襲いかかり、そしてそのまま意識を失った。
アルキオネがカレーを食べて突然倒れた後、アザトース達は尋問のためモトベと彼の率いる衛兵達に闘技場から連れ出され、こはく曰くサンシャインビルと言う場所に連れて行かれた。
「チームこはくの皆様。あなた方がなぜ今玉座の間にいるのか、そしてなぜ手錠をつけられ衛兵に囲まれているのか理解していますか?」
「...ぜんぜん」
「フッ...微塵も」
「...いやなんとなく察してはいるけどアタシ達じゃないよ」
大きくため息をついたあと、モトベは再び話し始める。
「女王アルキオネが倒れたことはとても大きな、覆すことのできない事実です。「あとぼしさま」といえど時を遡ることはできません。我らヒトにはどうしようもないことです」
「フッ...随分と回りくどい喋り方をする男だな」
「えっそれコウタ君が言うの?」
思わぬ方向からの流れ弾をもらってフルフルと震え始めたコウタをよそに、モトベは再び話し始める。
「ハァ...では単刀直入に。貴方達には罰を受けていただきます」
「ちょっと!!アタシ達じゃないっていってるじゃん!!」
こはくが憤慨して抗議するも、モトベは聞く耳を持たない。その顔は能面のようで、一切の感情が見えなかった。
「そんなことはどうでも良いことなので。ではよくお聞きなさい。あなた方への罰は「なしだよ」......おや陛下。お目覚めになられましたか」
玉座の間にアルキオネの明るい声が響きわたる。いつの間にか玉座に座っていた彼女は立ち上がり、アザトース達のいる場所までガシャガシャと音を立てて歩いてきた。アザトースはアルキオネの足音がコウタやこはくと違う気がしたが、きっと鎧を着ているからだろうと思ってすぐに忘れた。
「モトベ君?であってるよね?自分的にはとりあえず犯人を作って吊し上げて解決〜って良くないと思うよ?」
「私はこれがアルキオネ様のお悩みを取り除くのに最も適した方法だと確信しておりますので」
「そのせいで新しい悩みが生まれるから次から禁止ね」
「...仰せのままに」
慇懃に礼をするモトベを見てうんうんと頷きながら、アルキオネはアザトースの目の前までやってくる。彼女は衛兵達に命じてアザトース達を縛る手錠を外させた後、手で追い払った。残ったのはアザトース達三人とアルキオネにモトベだけだった。玉座の間の人払いが済んだ後、彼女がニコニコと笑いながらアザトースに話しかけてきた。
「ええっと確か...サクサクルースちゃんでいいよね?」
「...アザトース」
「ごめんごめん。自分頭空っぽなもんで...それでさアザトースちゃん。何をしたのかわからないけど、あの味は多分君だよね?」
「...おいしかった?」
「いや不味かった。すんごい不味かった」
予想外の言葉で鳩が豆鉄砲を食らったような顔をするアザトースを見て、悪戯っ子のような笑みを浮かべてアルキオネは話を続ける。
「そう、あんまりにも不味かったおかげで彼女が少し吐き戻したんだよ。ザマーミロだ...そうだ、彼女が誰かって言わないとだね」
そこで言葉を切って、アルキオネは一拍置いてから再び話し出す。
「アルデバランといえばわかるよね?」
この章の折り返しにつきました。こっから物語が加速する...はずです




