にげ
ほんと遅くなって申し訳ないです
追う立場になったことはあるが追われる立場になるのは初めてだ。そう思いながらアザトースは後ろから欲で目が眩みきった商人の集団から逃げていた。『脳の接続』の効果で伸びた糸を頼りに路地を駆け抜け、コウタが隠れている場所まで戻る。
「お帰りなさいアザトースさん。お金の件はどうなりました.......何しでかしたんですかぁ!?」
凄まじい形相の商人達から逃げるように戻ってくるアザトースを見てコウタは思わず叫んでしまう。とにかく津波のように押し寄せる商人をどうにかせねば。そう考えてコウタは魔法を発動する。
「何はともあれ...『黒曜の城壁』!」
アザトースがコウタのすぐそばで走ってきたタイミングで彼が地面に手をあてると、そこから黒曜石でできた分厚い壁が迫り上がってくる。それは狭い道を完全に遮断して、商人達の動きを完全に止めた。壁の向こうから商人達の声が聞こえたが、怒鳴り声ではなく猫撫で声で出てくるよう促す声がほとんどだったのが気になった。彼らの地雷をアザトースが盛大に踏み抜いて怒らせたのかと思ったが、何かが違う。
「とにかくここから離れましょう!」
「...おー」
その言葉を皮切りとしてコウタはアザトースに事情を聞きながら走り出した。
「...僕の中でゲームバランスという言葉が崩壊しましたがとりあえず状況はわかりました。これに関しては僕が初めにお金を渡さなかったのが悪いです。ごめんなさい」
「...いいよ」
「それにしても「神隠し」ですか。アルデバラン絡みだとは思いますけれど、アザトースさんの体を見ての発言ならそういうことになりますよね...」
「......そだね」
正直そういうことがどういうことなのかわかっていなかったが、アザトースはわかっていないと思われるのも少し嫌だったので知ったかぶりをしていた。そうして話をしながらコウタについていくと、いわゆる教会についた。この町の他の廃墟とは建築様式が明らかに違って、石を積み重ねて作られていて重厚感があった。慣れた様子で入るコウタに続くと、幾つもの長椅子が並び奥にはステンドグラスを背にして教壇が置かれていた。長椅子にはまばらであるがヒトがアザトース達に背を向ける形で何人か座っていて、その中には蜂蜜色の髪をたなびかせた女性もいた。女性はヒトが入って来た気配に気づいて後ろを振り向くと、アザトース達に手を振った。
「やほやほ☆アーちゃんにコウタくん!」
「先についていたんですね」
「...こーはく」
「歌合戦じゃなくてこはくだよ☆」
こはくはその言葉と共にアザトースに近づいて抱きつく。彼女のことは嫌いではなかったが、スキンシップはアザトース的には好きではなかった。なんといえばいいのかわからないが背中がゾワゾワするような感覚がするのだ。押し出すようにしてこはくを自分の体から引き剥がすと、彼女は少し名残惜しそうな顔をしていたが素直に離れてくれた。それを見計らうようにコウタが話を切り出す。
「予約の方はどうでしたか?」
「予約は完璧☆なんだけどね...」
少し言いにくそうにするこはくにアザトース達は首をかしげる。予約が完璧ならばなんの問題もないはずだ。とりあえず二人はこはくに続きを促した。
「予約が済んでから気づいたんだけど...料理大会の開催日が今日の昼からなの」




