それぞれの心持ち
カラカラと笑いながら牛闘鬼を指差すアルキオネを見て、カイザは少しばかりの苛立ちと、そして胸の苦しさを覚える。自分がガキの頃から変わらない笑みを浮かべて、まるで苦しそうなところなんて一つもないようなナメた態度で振る舞うその姿に。
「気に入らねぇな」
誰に聞かせるわけでも誰に向けていったわけでもない、意図せずに口からこぼれた一言だったが聞き取った男がいた。男というよりオスかもしれないが。
「シャーケッケッケ!わかる、実にわかるぞその気持ち。貴公、あの『人でなし』に憤慨しているのだろう?」
「キメェ笑い方のシャケ野郎に話しかけられる筋合いはねーよ」
見当違いの推測で自分を知った気になっているサモンとかいう変態をカイザは鼻で笑ったが、カイザが『人でなし』達になんとも言えない感情を抱いていることは事実だった。ただの人間が牡牛の心臓に参加するには修練を積み、その名を知られるようになる必要がある。だが『人でなし』はそのようなものを必要とせず、名簿に名前を書くだけで参加できる。カイザは『人でなし』だけが理由もなく優遇される現状に納得していなかった。
「貴公、大丈夫か?ちゃんと良き友がいるか?」
「うるせーよ。自分の心配しろ」
なぜか自分に突っかかってくるシャケ野郎を適当にあしらって、牛闘鬼の方を向く。太い鎖で縛られていてもその危険性と暴力性がヒシヒシと伝わってくる。自分もこれまで鍛え続けていたがあの化け物を絶対に倒せるかどうかは正直なところわからない。牛闘鬼が出てきたことはこれまでの牡牛の心臓において殆どなく、カイザが知る限りでは去年に『人でなし』が久々に参加した時以来だ。あの時は確か参加した『人でなし』は牛闘鬼にすり潰されていた。三人組の内、ゴツい騎士は牛闘鬼を相手取っても大丈夫そうだが、虎の姉ちゃんとウサギの嬢ちゃんは戦えるのだろうか?カイザの見立てでは彼女達が料理を担当して、あの騎士が牛闘鬼と殴り合うといったところだろう。どちらも武器を持っているとはいえ、力があるようには見えはしない。
「いざとなったら助けてやるか...」
牛闘鬼の登場に驚いたのか少し固まっているアザトースを見て、コウタはアザトースがこの料理大会の趣旨を知らなかったことに今更ながら気づいた。てっきり説明したとばかり思っていたが、もしかして自分がアザトースに伝えていなかったのだろうか。説明しようと近づいた矢先、アザトースがコウタの方に顔を向けて口を開いた。その顔は無表情ながらも自信が浮き出ていた。
「...コウタ、わかった」
「何がです?」
「りょうりはぎしき。でしょ?」
アザトースは食材を買ってきた時は料理とはなんなのかいまいちわかっていなかったが、牛闘鬼が現れたとき全てを理解した。心臓を生贄の獣から奪い去り、そして捧げる。これは儀式だ。いつもはニャルラトホテプから捧げ物を受け取る側だが、渡す側というのも悪くない。
「ふふ...ささげるがわはじめて。たのしみ」
「コウタくん、もしかしてアーちゃんって結構やばかったりする?」
「...まぁ色々とズレているのは確かですね」




