貫け、牡牛の心臓 その1
悲鳴が収まったのを見計らって、笑うのをやめてアルキオネは再び口を開く。
「じゃあそろそろいいかな?モトベ君、あとはよろしくね?」
「仰せのままに。......ではこれより牡牛の心臓開催です!」
モトベの声と共に牛闘鬼を縛り付ける鎖が霞のように消えてなくなると、牛闘鬼は五人の参加者達を睨みつけ鼻から勢いよく蒸気を噴き出し雄叫びを上げる。牛闘鬼を前にして五人の参加者達はそれぞれ構える。カイザは魔導書らしきものを取り出して片手で持ち、サモンは二本の包丁を逆手に持って腰を落とした姿勢をとる。こはくは自前の鉈を切れ味を確認するかのように眺め、コウタは普段通りに大剣と大盾を構える。そしてアザトースはだらりと手を下ろしたまま、静かに魔術を起動する。
「...『脳の接続』」
「アザトースさん?...フッ...任せろ」
「わわ!?......おけおけ☆」
『人でなし』達の不可解な発言に一瞬引っ掛かりを覚えるカイザとサモンだったが、目の前の脅威に対応すべく思考から弾き出す。5人と一匹の間の空気が張り詰め、観客たちも息を潜める。呼吸も瞬きも許されないような緊張感の中、初めに動いたのは牛闘鬼だった。両手を握りしめ、助走をつけて突進してくる。しかし牛闘鬼が突進してくる前に二つの衝撃音が響き渡る。
「なんのつもりだ『人でなし』っ...」
「シャーケッケッケ!そういうの、嫌いじゃないぞ。だが一応聞こう。なんのつもりだね?」
大きくその場から飛び退いたカイザの足元には黒曜石の大剣が振り下ろされて大きなクレーターを生み出され、サモンの頭蓋を叩き割るように振り下ろされたこはくの鉈はサモンの二本の包丁に防がれて澄んだ金属音を響かせた。
「フッ...単純な話だ太陽のカイザよ。単純にお前らを戦闘不能にする方が料理で戦うよりずっと楽だ」
「牛さんの料理でバトるよりも、シャケ君達を倒した方が早くねってことだよ☆」
一人は気取った口調で、もう一人は楽しげな口調でそれぞれの疑念に答える。貴賓席から『人でなし』の行動を見たアルキオネは笑っていた。
「...俺を潰そーとすんのは別にいい。俺が優れてんのは事実だからな。だがよ、一つ忘れてんじゃないのかバカナイト」
「忘れている?」
「牛闘鬼のヤローはどうすんだよ。ウサギの嬢ちゃん一人で相手できるようなやつじゃねーぞ」
カイザにとって先に相手を戦闘不能にして脱落させようとしてくるのは別に問題ではない。牡牛の心臓のルールそのものであるアルキオネが何も言わないのだ。カイザとサモンにそれぞれ騎士と虎の姉ちゃんを当てるのも納得がいく。あの二人は『人でなし』三人組の中でもカイザと戦える程度の力を感じ取った。だからこそ牛闘鬼にウサギの嬢ちゃんをあてがうことは納得いかない。彼女からは本当に弱い魔力しか感じ取れなかった。牛闘鬼と戦うことなど出来はしないだろう。『人でなし』だから死なないとはいえ死なれたら後味が悪い。
「フッ...その必要はないぞ。愚かコック」
「アァ?今なんつったテメー」
「必要ない、と言った。なぜなら...」
「...そらす。『ねじれた空間』」
「驚きです!!まさか!チーム琥珀のウサギの少女が!あの牛闘鬼の巨体を!奇妙な技で投げ飛ばしましたぁぁ!!」
「アザトースさんは強いですから」




