かじ
「鍛治で一番大事なのは炎だ。だから鍛冶が生業の奴らはみんな「ヒノロ様」を信じてる。ヒノロ様が持っている種火こそが武器に力を宿すんだとな」
鍛冶場に着くとアンドレは武器や甲冑が置かれているスペースから綺麗に折り畳まれた黒い布を取り出すと、アザトースに投げて渡してきた。何かと思って受け渡されたものを広げると何の変哲もないマントだった。装飾の類が一切ない簡素な物だが、肌触りが妙に良くアザトースは気に入った。
蜘蛛のマント
アトラの落とし子達が吐いた糸を彼らの肝を潰して出来る染料で染め上げて作った黒いマント。落とし子の吐く毒を防ぎ、耐刃性も非常に高い。シンジュクの大地を歩き回るには必須と言えよう。
説明文を読んだアザトースだったが早速知らない名前が出てきたので、その名前の持ち主に何となく予想はついていたが一応アンドレに聞くことにした。
「...あとらのおとしごってなに」
「何って嬢ちゃん、アレだよほら、地上の蜘蛛のことだよ。あいつらは毒を吐きやがるからな。そいつがないとあっという間に死んじまう」
「...せんきゅ」
アンドレは照れ臭そうに鼻を擦ると、アザトースに鍛えたい武器を聞いてきた。これといって使いたい武器のなかったアザトースはオスカーを倒して手にした釘バットをポーチから取り出して渡した。アンドレは穴が開くほどアザトースの釘バットを見た後、最初に漏らしたのは感嘆のため息だった。
「これはいいものだ...こんなアホみたいな見た目してるくせに中々の力を秘めてやがる......」
「......そうなの?」
コウタの時と同じように、しかしコウタよりも饒舌にアンドレはこの武器の性能をアザトースに解説してきた。話の中でアザトースの興味を引いたのはこの武器はほとんど完成している、ということだ。アンドレ曰く武器というものは長い間使い続けると何らかの力を持つ。この武器の使用歴は相当長く、100年200年はくだらない。そのためこれ以上強化できないほどに強化されている。したがってやることはこの武器を起こすことだ。言い終わるとアンドレは借りた釘バットを金床の上に置き、手にしたハンマーで釘バットの釘の刺さった部分を思い切り殴りつけた。鈍い音が止んだ後、アンドレがアザトースの方を向き、楽しそうな顔で話してくる。
「同じことをしたやつは大体「壊れたらどうしてくれるんだ!」とか言うんだけどな...驚かねぇのか嬢ちゃん?」
「...おどろかない」
アザトースにとってその心配はなかった。最初の説明で「起こす」といっていた以上、ああいった方法になるのは何となく予想していた。そしてもう一つ理由がある。
「......それでこわれるならわたしのぶきしっかく」
「良い考えだ」
アザトースの言葉に共感したのかアンドレが頷くと同様に釘バットを叩き始める。叩く角度や強さを何度も調整しながら叩き続けること数時間。その間アザトースは近くにあった椅子の上で眠ってはいけないと思いつつも軽くウトウトとしていた。
「出来たぜ嬢ちゃん!」
「.........ほんとだ」
オスカーの強化棍+
燃殻の神父 オスカーが用いていた一本の奇妙な棍棒。先端に紅い布が巻かれその上から釘が打ち込まれている。獣のような皮膚の晒した生き物には悍ましい苦痛を与え出血を強いることができるが、鎧を着込んだ相手にはその効果は薄くなるだろう。
鍛冶屋アンドレの手によってかつての力の残滓が蘇っている。
【特殊効果】
《燃殻の炎》:持ち手を強く握りしめることで布が巻かれた部分を芯として炎が発生する。神炎には程遠いが、棍棒の一撃と合わせれば十分な威力となるだろう。
《虚の器》:殺した相手の魂の一部を棍棒の中に自動的に溜め込むことができる。魂とは魔力の根源であり、それを溜め込むということは魔力を蓄えると同義である。またこの武器は既に器となっているので、神の魂を所持しているのならば■■■■に進化させることができる。
アンドレから釘バット、もといオスカーの強化棍+を受け取りその性能を確かめると、《虚の器》が懸念事項の一つだったMP不足を解消してくれるので、アザトース自身とかなり相性がいいことに気づく。良いものを手に入れたとアザトースの気分が良くなり、試しに何度か素振りしてみたが片腕でも十分振り回せる。炎を出す効果の方も最初は必要ないと思ったが、MPの消費がないとすれば話は別だ。アンドレのもたらした結果に満足したアザトースは早速繭の塔に向かうことにした。




