貫け、牡牛の心臓 その4
牛闘鬼の突撃を受け止めるべく、コウタは剣を投げ捨てて両手で盾を杭のように地面に突き刺して構える。腰を落とし、片足を後ろに引いてさらに魔法によって壁を生成して衝撃に備える。
「『黒曜の城壁:三連!!』」
コウタの前に生成された黒曜の壁全てを牛闘鬼はものともせずに突き破る。突進の勢いは弱まるどころかむしろさらに強くなっているように見えた。そして間髪入れずにコウタの黒い大盾と凄まじい音を立てて衝突する。凄まじい衝撃が体を襲い、受け止めはしたがそれでも牛闘鬼の人間を遥かに超えた膂力でコウタが踏ん張っていてもズルズルと後ろに押し出されてしまう。
「クソッッ...!『黒曜の爪』!」
コウタの足元から牛闘鬼の腹を目がけて黒曜石の鋭い柱が伸びる。牛闘鬼の強靭な皮膚によって腹を貫通することはなかったものの、それでも突然の腹部への衝撃で牛闘鬼の足が止まる。その隙をついてさらに『黒曜の爪』を打ち込むことでコウタは牛闘鬼の体を完全に固定した。
「オイオイオイオイすげーなあの野郎!牛闘鬼の突進を受け切りやがった...!」
「......そこの。あいてはわたし」
コウタと牛闘鬼の真っ向勝負を側から見ていたカイザの目の前に、確かアザトースと呼ばれていた隻腕の少女が一人現れる。蜘蛛の巣の刺繍のなされた黒いマントとウサギの被り物がなんともミスマッチだった。珍妙な格好のガキだが、つい先ほどまで牛闘鬼をおもちゃのようにあしらっていた『人でなし』だ。その体にはごくわずかな魔力しかないにもかかわらず、魔法であの巨体を軽々投げ飛ばしていた。もしその場で魔法を使ったのなら、明らかにコストとリターンが釣り合っていない。この『人でなし』の少女も牛闘鬼の突進を受け切り、カイザの魔術で傷つかない強靭さのコウタと同じく化け物だ。そんな存在が自分の方を向いていて、しかも自分と戦うつもりだという。本職は料理人とはいえ、優れた魔法使いでもある分彼女の危険性をよくわかってしまう。それでも牡牛の心臓に出場した以上、無様に逃げるのは自分のプライドが許さない。
「......悪いが火加減は出来ねぇぞ」
アザトースは首を傾げてしばし考え込む素振りをする。自分を前にして随分と余裕があるようだとカイザは心の中で少しばかり嫌味混じりに笑ってしまう。
「...ねぇ」
「なんだ?」
「...「ひかげん」ちがう。「てかげん」がただしい」
「......ウルセェ」




