どっきり
前回、今週は投稿できそうもないと言いましたが、何とかなるものですね
スーパー鍛冶屋ことアンドレと出会った後、アザトースはアンドレにおぶられてシンジュク地下を進んでいた。アザトースの左腕が欠けているのを見るやいなや、アンドレがアザトースを自分のアジトへ連れていくと言い出したからだ。このまま地下で先の見えないままぼうっとしているよりは、提案に乗る方がずっとマシだったので大人しく付いていくことにした。とは言え歩いて付いていくのではなく背中におぶられたのはアザトースには予想外だった。そんなに左腕がないことが驚くことなのか。アンドレの背中で揺られる中、アザトースはいい加減左手のことでとやかく言われないように何かするべきだと考えていた。
5分ほど入り組んだ地下を進んでいってたどり着いた場所は、廃テナントを改造して作ったような鍛冶場だった。アザトースがあたりを見渡すと部屋の奥の方には金床や火の炉などの鍛治道具があり、アザトース達の近くには簡易的なベットにテーブルと何組かの椅子、さらに食料が保存された壺や水瓶などがおいてあった。アンドレの言っていた通り、確かにアジトと行った感じだった。
アンドレはアザトースを椅子の上におろし、コップに水を注いで渡してきた。渡された水を飲み干すと、彼はアザトースに親が子供に言い聞かせるような口調で話しかけてきた。
「嬢ちゃん、こんなところで、しかも怪我した体で何してたんだ。ここは蜘蛛の街シンジュク、人が住んでいい土地じゃねぇぞ」
「...くも?」
「ああそうだ。この街の地上にはな、人間並の大きさの蜘蛛がウジャウジャといるんだぜ」
「...シブヤのひきがえるみたい」
「オグハの眷属のことか、随分と物知りな嬢ちゃんだなオイ。だけど嬢ちゃんみたいなちびっ子がシブヤなんて行っちゃダメだぜ?ペロリと奴らに食われらぁ」
「......む」
ナメられている。いや、もっと正確に言えば子供扱いされている。どうにかしてアンドレの認識を改めさせたいと思ったアザトースだったが、なかなかいい方法を思いつかなかった。魔術を使おうと考えたが、アンドレを驚かせそうな魔術を使えば最後、アンドレが消し飛んでしまう。目の前にあのヒキガエルがいれば殺してアザトースの強さを証明できるのに...そう考えた時アザトースの頭に天啓が降りてきた。天の上の存在に天啓が降りるというのも変な話であるが。
「...ふふふ。みててね。えいっ」
「嬢ちゃん急にどうした............ってマジかいな」
アザトースが黄色のポーチの中に手を突っ込んでゴソゴソと動かしていたのを微笑ましい顔つきで見ていたアンドレだが、アザトースがポーチから取り出した物が目に入るとその顔つきが大きく変わった。ドスンと重そうな音を立ててテーブルの上に置かれたそれは、皮を剥ぎ取られた巨大なカエルの足だった。
「...わたし、たおしたの」
「こりゃ驚いた......左手の腫れがねぇからわからなかったが嬢ちゃん、もしかして『人でなし』か?」
「...ざっつらいと。........そうだ、グリムしんぷしってる?」
グリム神父の名前を出した途端明らかにアンドレのアザトースを見る目が変わったことにアザトースは満足する。最初の子供扱いするような様子は消え去り、アンドレの態度は完全にアザトースがそれなりの力を持っていることを信用しているようだった。
「そうかいそうかい。アイツからの紹介ならそれはいいことだ。なぁ、嬢ちゃんは『人でなし』で、しかもここにいるつーことはよ、繭の塔の神に挑みに来たんだろう?だったら武器の一つや二つ鍛えたほうがいいんじゃねぇか?」
そういうとアンドレはまた初めて会った時のような笑みを浮かべ奥の鍛冶場に案内した。