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最悪の邪神がログインしました。  作者: 歯車ぐるり
見上げるがいい、唾棄すべきあのアルデバランを:上
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昏き繭の中、その神は確かに「滅び」を呼んだ その2

『あなたは大いなる蜘蛛神を見た』


『......SANの減少が発生しませんでした』


 幸運なことに、SANの減少による弱体化(デバフ)どころか、そもそもSANの減少が今回はないらしい。オスカーと戦った時のような目眩の中戦わなくてよかった。そう思いながらアンドレの方を見ると、彼は神であるアトラを見てしまったためか少し顔が青ざめ体も震えていたが、戦うことはできそうだった。それならばとアザトースは小手調べを兼ねて魔術を発動する。強化棍をポーチにしまい、左手をアトラの方に向けて握りしめる。オスカーのように避けられるだろうが、それでも多少の手傷を負わせることができるかもしれない。


「...『空間の掌握(ギガスルキア)』」


 アトラの周りの空間が歪み、彼女に握りつぶすかのように強烈な力が加わる。混沌そのものであるアザトースの魔術を耐え抜けるものなどこの世にほとんど存在せず、少なくともゲーム内の神如きが耐えられるはずもない。順当に魔術が発動しているのだから、アトラは確実に、間違いなく、絶対に肉塊と成り果てて血と臓物を辺りに撒き散らして死ぬはずだ。死ぬはずなのだ。


「...........うそ」


 アトラは全身をブルブルと震わせて握りつぶされることに抵抗している。体の表面に奇妙な文字が浮かび上がり、アザトースの魔術を阻害している。ゲーム内の一存在ごときが魔術に耐性をもっているという理解できない現実にアザトースの意識が乱れ、魔術が中断される。体験したことのない重圧から解放されたアトラは、目も鼻も口もない顔で怒りを表現していた。その体に刺青のように浮かぶ文字列が一層その恐ろしさを引き立てていた。

 アザトースが現状が理解できずに混乱している中、アトラが右腕を掲げるとシュルシュルと何も無いところから出てきた白い糸が伸びていき、彼女の右手を起点として撚り合わされていく。ねばねばとした糸が絡み合い、より太く固まりついには長い薙刀のようになる。そしてにアトラは目の前にいる不遜な小娘に向かって生み出した得物を勢いよく振り下ろそうとする。憤怒が込められたその一撃は鋭さと重さを兼ね備えていて、アザトースの脳みそを繭の塔(コクーン・タワー)にばら撒くには十分な威力だったが、そうなる前に破裂するような音が部屋中に響き渡り何かが凄まじい勢いで飛んできてアトラのヒトの部分の右肩を貫いた。アトラは意識外からの痛みと爆音に驚き、自分の右肩を撃ち抜いたナニカが飛んできた方向を向く。そこではアンドレが奇妙な鉄の筒を抱えるようにしてアトラに向けていた。筒には握りがついていて、筒の先端からは煙が漏れていた。


「ド頭ブチ抜いてやるつもりだったんだがな......ボケっとするな嬢ちゃん!こっちに来い!!」


 アンドレの言葉でアザトースは弾かれたようにアトラに背を向けて、アンドレのいる場所まで全力で走り出す。本体であればこの程度の距離なら光より早く着くことができるというのに、思うように進めないひ弱な肉体が酷く恨めしかった。逃げている間にアトラが追いかけてくるのでは無いかと心配だったが、彼女の方を振り向いた時に追いかけてこなかった理由が明らかになる。


「奴さんめ、銃(ジュウ)がそんなに怖いか」


「......かたそう」


 糸を用いて薙刀を作り出した時と同じ要領でアトラは鎧を生み出していた。蜘蛛の部分も含んだ全身が完全に覆われていて地肌が見える部分がない。関節部分も伸縮性のある糸で包まれていた。弾丸の装填が完了したアンドレが鎧を纏ったアトラにもう一度銃(ジュウ)と呼んでいた物でアトラの頭部を狙い撃つと、ガインという音と共に弾かれる。舌打ちした後アンドレは銃(ジュウ)を背嚢に仕舞い込み、狩人と戦うときに使っていたハンマーを取り出す。アザトースも強化棍を取り出して構える。


「嬢ちゃん、1分時間稼ぎはできるか?」


「...それをあなたがのぞむなら」


 最も優れた力を持つ神であるアザトースがヒトの願いを叶えられないなどということはあってはいけない。きっちり1分時間を稼いで見せよう。そう考えたアザトースは「なぜゲームの敵にすぎないアトラが魔術に対する対抗手段をもっているのか」という疑問を今は打ち捨てて、強化棍を片手で強く握りしめてアトラに向かって殴りかかった。

ジュウはシンジュク地下でアンドレが穴掘りしていた時に、コンクリの中に埋め込まれていた死体がもっていたものを彼が独自に再現したものです。火薬の代わりに彼の呪術で発生させられる炎を用いています。

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